1/2
1. 朝の挨拶
覚えていらっしゃるかしら。
サーモンのマリネや冷たいスープといった夏のお料理をいただきながら、私は新調した靴を履いた足の事ばかりを気にして、あなたが色々話しかけてくれるのに上の空で随分あなたを落胆させてしまって……。
店を出て、黙って川辺の道を歩く途中にあなたが私の踵に気がついて、「どうして黙っていたんですか」って。
ベンチに座るよう言ったあなたに、靴を脱がされ、足を見られたのがなんだかとてもどきどきしたの。
それから。
街灯の光をきらきら反射する川を眺めて、沢山お話ししましたね。
どこからか路上のヴァイオリン弾きが奏でるワルツが聞こえて、「踊りたいわ」って言ったわたしに呆れたあなたの顔がなんだかとても可愛らしく思えて――ああわたし、きっとこの人とずっと一緒にいるのだわ、って思いました。
覚えていらっしゃるかしら。
あの夏の夜を。
結婚して三十年目の朝を迎えた旦那様へ。
おはようの挨拶と愛を込めて。




