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第三十二作戦:悪の組織もパワーアップしたい

「ふぅ…今日は絶好の休日日和だな。」


蝶々は珍しく完全オフを取得し、優雅に街中を散策していた。


「変人たちに振り回されない日…実に良い」


パンドラたちの奇行に頭を悩ませる心配のない今日は、蝶々に

とって最高の休日だろう。


目的地は市内で評判のブティック「プリンセス・ローズ」。

そこはおしゃれな大人向けの店で、高級感漂う服が所狭しと並べられている。


「これがトレンドなのか…ふむ」


『蝶々ちゃんは、女の子なんだから…これ着た方がいいよ』

『蝶々ちゃんは、女の子だから口調ももっと柔らかくっ』『蝶々ちゃんは女の子――ー』

という声が頭の中にフラッシュバックしてくる。


蝶々は一着のスリットドレスを眺めながら小さく苦い笑みをこぼした。


「サーカスの衣装と比べてずいぶん上品…だが…私には似合わないな…」


他の顧客が蝶々に気づき、「ねぇ…あの人かっこよくない?」「彼女さんのプレゼント見てるのかしら…?」「俳優さんかしら?」と噂しながらも距離を置いて見守っている。


蝶々は気付かなかったのか、その優雅な雰囲気で街中のカフェに足を運び、カプチーノを楽しむのであった。




―――




その一方、残された怪人幹部たちは蝶々がいない中、会議という名の世間話をしていた。


「はぁ♥…蝶々様と1日会えないというだけで、わたくしの心は壊れそう…♥」


「ねぇ。マスク・ド・ドラゴン。あいつどんどん強くなってない?」


いつものパンドラを無視するようにエルがテーブルに身を乗り出しながら言う。


パンドラは指先で紅茶のカップを回しながら眉をひそめた。


「…それは正義のヒーロー特有のご都合主義というやつでしょう…?」


「そうだとしても…よっ!マスク・ド・ドラゴンが強くなるなら

アタシたちも強くなれば良いじゃないっ!」


「…また…出た。エルの思い付き…面倒くさい…」


机をたたきながら、エルは声を張り上げると、アールはそれに飽きれている。


テーブルの上には幹部たちが持ち寄った資料やレポートが散らばっている。


アンカーは足を組み、エルの発言に珍しく真剣な表情を向けた。


「まあ、うちもその意見には同意やけどな。ヒーローばっかり目立つのは腹立つわぁ。

うちら悪の組織だって目立ちたいんやっ」


「…それで…?具体的にどうすればパワーアップするのかしら…?」


パンドラが蝶々の私物をさわりながら尋ねる。


「そう…それを今から考えるのよっ…えっと………

アール!何かアイディア出しなさいよ!」


「…えぇ…またボク…?あ、悪の組織なら何か機械で体を改造するとか、怪しい飲み物を飲むとか…?」


「もぐ…飲み物ならピエラちゃん、飲みたいのだっ!興味あるのだっ!」


「飲み物系は却下よ。…この世で一番信じられないものが、『飲めば〇〇になる』系の商品なの…ダイエットに効果あるって買ったのに効果なかったし…」


パンドラが真っ先に反論する。


するとアンカーがニヤリとしながら口を開いた。


「でも、強さに限らず、そういう飲み物で別の効果出るんちゃう?ほら、たとえば美しくなれるとか?」


「わたくしの美しさはカンストしているから、無駄よ。美しくなれる

薬なんて無駄無駄」


パンドラが手を振り上げるが、エルは無視してアンカーの話に食いつく。


「美しくなれる飲み物あるのっ…?教えなさいよ。アンカー!

隠したってムダなんだからっ!」


「いや例えばって言うたやろ…それに飲むだけで美しくなれるならみんなやっとるわ…」


「なーんだ…」


「あと強くなる王道の方法と言えば…やっぱトレーニングやろなぁ…」


「…えぇ…ボ、ボク…泥くさいのは…イヤ、だな…

正義のヒーローみたいで…」


「うわ…面倒くさっ…。」


エル、アールは眉をひそめてすぐに否定する。


「面倒でもなんでも、強くなりたいんやろ?ほんなら泥臭くやってくしかあらへんやん…?そんで、うちが尻尾で指導したらもっと効率が上がるはずやろ…?」


「それ…尻尾でアタシたちを打ちたいだけでしょ…?」


「ほんと…ドSの性格してるわね…変態で嫌になるわ…」


「…い、いや…パンドラも…十分…」


尻尾を見せるアンカーの顔にエル、アール、パンドラは眉を顰める。


「悪の組織と言えば…科学!科学の力を借りるべきね!

例えば、改造手術で改造するとか…アンカー…あなたの尻尾を機械化しなさい」


「改造手術…なぁ…うち…自分の体改造するんや…イヤやわ…

メカの体じゃ、打つ打たれる快感が得られへんやんっ!そういうパンドラが

改造すればええやろ…?」


「機械化した姿のわたくしなんて美しくないわっ…それに機械化したら蝶々様からの

愛を受け止めきれないじゃないっ!


「機械化…面白いじゃない!…アール、やるわよっ」


「…機械化って…それだけが…やるの?」


「え…?」


「機械に詳しい人…ここにいないでしょ…?」


ピエラは食事に夢中で気づいていないが、残る幹部は頭を縦に振る。


様々な案が出てきたが、結局。パワーアップの話は有耶無耶になり

会議は終わった。




―――



そんなバタバタした幹部たちの前に、満喫した表情で蝶々が帰還する。


「蝶々様♥お帰りなさいませぇ…♥さぁ、おかえりなさいのキッスをぉ…♥

んぅぅぅっ♥…あぶぅっ!?」


唇を突く出すパンドラに買ってきたお菓子の箱をぶち込むと幹部たちに

視線を移す。


「ふぅ…リフレッシュは大事だな…。土産だ…ここにあるの好きに食べろ…」


「たこ焼きや!蝶々はん、おおきにぃっ」


「お菓子っお菓子っ…♪」


「…お肉…えへ…」


「食べ物なのだっ!」


お菓子、お肉、様々な食べものが机に置かれると声を上げながら群がる怪人たち。


『グルッ♪』


「お~よしよし…」


部屋の隅で眠っていたサンダーは、蝶々が近づくと体をゴロンと回転させ

お腹を見せる。


それを見た蝶々は口元が緩み、サンダーを撫でまわす。


「あぁ…サンダーったら…羨ましいぃ♥蝶々様♥どうぞ!」


「……」


「わたくしのお腹を撫でまわして下さい♥…さぁ♥

よろしければ、お腹より下を…

あ、蝶々様…なぜ足を振り上げているんでしょう――っ」


お腹を見せるパンドラを無言で見る蝶々は彼女の腹部目掛けて足を振り下ろす。


蹴りは彼女の腹部に命中すると体が真っ二つに吹き飛んでいった。





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