二十二
「君は、いつから“ここ”に、居たんだい?」
【…さぁな。気が付いたら“ここ”、だったから。】
「そうか。」
「君は、いつも、こんなふうに誰かと話をするの?」
【いや、初めてだ。】
【…というより、よもや人間と会話が出来るとは、思ってもみなかった。】
「…そう。」
【私は、唯々“ここ”、であり。唯、聞いていた。】
【それだけ、だった。】
「じゃあ、君の声を聞いた事があるのは、ぼくだけ、なんだね?」
【そういう事になるな。】
【…私は、、】
「ん?」
【私は、自ら声を発する事が出来るなんて、知らなかった。】
【…いや。自ら声を発しようなどと、思わなかっただけかも知れない。】
「…それって、、ぼくと、話がしたかった。って、事かな?」
【ああ。そうなんだと、思う。】
「そう。」
【おまえの『…まぁ、いいか。』という、一言が…そう言う時のおまえの微笑が、
日を追う毎に、気になっていった。もどかしく、なっていった。】
【そのうち私の心は、ざわめきでいっぱいになってゆき、いつの間にか…
そう、いつの間にか、おまえに話しかけていた。】
【 …おまえを待つようになっていた。】
「君が、僕を、、待つ?」
【ああ。】
「何故?」
【…何故、って、、】
「だって、君は、ツクモカミ、でしょ?」
「“ここ”には、沢山の色んなひとが来るでしょう?」
【ああ。その通り、だ。】
「なのに何故、ぼく、なの?」
【…そんなの、分からない。】
【ただ、おまえ、だけが気になった。】
「ぼくが、微笑んでいたから?」
【そうかも、知れない。】
「ぼくは、唯の道化、だよ。」
【では、私は、道化の素顔を見てしまったんだな。】
「道化の素顔なんて、面白くないだろうに。」
【そんな事は、無い。】
【とても穏やかで、しかし陰りがあって…心地いいのに、胸が締め付けられた。】
「…それって、、」【私の心の中は!】
【…私の、心の中は最早、おまえでいっぱいなんだ。】
「…そう。」
【どうして、こんな事に、なったのかな?】
「後悔…してるのかい?」
【後悔?】
「うん。人間臭くなってしまった事、後悔してない?」
【分からぬ。何故、私が後悔する?】
「だって、辛いんだろ?」
【何が?】
「ざわめいたり、胸が締め付けられたり。…そういうの、辛いだろ?」
【分からない。】
「…切ない、だろ?」
【切ない?】
「そう。切ないだろ?」
【ああ。そうだな。とても、切ないよ。】
「ごめん、、ね。」
【何故、謝る?】
「辛い思い…させちゃって、さ。」
【よせ。】「それでも…」
「それでも、ぼくは気が付くと、君に会いに来てしまっているんだ。」
【…おまえ。】
「君と居る時だけが、唯一、まともに息が出来るんだ。今のぼくは。」
【それ、って。】
「今のぼくには、君の所以外、何処にも居場所が、、無いんだ。」
【…そうか。】
【ならば、また、来るといい。】
「…え?」
【私のところに、いつでもおいで。】
「ああ。そうするよ。」
「ありがとう。」




