16日目
「『写筆』スキルっていうのが取得可能になってる。」
「私の方もだ。それに『紙作成』スキルと『インク作成』スキルも新しく取得可能枠に入ってるな。」
朝の日課となりつつあるステータス確認した二人は、お互いが取得可能になったスキルを披露し合う。
「『写筆』スキルって・・・あれだよあれ・・・」
彩加は涙目である。
写筆スキルと、そのまんまのネーミングスキル。
そんなものを取得出来る羽目になった行動は一つしか思い浮かばない彩加である。
原因など、ゲーム開始前に無理やりゲーム内に送らされたデータしかない。
薫は、彩加からしてみれば異常な情熱をもって試行錯誤の末、紙とインクを完成させ、あまつさえ、動物系の脂分を湯煎し、雑草を「こより」のようによったものを芯にキャンドルまでつくり、彩加の受験勉強の環境を整えた。
たった、100KB程のデータ量を紙に書き写すだけとはいえ、楽しい楽しいゲームの最中にさせられるのはたまったものではない。
薫にいたれば、自分に送られてきた問題と解答を書き写すだけでなく、問題を写したものと、自分で解いた解法を記したものの2種類をきっちり仕上ている。
これが、彩加がデータを写しただけの時間と同じ日数しかかかってないのが、彩加からすればさらに腹立たしい。
そしてなにより、それを使ってのお勉強が待っているのだ。楽しいはずがない。
「全部書き写してからスキルの取得してもしかたないし。いらないよ、こんなスキル。」
さらに彩加のテンションを下げさせたのが、これである。
そう、昨日、やっとデータを写し終わったところなのだ。
今更書き写すデータもなく、魔方陣はすでに無くても発動できるようになっていた。
取得可能にはなったが、とても必要の無いがっかりスキルなのだ。
因みに、薫が取得可能になった紙作成スキルとインク作成スキル。
こちらも、昨晩までに大量生産を終わらせていたので、当分作成の必要はなく、こちらも写筆スキル同様死にスキルとなった。
「アノ一番輝いてるのが北極星。」
「どれ?」
「あの7つの星を繋ぐと『ひしゃく』の形になるだろ。柄杓は彩加には判らないか・・・水をくみとる道具なんだが・・・」
薫は地面に柄杓の形を描いていく。
「その柄杓の形をしたものが北斗七星と言われる星座だ。そして、その北斗七星から柄杓の口を結んだ線を5倍に延ばすと北極星がある。こちらの方が見つけやすいかもな。」
「いや、だから、それが何?」
「北極星の高度が解れば、今いる場所の緯度がわかるだろ。ここは北極星があるから北緯だな。」
「そんなのどうやって測るの?」
「こうやって、正方形の紙を三角に折って、さらに3回折ると16分割すれば、一つの折れ目の角度は5.625度になる。これが紙分度器な。
後は紙分度器の1辺に真っ直ぐな棒をつけ、折棒と折り目が収束している接点から重石をつけた糸をたらせば角度が測れるようになる。棒を目と対象物の線上になるようにすればいいんだよ。」
「いや、そもそも、何の為にそんな事する必要があるの?」
「緯度がわかれば、大体の気候がわかるだろ。四季があるかないかも。」
「それって必要?って言うか四季ってなに?」
「まっ、知ったところで気候を変えることは出来ないから必要ないといえば必要ないな。
人間が自然に合わせていかなければならないから。
しかし、作物の収穫できる時期がわかったり、四季があるならその対策も先に準備出来るしな。
四季っていうのは、太陽の自転軸と地球の自転が平行でないことによって起こることで、太陽の位置と地球上での公転軌道上の位置関係によって日照時間等の違いによって暑くなったり寒くなったりと気候が変化する事象だ。これも緯度によってあったり、無かったりするけどな。
四季は、星座でも判断できることもあるんだ。
因みに、今は春だな。」
「だから、なんでわかるのよ。」
完全に空調管理された生活空間で生活する彩加にはピンとこない話のようで、きょとんとした顔をしている。
「北極星の角度的に、おそらく私達が住んでいる地域と変わらない位置に居るはずなんだ。
そして、あれとかあっちの星座、もちろん北斗七星も、私達の住んでいる地域では春に見られる星座なんだよ。星の輝きっていうのは、何億年や何十億年前のものだから、このゲームではどうやら、それを計算に入れて無くしてたり、逆に増やしたりしているみたいだけど、大多数は変わってないからな。」
「・・・・」
星というものにこれだけの薀蓄があるのは知らなかった彩加である。
そもそも、昼も夜も同じ明るさ、同じ気温の中で生活している彩加にとって、太陽や月、そして星などただの空の飾りとしか思っていなかった。
太陽と月は、人工ドームに覆われた空で、同じ軌道上を時間によって移動している物体なのだ。
そして本物の太陽と月、さらに星は半透明なドームの向こう側に、目を凝らすとうっすらと見えているものである。
日常生活で星を意識しろと言うほうが無理というものである。
そして、星の存在どころか、その配置まで完璧なまでに把握している薫の頭の中はいったいどうなっているのだろう。
「北極星のある方向が北ってわかるだろ。
これで、地図を書きやすいし、迷った時に方位がわかるようになる。」
あきれた顔をする彩加を見て、薫は慌てて話を締めくくった。
そして、彩加は森の中の探索ついでに地図作りを命じられ、せっせと書き込んでいくのだ。




