146話「オールイン」
第8章「幕間編」これにて完結です!ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!
次章タイトルは後書きにて発表します!
加えて、少し早いですが本年中も大変お世話になりました。来年も引き続き頑張っていきますので、『聖"女"として召喚されましたが、俺は"男"です!』を応援していただければ幸いです!
誰かに肩を揺すられている。
目が覚めると、俺は何故か見慣れた机に伏していた。どうやら居眠りをしていたらしい。王女が自室へやってくるなどという、精神負荷の高いイベントが突発的に発生したせいだろう。
肩を揺すっていた人物に目をやると、そこにいたのはアンネさんだった。彼ならば起きるまで待っていてくれそうなものだが、何か用事でもあったのだろうか、などと考えたそのとき、アンネさんはどこか呆れた様子で言う。
「体調が悪いのでしたら、ノーラさんに報告を」
「……何でノーラさんの名前が出てくるんですか?」
何故か出てきたノーラさんの名前を疑問に思い、素直に尋ねると、何やら信じられないものを見るような目で見られてしまった。
体調不良を報告する相手として真っ先に浮かぶのは、アンネさんだ。そうでなければイーザックさんか、フランさんか、とにかく聖騎士の誰かに知らせるはずである。
一体何がそこまで引っ掛かっているのか、疑問にさえ思いながら、様子がおかしい彼に呼びかける。
「アンネさん?」
いつものように名前を呼んだ瞬間、周囲を取り巻く空気が一変し、いつになく冷たい彼の目がこちらを捉えた。まるで、目の前にいる相手を人間ではなく獲物として認識したような。
衣擦れの音さえなく、剣に手をかけた彼を前に、慌てて立ち上がる。その拍子に椅子が倒れたが、構っている余裕はなかった。
「ちょっ……ちょっと待ってください、何しようとしてるんですか」
慌てて後退り、考え直せと伸ばした腕の、違和感。
細いのだ。服も違う。白黒の、メイド服だろうか。
自分の手を見つめ、顔に触れた。いつもと明らかに異なる輪郭に、きつく結い上げられた髪を撫でて、信じられない気持ちで背後のドレッサーに目をやる。そこにはやはり、信じ難い光景が広がっていた。
何故か剣を抜こうとしているアンネさん、そして、明らかに俺ではない俺。アンネさんの剣が鞘から解き放たれる寸前、ようやく状況を理解した俺は、命乞い代わりに叫んだ。
「俺です!」
しかしアンネさんは止まらない。俺にはあっさりと教えてくれたはずのその名前が、どうして彼の逆鱗に触れているのかは定かでないものの、とにかく今は、この体のまま殺されないことが先決である。
「俺です、アンネさん! 礼央です!」
明らかに男の一人称に、俺の名前の組み合わせ。本人か、そうでなければ王女とその執事しか知らないはずのそれを、何故かそのどれにも当てはまらない人間が発している。
そのことに違和感を覚えたらしいアンネさんが手を止めた隙を見計らい、自らの置かれた状況を最小限の言葉で説明する。
信じられない。夢であってほしい。何もかも。これを叫んだ瞬間、夢から覚めたならどんなにいいだろう。そう思いながら。
「──体、盗まれました!」
だが、そのような奇跡が起きることなく、部屋には呆気に取られた様子のアンネさんと──ハナさんの姿をした俺が、奇妙に向かい合っているだけなのだった。
第9章「花冷え編」準備のため、しばらく週一更新を休止します。
その間、番外編を不定期で更新していきますので、そちらも楽しんでいただければ幸いです!




