第10話 勇者たちは黒之魔女に翻弄される③
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今更、あんな夢を見せられても……。
私はベッドの中でそんなことを思った。
だって、あの時に黒崎先生に言われたじゃない。
『世界樹の祈りは強いなぁ……』
でも、あの反応はどう考えたらいいのだろう。
普通に考えれば、私にとって神楽が運命の人ってことを言いたいんだろうか……。
でも、その夢を見ていて、あの樹が世界樹であるということを私は知っている。
確か世界樹の頂上まで幼いころに上り切り、そこの女神像に祈りを捧げれば永遠の愛を誓うことが出来る。
そこまでは知っている。だからこそ、今朝見た夢はかなりリアルなものであった。
「やっぱり、私でいいんだよね……」
私は胸の辺りで握りこぶしを作り、「うん」と一つ決意を新たにする。
制服に着替え終わると、すぐさま運転手とともに学園に向かう。
できれば朝食を取りたいのだが、今日は週に一度のあの日なので、誰よりも早く神楽のもとにいておきたかった。
て、何で私、こんなに神楽のことでいっぱいなんだろう。
後部座席で私は少し思い出すことで顔を赤らめてしまう。
キスをしたこと、お互いが気が狂ったようにエッチなことをしてしまったこと。
よくよく考えると、最後までは到達していないとはいえ、私と神楽の関係ってもう、「あれ」よね。
十分に恋人と言ってもいい関係よね……。
私は運転手に悟られないようにするため、窓の外の景色を見る。
男女睦まじく登校する姿が目に飛び込んでくる。
私も、ああいう風に通学ができたらいいのに……。そんな風に羨ましくなってしまう。
そんな羨ましい光景を見ているうちに学校に到着する。
最近はいつも朝食を食堂で取るようにしている。
もちろん、自宅の食事も美味しいのだが、この聖天坂学園の食堂は侮ってはいけない。
朝食・昼食・夕食・間食に至っても一切の手抜きがなされておらず、量、栄養バランス、そして味、どれをとっても美味しいと認めざるを得ない。
今度、私の侍女も連れてきてあげたいとさえ思う次第である。
鞄を持ったまま、食堂に着くと、朝の賑わいで活気づいていた。
ルール通り、トレイを取って行列に並び、注文を受付で伝える。
朝はパン食と決めている私は、その旨伝えると、すぐさま、プレートに盛りつけて、提供してくれる。
支払いのための生徒証を機械にかざすと、それで決済終了。
登録された口座から月末に落とされる仕組みになっている。
「さて、どこに座ろうかしらね……」
見回すと、神楽をちょうど見つける。
が、声を掛けようとして、すぐにやめてしまった。
そこには洞泉江奈が一緒にいたのだ。彼女は幼馴染で神楽のことを兄の様に慕っている。
朝の時間にわざわざ割り込まなくてもいいかと思い、日当たりの良いテラスに空いてる席を見つけ、そこに腰を下ろして食事を取った。
チラリと後方を見ると、笑顔の江奈が話しているのが分かる。
何だろう。このモヤモヤした気持ちは―――。
放課後まで話しかけることが出来ずじまいで、何だか、すれ違いを感じたが、別に仮で付き合っているという感覚なのだから、致し方ない。
こんなところで、自分の意志の弱さに落胆させられてしまう。
放課後まで様子を見ていたが、「死の宣刻」が発動した様子はない。
となると、放課後に起こる可能性が高い。
私は今度こそは、と話しかけようとすると、
「あ、分かりました!」
先生に呼ばれたのか、元気よく返事して、廊下を走り出した。
まずい!
私は急いで廊下に出るが、そこにはすでに彼の姿はなかった。
周囲にいた生徒に、神楽のことを訊くと、部室棟の方向に向かったという。
私は追いかけることにした。
部室棟の前に着くと、嫌な予感で胸騒ぎが起こる。ゾクゾクと寒気のようなものを感じ、ただ事ではない気がした。
私は呪術法術同好会の部室のドアをそっと開けると、そこには、白目を剥いていて痙攣している神楽とその前に仁王立ちしている人物がいた。
その人物は禍々しいオーラを放ちながら、腕組みをして、神楽を見下ろしている。
色気のある服装に褐色の肌―――。
「黒崎先生! いえ、ここでは黒之魔女と呼んだ方が良いのかしら?」
私が叫ぶと、黒崎先生は音もなく振り返る。
その瞳は普段のものとは異なり、ハイライトを失った虚空を見つめるような瞳。
色気のあるいつものような雰囲気とは異なり、何やら恐怖を感じる。
「あら……? あなたは確か……ユリナールじゃない」
「私は今、ここではそんな名前じゃないわ」
「あら、そう。でも、私にとってはユリナールなんだけどね。懐かしいわ」
すぅっと私に近づく。
ちょ、ちょっと待って!? 今、足音がなかったんだけど!?
気づいたときには私の目の前に迫っていて、そっと指先で私の顎を撫でる。
一瞬で恐怖心が膨れ上がり、寒気がする。
「アンタ、黒崎先生じゃないわね?」
「黒崎先生? ああ、この身体の持ち主のこと? 黒之魔女のことね。どうもあの子は人間社会となれ合おうとするから……」
偽黒崎先生は、肩を竦めてやれやれと首を横に振る。
「アンタ、いったい誰なの……?」
「あれ? 私のことを忘れたの? あなたが魔王のころに色々と悪事に加担してきたはずなんだけど」
「お生憎様。私の記憶は完全に回復したわけではないの」
「あら、そうなんだ。じゃあ、一番思い出してくれそうなのを……」
うーん、と腕組みをして考えようとする。
それよりも、私としては痙攣している神楽に目をやる。
「それよりも、神楽の『死の宣刻』を止めたいんだけど……」
「ああ、あれ? 別に構わないわよ。それに慌てなくても、24時間以内にキスすれば治るんだから放っておいても死にはしないわよ」
「いや、そういう問題じゃなくて、見ていて精神衛生上、問題なの」
「あ、そう。不本意だけど、ここでキスをしてもいいわよ」
私は促されるまま、神楽のもとに近づき、そして、舌を絡めるようなキスをする。
「うーん。いつ見てもエッチよね。そんなキス、好きなもの同士でないとできないものね」
「ええ、そうね。私は神楽のことが好………ううっ!?」
また来た。
好きって言葉にしたり意思表示したりしようとすると、心臓が痛み出す。
きっと、あの光の杭の所為ね……。
「あれ? やっぱり痛み出した? 神楽への思いを具現化しようとするとダメよ……。精神的に壊れちゃうんだから……」
「これもアンタの所為?」
「そう。あなたと神楽の関係を上手くいかないようにするためにね」
私は神楽の呼吸が落ち着いたのを確認して、神楽に対して私の膝枕を貸してあげる。
そっと、彼の頭を撫でて、愛おしい気持ちでいっぱいになる。
が、今目の前にいる敵と思しきもの………偽黒崎先生を睨みつける。
「あらら、そんな目で見てもらいたくないなぁ……。その昔、一緒に『炎之魔王』の玉座に悪戯したりしたのに………」
「ま、まさか……。白之魔女!?」
「ご名答! やっぱり悪戯は忘れられないわよね……」
「いや、そうじゃなくて、アンタは確か死んだはずなんじゃ!?」
「そうね。確かに死んだわ。勇者どもの罠にはまってね。私としたことが、本当にあの時は油断していたわ」
と、私の膝枕でゆったりと眠る神楽を忌々しそうに睨みつける。
「でも、あの時、魂魄凝縮の魔法を自身に掛けたのよ。すると、魂魄が似た組織細胞を持つ、黒之魔女のもとに飛んできたってわけ。この子、私が憑依したことすら気づいていないんだから。おかしなものよね」
「で、どうして出てこれたの?」
「それは今は言えないわ。言ったら、この子に何かしらの手を下そうとするでしょ?」
「どうかしら……」
「でも、この子の身体ってとっても便利なの。魔力も凄くあるし、人を誘惑させれる『魅了』を持っているのも本当に都合がいいわ」
「どうして、そこまでして、私たちの周りに現れるのよ」
「……………それを答えて何が分かるの?」
「いや、かなり溜めたわね……。理由もないのに、こんな手の込んだ呪いとか掛けないでしょ?」
「ああ、そうよね。理由はとても簡単よ。私はあなたのことが好きなの……。子どものころに見たときから。だから、あなたをそんな男にあげたくない。だから、私はあなたたちが決して結ばれることのない呪いを世界樹で掛けた。素晴らしい効果だったでしょ? 前世では、魔王と勇者に分かれたでしょ? そして、最愛の人にあなたは殺される。運命って残酷よね」
「……え。じゃあ、あれはあなたが仕組んだことなの?」
「そうよ。だって、私の手から離れて行っちゃうなんて、考えたくもなかったんだもの。それならば、人生を狂わせてやりたいと思ったの」
私の瞳から自然と涙が零れ落ちる。
そんな……どうして……。そこまでして私を落としたかったの?
「許せない……」
「今もそうでしょ? あなたは神楽に愛を告白しようとすると、胸に激痛が走ってそれどころじゃない。それにセックスをすれば、そのまま死に至ってしまう。この間は折角というところまで行ったのに、黒之魔女がお人好しだから、教えちゃうんだからねぇ……。知らないままで死ねた方が幸せだと思ったんだけど……」
「どうして、人の恋路を邪魔するのよ」
「だから、言ったじゃない。私があなたを好きだからよ」
「そんなの私の自由がないじゃない!」
「そうね。あなたは自由じゃないわね。作戦を変更するわ……。あなたに自由を上げる」
「それじゃあ!」
「果たして、あの頃の力を抑え込むことができるかしら? そうでなければ、最愛の人を殺すころになるわよ」
「……………え。」
私が呆気に取られている隙に、彼女は私のもとにそっと近づき、私と唇を重ねる。
それは嫌……。あの頃の血からなんていらない―――!!
彼女の口から、私に唾液とは異なる何かが注がれる。
私は拒もうと身体を揺り動かすが、彼女によって拘束されて動くことすらできない。
トクトクトク……………
と、喉を潤すように変な感覚が襲う。
そして、ドクンドクンと激しい血流の変化を感じる。
な、ナニこレ………。ワたし ガ コわレル……………。
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