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番外編22「もう一つの第一話」

明けましておめでとうございます!

昨年中は大変お世話になりました。本年も引き続き頑張っていきますので、「聖"女"として召喚されましたが、俺は"男"です!」並びに海月海をよろしくお願いいたします。

コミケにライブに年末年始あちこち駆けずり回って遊び歩いて体バッキバキ!おかげで原稿が捗りました!動けないので!


さて、唐突ですがここからは真面目な話です。

今回の番外編は人によっては辛くなる要素がありますので、「何が来ても大丈夫!」という方以外は、活動報告から「番外編22注意喚起&あらすじ」をご覧ください。注意が必要な要素について、若干のネタバレはありますが、事前にお伝えする場を設けています。


活動報告?1/4はオマケ兼裏話みたいなものなので、ご興味がある方はよろしければそちらも。番外編22を読み終わった後、または概要を見た後に見ていただくといいかと思います。

年始早々暗い話題にはなりますが、もう一つの「第一話」ですので、一発目に相応しくはあるかと思います。

新年の始まりにもう一人にとっての始まりの話を、どうぞ。


 ──最後に聞いたお父さんの言葉は、「体操着持ったか?」だった。


 仙台から東京へ向かうはやぶさは、全席指定席。見知った景色があっという間に通り過ぎて、見覚えのあるような、ないような景色が流れ去っていく。


 数年ぶりに乗る新幹線、迷うことはあったけれど、ひとまず無事に乗れたことに安心して目を閉じて──しばらくして訪れた妙な静けさで、そっと目を開ける。


 そこは、仙台でも東京でもない、見知らぬ場所。瞬き一つする間に、新幹線の座席ではなく、冷たい石畳の床に座り込んでいた。


 ──最後に聞いたお母さんの言葉は、「何かあっても頼らないでよね」だった。


 生き物は死ぬと冷たくなる。「家族」というものもある種の生き物のようなもので、自然が気まぐれに力を振るった災害一つで、すっかり冷たくなってしまった。


 向けられる視線の冷たさに、街一帯が停電した満天の星空の下、ぞっとするほど綺麗に舞っていたあの日の雪を思い出す。


 災いが星の形となって、冷たく降り注いでいるのだと思った。その雪に触れたが最後、もう朝は来ない。日常は戻らない。そう言われたように錯覚したとき感じたそれは、幼いながらも確かに絶望だった。


 辺りを取り囲む男たちが着ているのは、軍服だろうか。どうして、これは夢?


 コスプレイベントと縁遠い地方の出からすると、目の前に並ぶ服装は、アニメやゲームよりも歴史の教科書から出てきたように映る。


 どこか開けた屋内にいるらしいことは分かるものの、比較対象として浮かぶのは学校の体育館程度のもので、今いる場所はそれより少し狭いように思えていた。


 ──最後に聞いたののちゃんの言葉は、「じゃあ、東京で待ってるからね」だった。


 大学に行けないことが分かって、父方の従姉妹にあたるののちゃん──水野乃彩(のあ)ちゃんに誘われて、東京でルームシェアをすることになった。


 お母さんやおばあちゃんは反対していたけれど、ののちゃんの説得のおかげもあって、無事に東京で暮らせるようになったというのに。


「……人間か」「これまでと同じだな」「使えさえすれば構わん」


 全員揃って同じ顔、コピペしたような仏頂面の男たちの間で交わされるのは、コスプレとするには妙に作り込まれたやり取り。初対面の人間に向けるにはあまりに無遠慮で、失礼なものだ。


 下手なことを言うべきではないとはいえ、大人しくしていたところで何をされるか。迷った末、最低限の礼儀を弁えながら尋ねてみる。


「ここどこですか。貴方たちは?」

「その質問に答えるのは、貴様がそれを知る必要があるかどうか、確かめてからだ」


 何やら不穏な言葉で質問を跳ね除けた男は、ずかずかと距離を詰めてくる。


 両隣の男たちもそれに続き、取り押さえられると直感したときには、既に両脇の男によって腕を掴まれていた。


「ま、待って、何」


 咄嗟に自由が利く足で蹴り上げようとするが、それもすぐさま目の前の男に抑えられ、ガタイのいい上体が迫ってくる。


 ドッキリ、何かの手違い、痴漢グループ。いくつも浮かぶ可能性はどれも最悪で、それなのに今ある状況と今ひとつ噛み合わない。


 真っ白になった頭が真っ先に理解したのは、手首の痛み。


 採血よりよほど乱暴なそれに続いて、手首に空いた穴から、赤黒い血がどろりと噴き出る。口元から似た色を垂らす男は、苦々しげにそれを吐き捨て、口元を拭った。


「……不味い。獣と同じだな」


 噛まれたのだ。どうして、何のために。


 用済みとばかりに解放されても、まるで理解が追いつかなかった。噛まれて、血を吸われた? 到底人間がすることとは思えないその行為は、まるで──そうだ、吸血鬼のようだった。あり得ない出来事の連続に、つい非現実的な考えが浮かぶ。


 こちらを品定めするように見つめたのち、ややあって手首に噛みついてきた男が、ため息混じりに呟いた。


「その小娘は使えんな」

「使えないって、連れてきたのはそっちでしょ……警察呼びますよ!」

「警察?」


 恐る恐る、スマホを握りしめながらそう声を上げれば、男は一瞬驚いたようにこちらを見る。大抵の相手はこれで怯むと思ったのだが──続けて飛び出したのは、無慈悲な問いかけ。


「何だそれは」

「……は?」

「連れて行け」


 呆気に取られている間に、スマホを持っている方の腕を掴まれ、今度は拘束ではなく連行のために体を持ち上げられる。


 走馬灯の代わりにいくつも流れる最悪の想像をかき消すように、必死に右手のスマホへ縋りついた。


 パスコードは入る、ホーム画面にも飛べる。

 それなのに、電話だけが繋がらない。


 あの日の自分が味わうことのなかった悪夢が、最悪のタイミングで目の前に寝そべっていた。


「何で圏外っ……何でよ!」


 叫び声に涙が混じり、この場で何の役にも立たないスマホは乱暴に取り上げられる。


 別の男から反対側の腕も掴まれ、上半身を後ろに引きずられた弾みで尻餅をつくと、背後から誰かの足音。


 それに合わせて男たちの動きが止まり、すぐさま彼らが姿勢を正したのが分かった。


「ガーランド少佐」


 まるで軍人のような階級に、いよいよここがどこのか分からなくなっていると、視界の端から怪しげな男が姿を現した。


「彼女も違ったみたいだね」

「は。聖属性どころか、魔力そのものを保持しておりません。器を持たない個体かと」

「そっか」


 一歩ずつ近付いてきたのは、関心の薄そうな声に、こちらを値踏みするような目。その持ち主は紫色の長い髪を三つ編みにまとめて、黒い眼帯をこちらへ向けている。


 赤黒い軍服のような出立ちは、周囲の男たちとほとんど同じで、少佐という階級を見るに、どうやら彼らは本当に軍人らしい。


 少佐とやらはこの中で一番偉い立場なのか、男の一人が取り上げたスマホを興味深そうに眺めている。


 ボタンのいくつかを押して、何かしらの機能があるらしいと理解した様子の男は、そこでようやくこちらを振り返った。


「これ、何かの魔具?」

「まぐ……?」

「ああ、分からないか。魔法道具のことだよ」


 関心が薄そうな声で最低限の説明をされたところで、別の疑問が湧き上がるだけだ。


 濁流のように溢れ出てくる疑問を口にするより先に、ガーランドと呼ばれた男がどこかに目配せ。


 すると、持ち上げられていた両腕が唐突に解放され、床に思い切り打ちつけた肘が悲鳴を上げる。


 どうにか体を起こし、最初と同じように正座を崩したような姿勢になると、眼帯の男は目の前で静かに片膝をついた。


 そうしてようやく、自分の名前と所属を明かす。


「ぼくはグラストニア帝国陸軍のノア・ガーランド少佐」


 穏やかで柔らかい声は、どこか雪を思わせるような冷たさを秘めている。何から言ったものか決められずにいるうちに、またも現実味のない言葉がいくつも浮上してきた。


「きみは"聖女"じゃなかったわけだけど、そうでないなりに、きみがこの世界で生きていく道はあるはずだよ」

「この世界で……?」

「そう、ここはきみが元いたところとは別の世界だからね。分からないことも多いだろうけど、そういうことはこれからぼくが教えるよ。一応、挨拶はしておこうかな」


 魔法という概念が存在する時点で薄々気付いてはいたものの、どうやらここは本物の「異世界」らしい。


 観察するような目をこちらへ向ける少佐の瞳は、オパールに似た白。紫色の髪の中に、同じ色が一房だけ混じっていた。


 疑いようもない現実を突きつけられては、ドッキリの可能性を手繰り寄せる。寄せては返す波のように繰り広げられる現実逃避めいた考えを、少佐の言葉がそっと脇へ追いやった。


「──グラストニア帝国へようこそ」


 それはもはや疑いようもなく、地球のどこにも存在しない国の名前。これまでの生活は全て無に帰して、きっともう二度と、家族や友達に会うことはできないだろう。


 それでも、胸の内に渦巻く感情は、見慣れた絶望とはどこか違う色を纏っている。


 腐ったみかん一つで、段ボールに入ったみかんが全滅するように。あの震災は、ある一つの家族がめちゃくちゃに壊れるには十分すぎるほどの災害だった。


 仕事先で津波に飲まれて、どこに行ったのか分からなくなってしまったお父さん。


 避難所で会った親切な人に声をかけられて、おかしな宗教にハマってしまったお母さん。


 孫の味方みたいな顔をして、世間体ばかりを気にしているおばあちゃん。


 そんな人生を変えたくて、必死に努力して東京の大学への進学を決めても、お母さんがタンスに隠していた貯金をくすねたせいで、二十万の入学金が払えなくなった。


 何もかも、肝心のところで上手くいかない、はずれくじだらけの人生。誰もこちらを見ない毎日。見捨てずにいてくれたのは、ののちゃんだけだ。


 ノア・ガーランド。ののちゃんと同じ名前。これが何かの縁だというなら、ここに来てようやく、当たりくじを引けるというのだろうか。


 肩透かしの失望を隠そうともしない男たちに囲まれながら、少しの希望を纏った事実を噛み締める。


 ──あたし、三上花は異世界に召喚されたらしい。


次回更新予定日《2/15 20:00》*番外編更新

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