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2ヶ月と16日目

薫の一日は夕方から始まる。

正確には、朝も昼も夜も無いのだが。

体力・魔力が尽きれば、回復するまで眠る。

それを常に繰り返しているだけで、他のプレイヤーのように、かためて睡眠をとるようなことをしない。限界まで使い切ってから眠れば、確かに効率よく魔力も体力も総量が増える。

しかし、かなりの倦怠感や重度の貧血のような症状を引き起こすので、多くのプレイヤーは種族レベルの上昇によるそれらの上昇で満足していた。

より強く、より効率的に。

誰よりも強く、誰よりも早く、そうのぞむ一部の廃プレイヤーのみが行なうプレイスタイルである。

しかし、薫の場合、現実世界でも朝夕無く呼び出されることが多く、睡眠時間は短い。

そして、もともととても我慢強い。

そういった薫自身のベースがあった上で、ダンジョンでの早期の快適な生活を確立することに腐心した結果、今のプレイスタイルが確立したのだ。




彩加の夕食の準備を整えた後。

今日も薫は静かに冒険者ギルドのドアを潜(くぐ)る。

左の掲示板にある採取系クエストをざっと眺めて、そのうちの2枚を手に取る。

『ビーの羽』と『ビーの針』のクエストだ。

今の薫の冒険者ランクはEである。

最低ランクのFの時は1度にE・Fランククエストを1度に1件だった。

それがEクラスになれば、D~Fまでのクエストを1度に2件受けれるようになった。


薫は、すでに『ビー』のクエストを何度か受けている。

『ビー』はクエストランクEのバスケットボール大のハチだ。

今回は、その羽と針を採取するものである。


いつものようにギルドの受付嬢に手続きをしてもらい、お菓子の差し入れをして街をでる。

夜になると城門は閉まってしまうので、それまでに城門を出てしまわなければならない。

実はこの行為が一番薫には疲れる行動である。

種族『吸血鬼』。

日の光を浴びればステータスは80%に落ち、体力も著しく消耗する。

もちろん生命力も削られるのだが、それは日よけのローブで防いでいる。

数日前に腕のいい皮職人を布のお礼に中尉から紹介してもらい、ダンジョンの森で使用していたレザーマントに手を加えてもらったのだ。

ダンジョンでは手を加えられず、皮を頭からかぶっていただけの状態だったが、これでやっとマントの形になったものを装着することが出来た。




『ビー』も所詮、息をする虫である。

薫の『水球』の中に入ってしまえば一分もしないうちに力尽き地面に落下する。

そして、『隠密』スキルで木の葉の陰に身を隠した薫は、巣の周りを飛び回っている『ビー』を次々と静かに落としていく。

『ビー』からすれば、急に仲間が次々と地面に落下しているだけのように見えただろう。


魔力が尽きればそのまま木の上で睡眠をとり、また『ビー』を仕留めていく。

数度繰り返したあたりで、『ビー』の巣の周りでは異変が起きた。

ひときは大きい金色に輝く『ビー』が現れたのだ。

『女王ビー』である。

巣の周りで次々に子供達が死んでいく異常事態にとうとう卵を産む作業を中断して出てきたのだ。


しかし・・・

薫の『水球』の前では他の『ビー』と変わりは無かった。

少し他の『ビー』より長時間-薫の『水球』を2回連続発動-しただけで、こちらも地面に転がることになった。

『女王ビー』を失った『ビー』達は、あっけなく、どこかへ飛び去ってしまった。


後は、その傷一つ付いていない『ビー』の体から、羽と針を採取するだけだ。

『ビー』は羽と針以外に使い道が無いので、レシピを使用して解体スキルを発動するまでもないので楽である。

しかし、『女王ビー』は違う。

こちらは、羽と針を回収した後、薫はナイフでそのお腹を切り裂き、中から黄金色の透明な膜で覆われ軟体物を慎重に取り出した。

蜂蜜である。

薫にとってクエストは、食材の採取のついででしかないのだ。




城門が開くと同時に『ビーの羽』と『ビーの針』の採取クエストの完了手続きを終わらせた薫は、『新料理作成』クエストを受けて、宿屋『止り木』に帰っていく。

今日の朝食は、たっぷりと蜂蜜をかけたフレンチトースト。

昨日、彩加から冒険者カードにリクエストの連絡が来ていたからだ。

頭の中は、すでに、彩加に食べさせる朝食で一杯の薫。

しかし、それを悟らせるようなヘマは決してしない。

もちろん、対応をしてくれるギルド受付嬢達に丁寧に微笑んでお礼を言うことも忘れていない。




彩加に朝食を食べさせ送り出した後は、マルゲリータとトメトパスタ作成に取り掛かる。

小麦は手に入りややすいので、基本粉物料理になってしまうのは致し方ない。

ピザ生地を作り、トメトソースをひいて、チーズとバジルににた何かをのせて窯で焼き上げる。

トメトパスタは、パスタを打ってトメトソースと絡めた簡単なもの。

パスタもピザ生地も先日既に『新食材登録』クエストで登録済みなので簡単である。

そして、そのままレシピを作成し、本日の宿屋『止り木』のランチメニューとして提供する。

料理スキルも上がって、女将さんから報酬を貰えて一石二鳥ではなく一石三鳥である。

昼の戦場のような忙しさが過ぎれば、休憩の後は日常品の在庫を増やす作業を行なう。

各種回復薬であったり、お菓子であったり、紙やインクであったり、その日その日でマチマチであるが、本日はタンポポコーヒーを作り置くことにしたようだ。




「ただいま」


そうこうしているうちに彩加のご帰還である。

明るいなかにも少々の不満が混じった声。

冒険は楽しい。しかし、今日のクエストも彩加的には物足りないものであったようだ。

早速、彩加の為に夕飯を作り、食後のデザートまで出してから、薫は冒険者ギルドに向かう。

『新料理作成』クエスト完了の報告をするのだ。

そして薫はその足で再び採取系クエストを受け、街の外へ足を向けるのであった。

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