第二十九作戦:どこかズレてる日常へ2
蝶々とマスク・ド・ドラゴンが共闘してから数日後――。
蝶々は、作戦会議を開くでもなく、ただなんとなく日常業務に戻っていた。
「…まだ…こんなに…あるのか…。減る気がしない…」
彼女が机に積まれた報告書を嫌々読み漁っていると、パンドラが静かに部屋に入ってきた。
「蝶々さま、こちらをどうぞ。」
彼女は誇らしげに高級そうなお菓子の箱を差し出した。
「…なんだ、急に…」蝶々が眉をひそめる。
疲れているから甘い物が欲しいと思ってた彼女だがタイミングよく表れたことで
何かあるんじゃないかと疑ってしまう。
「これはわたくしが買ってまいりましたお菓子ですわ。」
パンドラの顔には「褒めてほしいオーラ」が漂っている。
「そこの洋菓子店は評判が高くて、ずっと狙っておりましたの♪
全員が血眼でしたわ…♪それで…」
上目使いでチラチラと蝶々を見るパンドラ。黙ってようかと思ったが
大好きな甘いお菓子を食べるため、彼女は礼を言う。
「……良くやった…ありがたく頂こう」
パンドラの望む回答だったのだろう。彼女の顔はパァっと明るくなり腰を
クネラセる。
「はぁ♥はぁ♥蝶々様♥これは愛の告白ですわね♥」
「はぁ…?」
蝶々は素っ頓狂な声を上げる。今の会話のどこに愛の告白があったのか
意味が分からんと言った顔でパンドラを見る。
「はぁ♥わたくし、わたくしぃ…♥
本当に♥嬉しいですわ♥…蝶々様ぁぁぁっ♥――ーあっぶ!?♥…」
唇を突き出して飛び込んでくるパンドラ。ただ、パンドラの唇は書類に
よって防がれる。
「ん~♥蝶々様は恥ずかしがり屋ですね♥…そんな所もお慕い申しておりますわ♥」
「まったく…っ♪…それにしても…良く買えたな…」
良頬に手を当て、いつもの事だと諦めた蝶々は、お菓子を手に取り一口頬ぼる。
食べると頬っぺたが落ち、疲れた体に染みわたっていく。
緩む顔を引き締め、パンドラを見つつお菓子を口に運ぶ。
自慢気にパンドラは胸を張る。
「開店の2時間前に並びましたから♥…甘味への探求は、わたくしの生きがいですもの♥」
「もちろん蝶々様との愛し合いも生きがいですわ」と付け加えるが蝶々は
無視しているとバタバタとした足音が近づいてくる。
「蝶々はん!うち、めっちゃ頑張りましたわぁっ!」
「っ…アンカー。ノックもせずに入るなんて失礼よっ」
「いや…お前もノックなんてしなかったろ…」
アンカーが勢いよく部屋に入ってきて、手には団員の書類を大量に抱えている。
「サーカス団員、新入りを50人集めたったわ!」
「そんなに集めたのか?」蝶々は目を見開いた。
「そや、ビラ配ってたら、ぞろぞろと集まってきましたわぁ!」
「サーカス団員が増えるのは良い。私たちだけでは、限界があるからな…
ただし、その50人をそのまま団員にするわけにはいかない。
サーカスの芸をする訳だ。運動神経が高くなくてはやっていけない。
それに…」
「50人の中に、スパイがいないとは言い切れないわ。入団試験を
するべきね」
蝶々の意図を組んでパンドラが言葉を付け足す。
ヴァリアントサーカス団が公安に目を付けられていることに配慮
しなければ、ならない。
団員として公安の刑事たちが入りこまないように徹底するべきだと
アンカーに伝える。
「なるほどなぁ…
けれど、入団したらうちがしっかり見極めたるから安心しぃ。
合法的に鞭でシバいたるからなぁ…♪」
それどころではなかった。廊下から「アタシが言うわ!」という声が響いてきたのだ。
勢いよくドアが開き、エルが小さい胸を張って現れる。
その後ろにはアールがいてエルの後ろに隠れる
「蝶々…やばいわっ!」
「…やばい…一体何がだ…?」
アールは顔を伏せて良く分からないが、エルに関しては高ぶっているのか
真剣な表情で蝶々を見る。
「一体どうしたって言うの…?」
「何やなんや…?」
「すごいのよ、この漫画!ヤバすぎ!
1巻から最終巻までずっとハラハラしっぱなし!」
「す、すごかったです…」
「…はぁ…何だ」
何を話すのかと思ったら、本の話で蝶々たちは気が抜ける。
「何よ!何だってことはないじゃない!
あんたには分からない…?
これが神漫画って言うのよ!
だらだらと、先延ばしにする糞漫画とは大違い!」
「…ボクは、先延ばしにされる漫画好きかな…楽しみが続くし…」
「…はぁ?アールあんた分かってないわねっ。漫画って――」
「はいはい。お話は終わり…蝶々様はまだお仕事が残っているのよ」
エルとアールの漫画談議が始まりそうになるのをパンドラは手を叩いて
辞めさせる。
「ばりばり…ん?みんな集まってどうしたのだ?」
そこに、ピエラがボリボリと何かを食べながら入ってくる。
よく見るとそれは骨のようで、相変わらず何でも食べるんだなと
蝶々は飽きれてしまう。
「くんくん…甘い匂いなのだ!」
入るやいなや、鼻をひくつかせ甘いお菓子に走ると食べ始める。
「はぁっ!?ピエラっ。待ちなさいっ!わたくしまだ食べてないのよっ!」
「もぐもぐ♪…ごっくん。ご馳走様なのだっ♪」
「…はぁ…せめて味わいなさい…」
パンドラが止めるより先にピエラの胃にお菓子が収まり
それを見た彼女は腰が抜ける。
「ん?ピエラ…また食べたの?…口元血ついてるわよ」
「…本当だ」
エルがピエラの口元に血痕に気が付いた。
「まーたつまみ食いしたんか…?」
「うん。食べたのだホームレス♪でも、1人しか寝てなかったから
満足はしてないのだ」
「ただ骨は食べ応えあるから人間は最高なのだ…♪」
ピエラは満足げな笑顔を浮かべ残った骨をバリバリと咀嚼する。
「いつのも日常だな…」
一方、その頃、マスク・ド・ドラゴン…いやたつみは、自宅で落ち込んでいた。
「不死鳥の羽だけでも忙しいのに…新しい怪人が現れるなんて…うぅ…」
巨大なクッションに埋もれるように寝転びながら、巨乳ヒーローはため息をついた。
新しい怪人が、街を襲うようになるということは、たつみの仕事が増えることになる。
「カラス怪人。そこまで強い怪人じゃないけど…いつ不死鳥の羽の幹部クラスの
怪人が現れるか分からない…
強い怪人が、不死鳥の羽に入らないとも…限らないし…
そのためにも、パワーアップした姿をコントロールできるように
ならないとっ!」
すると、デスク上のスマホが鳴る。
受け取ると、それは街の新たな異変を知らせる緊急警報だった。
「怪人っ…行かないとっ…」
たつみは、勢いよくドア向かう。
しかし、揺れた胸が写真たちをなぎ倒していく。
「…胸、ほんとうに…邪魔っ…!」
急いで、棚に写真たてを戻し仕事場に向かうたつみだった。




