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057 不快害虫と呼ばないで! アラクネの名誉回復大作戦!

 ギリシャ神話、それはヨーロッパに生きる人々の心の故郷ふるさとと言ってよかろう。


 かのアレキサンダー大王は英雄叙事詩「イリアス」を愛読し、自らをアキレウスの生まれ変わりと信じていたというし、芸術を好む一方で母殺しの汚名を背負ったローマ皇帝ネロも、ギリシャの文化に憧憬の念を抱いていたそうな。オリンポスの神々は今や信仰の対象ではなくなった感があるものの、文学の世界においてその輝きが失われることは決してない。


 さてそんなギリシャ神話は神々と英雄たちの織り成す壮大なドラマだが、首をかしげてしまうこともある。そのひとつが、アテナとアラクネの機織はたおり対決のエピソードではあるまいか。


 これは一般常識に近いレベルで有名なのでご存じの方が多いと思うが、簡単に述べるとこうだ。


 ①アラクネという機織り職人の少女がいた。彼女は自分の腕に絶対の自信を持ち、「私は機織りだけなら工芸の女神でもあるアテナより上だ」と公言していた


 ②アテナ、老婆に姿を変えてアラクネを訪ね、「神を敬いなさい」と忠告するも無視される


 ③仕方なく正体を現すアテナ。しかしアラクネは頑なで、成りゆきで機織り対決をすることに


 ④アテナ、神々の偉大さを語る内容のタペストリーを織ってアラクネに最後の警告


 ⑤意固地になっていたアラクネ、あろうことか神々の王ゼウスの不倫の数々をタペストリーに


 ⑥アテナ、キレる。「そんなに機織りが好きなら自分で糸を出して織るがいい!」と、アラクネを蜘蛛に変えてしまった


 お分かりいただけただろうか……


 神話伝説の時代である。情報伝達の未発達な時代である。ネットどころかTVもラジオも、新聞すらない時代なのである。

 もちろんゴシップ誌も女性週刊誌もだ。人間国宝レベルだろうがなんだろうが、単なる機織り職人にすぎないアラクネが、どうしてゼウスの女性遍歴を事細かに知っているのだ!?


 これはもう、ゼウス本人が己の「武勇伝」を自慢して言いふらしていたとしか思えない。もしかしたら伝令の神ヘルメスにも協力させて。そうでもなければアラクネが知ってるわけがないだろう……。


「ふっふっふ、わしはあのとき、白鳥に化けてレダが水浴びしてるとこへ忍び込んでだなグヘヘ」とか、「カリストとの不倫がバレたとき(45話参照)は参ったぞ。嫁がブチ切れて彼女を熊にしちまったからな」とか。


 うわあ……


 これらを考慮すると、アラクネは当時としては珍しい、むしろ現代人に近い思考の持ち主だった可能性がある。


 ゼウスの下半身無節操ぶりは女性として思うところあろうし、他にもアポロンがダフネやカサンドラにしたこと(45話参照)、ハデスがペルセポネを嫁にした経緯(騙して冥界の果物を食べさせた)なども知っていたら、神々に反感を抱くのも当然といえる。女を軽く扱う男神、それを放置する女神、両方にだ。


 こう考えると、現代の女性はアテナよりアラクネに肩入れしたくなる人もいるのではなかろうか?


 蜘蛛になったアラクネは、長きに渡って不快害虫(実際には無害ないし益虫だが、見た目が不気味なため害虫扱いされる虫のこと。毒を持たない蜘蛛が代表格)として迫害されている。

 神々の王だからとゼウスの不貞を咎めず、逆ギレして彼女を蜘蛛にしたアテナは正しかったのか? 一考の余地があろう。


 そんなアラクネに同情したのか、近年は蜘蛛をモチーフとしたヒーローなんかも出現しているし、難攻不落の鉄騎兵は背中に蜘蛛の巣のタトゥーを彫っている。蜘蛛が友達の暗殺者アサシンの少女とか重装令嬢なんかもいたりして、彼女の名誉回復の日は近いのかもしれない。


 ところで話は変わるけど、蜘蛛のヒーローを見て思ったことがある。


 あれ? レオパルドンは?

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