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3/3

デスゲーム VS 鼻毛男

男たちは、巨大な塔の上に集められていた。


地上は見えなかった。


雲が、足元より下を流れている。


塔の外側には、人ひとりが歩けるだけの細い金属製の通路が伸びていた。


通路は塔を囲むように、一周している。


手すりはない。


命綱もない。


正面のモニターに文字が表示された。


《制限時間 二十分》


《時間経過とともに、通過済み区画を順次格納します》


男たちがざわついた。


「格納って……」


その瞬間。


最後尾の足場が、音を立てて塔の中へ引っ込んだ。


誰かが息を呑んだ。


「落ちたらどうなる」


答えはなかった。


鼻毛男はケースを開けた。


定規を当てる。


七・二ミリ。


記録する。


変化なし。


隣の男が見た。


「……何してる」


「観察だ」


「今?」


「ああ」


警告音が鳴った。


《残り十九分》


鼻毛男は通路へ足を乗せた。


一歩。


二歩。


歩く。


後ろから声が飛ぶ。


「おい、待て」


鼻毛男は歩く。


風が吹いた。


上着が大きく揺れた。


数百メートル下で、雲が流れている。


男たちは動けなかった。


鼻毛男だけが進んだ。


塔の四分の一ほど進んだところで、


突然、立ち止まった。


「止まったぞ」


「風か?」


「怖くなったんじゃないか」


鼻毛男はケースを開けた。


定規を取り出した。


鼻毛に当てる。


七・二ミリ。


記録する。


高所。


強風。


変化なし。


「あいつ、鼻毛を測るために止まったぞ」


鼻毛男は定規をしまった。


再び歩き始めた。


《残り十五分》


後方で足場が格納される音がした。


一人の男が叫ぶ。


「進め!」


男たちがようやく動き始めた。


鼻毛男は振り返らなかった。


一歩。


鼻毛を見る。


一歩。


記録する。


風を見る。


また鼻毛を見る。


「前を見ろ!」


誰かが叫んだ。


鼻毛男は前を見た。


一秒ほど。


そしてまた鼻毛を見た。


「そっちじゃない!」


外周路の半分を越えた。


風がさらに強くなる。


金属の通路が低く鳴った。


鼻毛男は止まった。


「また止まった!」


定規を出した。


七・二ミリ。


変化なし。


《残り九分》


鼻毛男は記録用紙へ書いた。


強風継続。


成長確認できず。


歩行再開。


そして歩いた。


やがて、一周の終点が見えた。


係員たちが待っている。


「来るぞ」


「あと十メートル」


鼻毛男は急がなかった。


一歩。


一歩。


最後の足場を踏む。


広い床へ到達した。


《通過》


周囲から大きな息が漏れた。


鼻毛男はその場に座った。


ケースを開く。


定規を当てる。


七・二ミリ。


記録する。


外周路、一周。


高所。


強風。


生命危機あり。


変化なし。


係員が近づいてきた。


「……怖くなかったんですか」


鼻毛男は答えなかった。


ケースを開く。


定規を当てる。


「何を考えていたんですか」


「成長しているかどうかだ」


係員は黙った。


そのとき。


後ろから声がした。


「俺も行く」


入口で動けなくなっていた男だった。


足は震えている。


顔も青い。


それでも、一歩を踏み出した。


鼻毛男は何も言わなかった。


ケースを開ける。


定規を当てる。


七・二ミリ。


変化なし。

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