041 悪の戒律は本当に「悪」なのか
040と内容がかなり重複。こっちを先に書いたの完全に忘れてた。
リメイクされたり、三十年以上も前の小説がコミカライズされたりと、近頃なにかと話題のウィザードリィ。前回ちょっと触れた善悪について、もう少し掘り下げてみたい。
この作品でプレイヤーが作るキャラには「性格」の要素がある。ゲーム中のヘルプメッセージによると……
世間一般には善人と言われる「善(GOOD)」
悪人と呼ばれる自己中心的な「悪(EVIL)」
善でも悪でもなく、大半の人が該当するらしい「中立(NEWTRUL)」の三つ。
システム的には複数の制約を受け、善と悪のキャラはパーティを組めない。選べる職業にも関わり、とくに回復魔法を使える僧侶系は中立ではなれないため、個人はともかくパーティの属性は必ずどちらかになる。
そして、ダンジョンには友好的なモンスターが出現する。戦うか否かの選択権はプレイヤーにあるが、善は戦闘回避、悪は徹底抗戦を選ばねばならない。
もし逆の行動をしたら、一定確率で性格が逆転する。ちなみに中立は何をやろうが一生そのままだ。
たとえ魔物であろうと、敵意がない者には刃を向けない。なるほど善っぽくはある。
友好的? 知るか。皆殺しだ。こちらも悪っぽい気がする。
本当にそうかしらん?
むしろ善の者こそ、モンスターは敵と決めつけて問答無用で殺すという考え方もあるはず。人は自分が正しいと思えば際限なく残忍になれるのだ。
それに、友好的な態度もどこまで信用できるやら。冒険者に勝てないから敵意がないフリをしてるだけで、後で村人を襲う可能性は普通にある。
所詮は魔物。情けをかければよいとは限らない。敵に塩を贈れば、その塩を食べて敵は攻めてくるのだ。
また悪だからこそ、ナアナアで敵と馴れ合って戦わないケースもあるだろう。考えれば考えるほど、善悪の意味が分からなくなる。
ここで思い出したのが、手塚一郎氏の「ワードナの逆襲」だった。シナリオ4をホラー小説にした意欲作である。
ワードナは悪なのか、それとも善なのか。その質問に対する答えが、要約するとこうだった。
「全ては権力者の都合だ。ワードナが悪とされたのはトレボー王と敵対していたからで、本人にしてみれば自分は正しいことをしている善の魔法使いなのだ」
ならその都合しだいでは、友好的でも容赦なく殺すほうが善になるわけか。徹底抗戦派が悪とされる理由が権力者の都合だとしたら、原因はなんだろう。
魔物と癒着した王がいて、それが悪では体裁が悪いから抗戦派を悪にしたのか。そういえば15話で語ったロイヤルブラッドでも、モンスターは自軍で使えるため貴族もこれを殲滅せず、時には生贄を与えて懐柔してるとの記述があった。
悪政に対する不満の矛先を逸らす仮想敵とする、あるいは農民が反乱を起こしそうと見たらわざと魔物に襲わせて力を削ぎ、その後で疲弊した魔物を楽々討伐して恩を売るつもりかもしれない。
食物連鎖のバランスや漁獲制限といった自然科学、生物学的な理由? まさかね。中世レベルの文化ではそこまで考えないだろう。
一番ありそうなのは単純に手間と金がかかるからか。力不足で殲滅できないのを「余は善良ゆえ友好的な魔物は討たぬ」と誤魔化してるパターン。
事情は判然としないが、戒律は必ずしも一般的な意味での善悪ではないようだ。本来は善の君主にも魔物は断固討伐すべきと主張する異端がおり、宗教的対立や神学上の議論が起きている可能性もある。
王が「魔物にも優しい自分」に酔ってる陰で、モンスターを殺して回る隠密部隊なんかがいるかも。汚れ仕事ってやつですな。
いずれにせよ、善なら高潔、悪なら卑劣といった先入観に囚われないキャラメイクを意識したい。そこに新しい発見やアイデアがあるかもしれないから。
ちなみに「ウィザードリィエクス」だと、友好的な敵兵と別れたらいきなり背後から襲ってくることがある。2だと性格診断をしないと属性は変わらないので、遠慮も容赦もなく殺るのが鉄則だった。本当に友好的だったのか敵がビビって硬直することもあるが、恨むなら騙し討ちしてくる奴らを恨んでほしい。
学徒たちが揃いも揃って「これでもかっちゅーくらいに悪や!(ポンプー先生談)」というヒャッハー電撃隊な式部京。もうやだ何この脳筋軍団。凛ちゃんが唯一の癒し。




