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三本

 次の企画会議。


 佐伯さんの前に三枚の企画書を並べた。


 一枚目。


 流行をかなり意識した異世界もの。


 二枚目。


 自分が得意そうな青春もの。


 三枚目。


 昔から書きたかった話。


「どれが一番売れそうですか」


 佐伯さんは答えず、ペンを差し出した。


「今夜から書くなら、どれにします?」


「企画を選ぶんじゃなくて?」


「いいから」


 三枚を見比べる。


 ペン先は迷って、三枚目の企画書に落ちた。


 主人公とヒロインが、記憶を売る店の前で夜明けを待つ場面。


 企画書では三行しかない。


「ここです」


「じゃあ、これをやりましょう」


「でも、売れそうなのは」


「今のままだと売りづらいです」


「ですよね」


「だから捨てろとは言ってません」


 佐伯さんは三枚目を手元へ引き寄せた。


「主人公が何したいか遅い。ヒロインも出るの遅い。設定説明も多い」


「はい」


「直しましょう」


「三枚目を?」


「三枚目を」


 赤ペンが入る。


 冒頭。


 人物紹介。


 設定説明。


 ページの端がどんどん赤くなる。


 でも、俺が指した夜明けの三行には、何も書かれなかった。


「冒頭、どこまで削れます?」


「……やってみます」


 その日、三枚目の企画書は赤だらけになった。


 でも、帰り道もずっと鞄の中にあった。

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