第三十作戦:暴走する会議と竜に迫る悪意ない敵
「集まったな」
「はっ」と一糸乱れぬ返事に蝶々は満足げに頷く。
最初は、それぞれが勝手な行動でまともな会議ができなかったなと懐かしむ。
黒井市での怪人騒動をきっかけに、不死鳥の羽とマスク・ド・ドラゴンの対立は日に日に激化していた。
カラス怪人を境に新たな怪人が現れるようになった。
マスク・ド・ドラゴンが怪人たちとの戦闘を通じてパワーアップした姿をある程度制御できるようになったという報告もあり、組織にとっては深刻な脅威となりつつあった。
蝶々は問題を重く見て、幹部全員を集めて会議を開くことにした。
会議室には蝶々のほか、綺麗な姿勢で座るパンドラ、飴を舐めているアンカー、バタバタ、静かに座るエルとアール、そして何か食べているピエラが勢揃いしている。
「さて、状況を整理しよう。」
蝶々が机に肘をつきながら言った。
「このままでは不死鳥の羽の勢力拡大に支障が出かねない。
マスク・ド・ドラゴンの動向について情報共有が必要だ。」
その言葉に、真っ先に反応したのはパンドラだった。
上品な雰囲気から、うっとりした声を漏らす。
「蝶々さま、その厳格な声も麗しいですが、次は蝶々様が
無防備なお姿を拝める作戦を提案したいですわ…♥」
蝶々の眉間に深いシワが寄る。
「話の腰を折るな、パンドラ。」
「やはり…寝ている時が一番無防備かもしれませんわ♥
…じゅる♥寝ている蝶々様の隣に寝て、大人の階――ー」
蝶々が投げた鉄扇はパンドラの頭を貫通し、切断されてる。
もちろん、それで彼女は死ぬことはないので、数秒で再生していく。
「お前は会議の空気も読めないのか。」
「はぁ♥…申し訳ございません…♥はぁ♥…この快感はやめられないのです…♥」
蝶々がため息をついた。
そんな緩い雰囲気の中、次に発言したのはアンカーだ。
「蝶々はん、うちがごっつええ、ニュース持ってきたで。」
「なんだ?」
蝶々が期待するような目を向ける。
「うちのサーカス団員。マスク・ド・ドラゴンのファンクラブを始めようとしてるやつがおるねん。」
「それは『良いニュース』に含まれるのか……?」
むしろ悪いニュースだろうと、アンカーを見るが彼女の顔はいつも通り
飄々としている。
キツネのように細長い目で、感情は分かりにくいが楽しんでいるようだ。
「まあまぁ、考え方によるやん。
情報収集の一環として、彼女が街でどんな活動をしてるか探らせたらええやろぉ?
もしかしたら、正体が分かるかもしれへんやん…?」
蝶々は額に手を当てて沈黙した。
「そうか…ファンクラブなら…マスク・ド・ドラゴンの正体が気になる
奴らもいるか…。よし、ファンクラブを作らせて情報を共有しろ」
「了解や」
アンカーの話が終わるとエルが口を開いた。
「アタシ思うのよっ。
マスク・ド・ドラゴンは力ゴリ押しタイプだと思うの。
だからもっと頭脳で対抗すれば楽勝よ!」
「(…エルとマスク・ド・ドラゴン…考えて方が似てて単純だから…)」
「意外とまともな意見だな。」
蝶々が感心すると、エルは得意気な顔で続けた。
「当然でしょ♪天才のアタシの案なんだから…♪」
「それで…頭脳的な作戦は考えているのか?」
「え?…えっと…うーん…ア、アールっ。あんたっ!?
アタシの代わりに何か案
出しなさいよ!?」
「…うぇっ!?ボ、ボク?」
蝶々の返しが思ったのと違ったのかエルは焦り出し、アールに
話を振る。
突然のフリにアールは慌てるが、すぐに案を出してくる。
「…えっ…こ、子供を盾にして戦うとか…?子供なら軽いから
片手で持って戦えば…良いかも…です…えへ…」」
「…ふふん♪アタシの案はどうよ」
「…いや…ボクの案だから…」
まるで自分の案であるかのように蝶々に視線を移すエル。
「なかなか良い案だ。次のマスク・ド・ドラゴンとの
戦いで使用してみるか…」
「…あ、ありがとう…ございます…」
エルにアイディアを取られたアールだったが、蝶々に褒められたことで
機嫌が良くなる。
「ピエラは…」
「もぐもぐ♪」
最後にピエラを見る蝶々。相も変わらず、彼女にはたくさんの食べ物。
最初はケン〇ッキーばかりだったのが、新しい美味しい物にはまったピエラ。
「ピエラ…何かアイディアは…あるか…?」
「あいでぃあ…?ちょー様、それは何なのだ…?
美味しいのか…?」
ただ、食べるの種類が増えたことで、ピエラの思考回数が増えることはない。
「…いや…何でもない。好きに食べていろ」
話し合いはどんどんと予想外の方向へ逸れていく。幹部たちの発言がマスク・ド・ドラゴンとの戦いを改善するためのものであるのか、ただの世間話なのかも曖昧になりつつあった。
蝶々が机を軽く叩いて静寂を作り出すと、ピシッとした声で仕切る。
「今回の会議は…終了。次の仕事に備え休め」
―――
一方その頃、市民たちの間ではマスク・ド・ドラゴンに関する噂がネットで
飛び交い始めていた。
「何かマスク・ド・ドラゴンのファンクラブが出来たって
話だぜ…?」
「まじ?ワンチャン、本人と交流できたり…?」
「いやいや…顔分からんし…顔バレとかないわけ…?ネットの
どっかにありそうじゃね…?」
「マスク・ド・ドラゴンの正体気になる…誰か知ってる人…クワシク!」
「マスク・ド・ドラゴンの正体…?実は政府の秘密アンドロイドだって話だぜ…?」
「いやいや、あの華やかな見た目はどこぞのアイドルがやってるに違いない!」
「もしかしたら一般家庭の女の子かもしれないなっ!」
「あんな凶器(胸)持っているヒーローが一般家庭の女の子なわけないだろう!」
「俺の知り合いかも…?」
「僕の恋人んご!!」
「嘘・乙…!!
その噂は警察署内にも浸透しており、内部スパイによってその状況は全て不死鳥の羽に伝えられていた。蝶々たちは情報分析に追われる日々だった。
―――
その頃、たつみは、不死鳥の羽に関する情報収集に挑んでいた。
しかしどこを調べても、施設にアジトがあるとしか手がかりはなかった。
「やっぱりヴァリアントサーカス団が怪しいんだけど。
でも、証拠はないして…。変装して調査した方がいい、かな…」
変装?たつみの脳裏に「おさげ髪と眼鏡」をさらに地味にした自分の姿が浮かんだ。
「地味って言うけど、それ以上地味にしたら、もはやモブじゃない……」
彼女はため息をつきながら、そんな自分を受け入れるしかなかった。
「ん…なにこれ…おっぱいドラゴン(マスク・ド・ドラゴン)のファンクラブ…!?」
スマホを握りつぶそうになった、たつみだがすぐに冷静さを取り戻して
ファンクラブのサイトをクリックしてページ概要を読み始める。
「…みんなのヒーロー。マスク・ド・ドラゴンを愛する人たちが集う場所です。
みんなでマスク・ド・ドラゴンの愛を呟きましょう…?」
マウスでスクロールすると、戦っている彼女の写真が掲載されていた。
「…うぅ…写真…こんなに…私許可してない…それにしても…」
改めてたつみは、写真を見ると何故か胸をアップにした写真が多い。
「っ…何よ…胸ばっかり…本当にいや…このアーマーっ…!?
しかも、素顔知りたいから、写真撮ったらアップよろしくって
…うそ…これ、私も一般市民から調べられていってこと…?」
不死鳥の羽だけが問題だったが、現在は身バレという新たな問題が
たつみを襲う。
「顔バレは…何としても避けないとっ!?」




