055 ユニコーン、ゲットだぜ!
ファンタジー世界には様々なモンスターが生息しており、その牙や鱗などは道具や衣類の素材として重宝される。なろう小説でも、冒険者が稀少な素材を求めてモンスターの生息地に向かうエピソードが少なくない。
そんなモンスター素材のなかで、もっとも有名かつ貴重なもののひとつが、額に角のある馬、すなわち一角獣の角であろう。
この角は聖なる力を有し、粉末にして服用すれば万病を癒すと言われている。史実では海に生息するイッカクの角がユニコーンのそれと偽って売られたらしいが、プラシーボ効果(偽薬効果。薬効の無いものでも患者が特効薬と思い込むことにより、実際に病気が治ること)というものがあるので、まったくの詐欺とも言えないだろう。もっとも当時プラシーボ効果がどれほど知られていたか、甚だ怪しいところではあるが……。
そんなユニコーンは、四六時中その角を狙う者に追われているため非常に用心深く、人を寄せつけないという。唯一の例外が純真無垢な乙女で、これに会ったときだけは警戒を解き、その膝に頭をあずけて眠るそうな。
そのため、ユニコーンの角を狙う狩人は乙女を利用して獲物をおびき寄せ、これを捕獲するらしいのだが……
私は昔から思っていた。
純真無垢な乙女を見つけるのと、ユニコーンを直接捕獲するのと、果たしてどちらが簡単なのだろう? と。
考えてもみよう。肉体的に純潔でも、ユニコーンを捕まえようと考えたらその時点で当のユニコーンにとっては敵だ。無垢かもしれないが純真ではなくなる。
仮にその娘が「ユニコーンの角をゲットして一攫千金だぜ! 一角だけにな! おらおら可能性の獣ちゃんよ、とっととこっち来いやヒャッハー!」と考えてたら論外だし、優しい心の持ち主でも「ユニコーンの角があれば、大好きなおばあちゃんがずっと健康でいてくれる! 物知り博学足腰カクシャク、バミューダ海域ハワイはワイキキ!」と思ってたらやっぱりダメだ。
情報伝達が未発達なファンタジー世界でも、ユニコーンの伝承は一般常識か雑学、少なくとも都市伝説レベルで民衆に浸透しているだろう。なら人がユニコーンを目にしたとき、「角が欲しい」という、ユニコーンにとっては邪念でしかない感情を一切抱かないなんてことがあるだろうか?
とするとユニコーンが安心して近寄れるのは、肉体的に純潔であり、薬効のある角のことを全く知らず、大きな動物や尖った角を怖がらない女性、ということになる。そんな都合のいい女の子がそこら辺にいて、しかも偶然ユニコーンと鉢合わせするなんてどれほどの確率やら。
とすると……
もしかしたらユニコーンを呼び寄せる乙女というのは、初めから「そのため」に育てられているのではなかろうか。つまり世間から隔離され、角の薬効のことを全く教えられずにいた……言い方は悪いが、ある種の奴隷的存在である。
ユニコーンの生息地に近い山奥の村。土地は痩せ資源も乏しい。皆が生きていくためには、ユニコーンを捕らえてその角を入手し、これを売るほかない。だが獲物は警戒心が強く、近づくことすらままならぬ。
なので村で生まれた女の子は、みな一定年齢まで小屋に隔離され、余計なことを吹き込まれないよう細心の注意を払って育てられるのだ。
そして狩りに同行させられ、自分が「撒き餌」として育てられたことを知ったとき……彼女は何を思い、どうするのだろう? これで短編くらいなら一本書けるかな。
ところで撒き餌が男ではダメなのか。ファンタジー世界は女尊男卑なのか。
ユニコーンには、令和の時代に即した男女平等を意識してほしいものである。いや、そりゃ野郎よりは女の子の方がいいけどさ。




