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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第一章 幼女エルフの偏屈ルーコ

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第28話 最後の攻防とお姉ちゃんの魔術

 

「……なるほど、確かにその通りじゃな。ならばお主が仕掛けてくるまで待とうかの」


 挑発めいた私の言葉を額面通りに捉えたらしい長老は、向けた杖を下ろしながらも視線は外さないまま、私の出方を窺ってくる。


待ってくるのは予想外だったけど、これは好機だ……!


 会話の裏で身体の中心に集めて準備していた魔力に意識を向け、大きく息を吸い込む。


 本来なら詠唱の時間を稼ぐために他の魔法を使うつもりだったが、待ってくれるのなら是非もない。ここまで使うのを躊躇っていた切り札を切るべく詠唱を口にする。


「〝命の原点、理を変える力、()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()……〟」


この詠唱の改良は考えていたいたけど、まだ実際に試した事はない……でも、想定通りならこれで……。


 きちんと意図したように発動するかを案じながらも、身体の中心に集めた魔力を圧縮させつつ、詠唱を続ける。


「〝()()()()()()()()()()()()()〟━━『魔力集点(コングニッション)』」


 呪文と共に圧縮した魔力を解放、解き放たれた魔力が一気に全身へと行き渡り、身体の内が燃えるような熱が駆け巡る。


……よし、思った通り、出力は落ちるけどこれなら少しだけ魔力を残せる。


 姉との模擬戦で使った時の程の強化幅はないが、その代わりに身体の奥底で僅かに魔力を残す事に成功、これで使用後の魔力切れによる意識の喪失を防げる。


 とはいってもそれだけで魔力をほぼ使いきってしまう事に変わりはなく、これで決めなければ後はない。


「━━どうやら準備は整ったようじゃの」


 木を挟んだ向こう側からでも私の変化を感じ取ったらしい長老が表情を変えずに呟く。


 その呟きが耳に届くと同時に私は木の裏から勢い良く飛び出し、『魔力集点(コングニッション)』によって解き放たれた魔力を強化魔法に変えて加速する。


「やぁぁっ!」


 文字通りの目にも止まらない速度で一気に間合いを詰め、気合いの掛け声と共に長老の胴体目掛けて蹴りを打ち放った。


「ほう、中々の速度じゃな」

「っ!?」


 放った蹴りは長老に当たる直撃で突如として現れた透明な壁に阻まれ、反撃と言わんばかりに無詠唱魔法が飛んでくる。


 真横で炸裂した無詠唱魔法に対して私は防がれた蹴りを起点に飛び退く事でかわし、すぐさま長老の後ろに回り込んでもう一度蹴りを叩き込もうとする。


「っ……硬い」


 側頭部に向かって放った上段蹴りは鈍い音を立てながらも再び透明な壁に阻まれてしまった。


「ほっ、何度やっても同じじゃよ。規格外の強化魔法で威力が上がろうと、ただの蹴りでは儂の防壁を破る事は叶わん」


 蹴りを防いだ長老は動じる事なく淡々とそう言いながら無詠唱魔法で反撃を返してくる。


「ぐっ……」


 以前のものよりも出力が弱いとはいえ、『魔力集点(コングニッション)』で跳ね上がった魔力を使った強化魔法での蹴りをこうも涼しげに防がれるとは思いもしなかった。


 おそらくあの防壁はここらを覆っている魔法壁と同じ系統の魔法だ。あれも攻撃と同じように無詠唱の魔法なのだろうが、それで今の私の蹴りを防ぐ程の効果を発揮するのは異常の一言に尽きるだろう。


「……無詠唱でこれだけの強度って事はあの魔法壁はもっと硬いって事か」


 反撃で飛んできた無詠唱魔法の衝撃を避けてから一旦距離を取りつつ、長老の防御手段を突破するための方法を考える。


……たぶんあの魔法壁は私が『魔力集点(コングニッション)』を発動したのに気付いてから常時展開させているんだと思う。


 いくら長老でも今の私の速度に反応してから魔法を使うのは難しいだろうし、もしそれが出来ているというのならこうして私が長老の攻撃を避けられる筈がない。


常時展開させてるとしたらあの魔法壁を真正面から突破する必要がある……そのためには……っ!?


 思考を回すため僅かに立ち止まった私を狙い撃つように不可視の衝撃が飛び、それを避けるためにその場から動く事を余儀なくされてしまった。


「ほれ、立ち止まっている暇はないぞ?考え事なら動きながらする事じゃな」


 私の後を追って連続で不可視の衝撃を放つ長老。一発毎に地面が抉れるその威力を見るに強化魔法を纏った状態でも直撃は避けるべきだろう。


っこうも矢継ぎ早に攻撃されると考える余裕が……!


 常に動き回っていなければならない状況が時間経過と共に私の首をどんどん締め付けていく。


 無詠唱でこうも威力の高い魔法を乱発して疲れの一つも見せない長老と連戦で体はぼろぼろ、魔力も尽きかけている中でさらにそれを一気に消費している私、どちらが先に力尽きるかなんて誰が見ても明らかだ。


「はぁぁっ!」


 突破口を探すべく魔法を避けながら再び長老との距離を詰め跳躍、加速の勢いを乗せ、長老の頭に全力の踵落としを叩き込んだ。


「……だから言ったじゃろう。何度やっても同じゃと」


 巨大な魔物だろうと沈めそうな威力を秘めた一撃は轟音と衝撃を立てるも長老には届かない。


やっぱり駄目か……!


 真上からの攻撃ならあるいはと思ったが、長老の防壁に隙はなかったらしい。


「く、そっ!」


 反撃を避けようと空中で身を翻し、悪態を()きながら急いでその場を離脱する。私が離脱して距離を取った瞬間、再び息吐く暇もない攻撃が容赦なく襲い掛かってくる。


「焦っておるのう……まあ、無理もないかの。お主の魔術はその効果の反面、効果時間が短く、使ったが最後、戦闘不能になる代物じゃからの」

「っ……全部……お見通しって……わけね……」


 おそらくこの前の姉との模擬戦を見ていたのだろうが、そこまで知られているとなると、状況はさらに私の不利に傾いたと言える。


 何せ長老はこのまま攻撃を続けれているだけで私が力尽きる事を知っているのだから。


あれを突破するには……他の魔法を……使わないと……。


 動きながら必死に状況を打開しようと考えるも、不利な要素が多く、避ける方に意識を割いている事もあって中々考えがまとまらない。


っ落ち着け……どのみち今、私にできる事は少ない……だから……不要な選択肢は切り捨てる……。


 心を落ち着かせ、どうにか選択肢を絞る。現状、私にできるのはこのまま強化魔法での攻撃を続けるか、危険を承知で他の魔法を使うかの二択だ。


 前者は『魔力集点(コングニッション)』による()()()()()()()()()()()()()()()()()ため、そこに僅かな可能性を見出だせなくはないが、今よりも速度が上がるとなると私の意識の方が追い付けなくなってしまうという問題もある。


 そして意識が追い付かないという事は当然、出力を上げても制御は出来ないという事で、何より威力が上がったとしても打撃であの防壁を破れるとは思えない。


 そうなると消去法で私の取れる選択は後者……つまり『魔力集点(コングニッション)』によって威力が底上げされた魔法で防壁を突破するという手段に限られてしまう。


……他の魔法を使うって事はその間、強化魔法を解かないといけない……けど、今の状況で一瞬でも強化魔法を切らしたらその時点で殺される。


 『魔力集点(コングニッション)』を使っている状態だろうと私には強化魔法と他の魔法との併用は出来ない。

 そのため他の魔法で仕掛けようと思えば必然的に強化魔法を解く必要があり、おそらく長老はその隙を見逃さないだろう。


もしその一瞬に無詠唱魔法を使われたら私はそれを避けられない……良くて相討ち、最悪は魔法が発動する前に死ぬ……。


 仮に運良く相討ちを避けて魔法を発動できたとしても確実に防壁を破れる保証もなく、下手をすれば壊せないまま反撃だけ受けるという事態もあり得る。


「ぐっ……まずっ……!?」


 考えを巡らせていたせいか、はたまた長老が私の速度に慣れてきたのか、それとも『魔力集点(コングニッション)』が切れかけているせいか、不可視の衝撃をかわしきれなくなってきていた。


「……そろそろこの応酬にも飽いてきたの。これ以上、主に策がないのなら次で終わりじゃ」

「っ!?」


 そう言って長老がくるりと杖を回転させたその瞬間、轟音と衝撃が爆ぜ、不可視の衝撃が辺り一面を吹き飛ばした。


 衝撃は地面を抉り尽くし、巻き上がった土煙が一帯を覆う。


「ちと派手にやり過ぎたかの。これでは何も見えん」


 あれだけの規模の魔法を行使してなお、息切れの一つも見せない長老は自らが引き起こした視界を塞ぐ土煙を前に渋い顔をする。


「……仕方ない。晴れるのを待つとするかの」


 魔法で払うのも億劫だと自然に晴れるのを待つ事にしたらしい長老が瞑目した一瞬の隙に()()()()()()()()()()()()()


「ぬっ……?」

「━━『突風の裂傷(ガーストレイス)』っ!!」


 長老が私の接近に気付くもこの距離なら反撃も間に合わない。その懐まで踏み込んだ私は圧縮され、高密度の風を纏った右手を勢いのまま振り抜いた。


 防壁と風の刃が甲高い音を立てて衝突し、激しい燐光を散らして削りあう。


「これは……」


 長老が僅かな驚きの含まれた呟きを漏らす中、決着の瞬間が訪れる。

 永遠にも感じられた攻防だったが、時間にしてみれば一瞬……交錯の末、壮絶な削りあいを制したのは私の放った魔法だった。


「がぁぁぁっ!!」


 防壁を打ち破った事でその役目を果たした風の刃は霧散してしまうも長老が大きな隙を晒した事に変わりはない。

 ここで決めると強化魔法を纏い、振り抜いた勢いを使って回し蹴りを叩き込んだ。


 『魔力集点(コングニッション)』による強化魔法を纏った回し蹴りは過たず長老の胴体を捉え、空気の爆ぜる音と共に吹き飛ばした。


「っはぁ……はぁ……もう……限……界……」


 蹴りを放ち終えると同時に『魔力集点(コングニッション)』の効果が切れ、意識を保てるようにと僅かに残していた分以外の魔力が霧散して消えてその場にへたり込んでしまう。


これ以上は一歩も動けない……本当にぎりぎりだった……。


 長老が辺りを吹き飛ばす魔法を使ったあの時、咄嗟に制御を捨て、強化魔法を全開にして後ろに跳んだ事で逃れた私は攻撃が止むまで木の陰に隠れてやり過ごし、詠唱を準備して機会を窺っていた。


 とはいえ、逃れたとていっても全くの無傷ではなく、避けきれなかった分の衝撃を受けたせいで少なからず手傷を負ってしまい、残り少なかった魔力をさらに削られてしまった。


……おかげで『魔力集点(コングニッション)』を使いきる事になったけど、倒しきれて良かった。


 今の私は立つ事も億劫になるほど疲弊しているおり、戦うどころか、逃げる事すらも出来ない状態だ。もし、さっきの攻防で決着がついていなければ私に打つ手はなかっただろう。


「……動くのも……しんどいけど……早く……隠れるところを……探さないと」


 長老を戦闘不能に追い込んだ事で明確に妨害してくる相手はいなくなったが、それでもまだこの魔法壁内に魔物がいる可能性があるので、隠れて休む必要があった。


……あれ?そういえば長老を倒したのにどうしてまだ魔法壁が張られたままなんだろう。


 命までは奪っていないにしても、あの一撃を防御なしに受けたのなら少なくとも気絶くらいはしている筈だ。


 そして術者本人が気を失ったなら魔力の供給源が無くなり、魔法もその効果を失うのが普通なのに、長老の張った魔法壁は今も変わらずに残り続けていた。


「━━やれやれ、年寄りはもっと労ってほしいものじゃのう」


 声と共に衝撃が飛び、まともに動く事の出来ない私に容赦なく襲い掛かってくる。


「なっ……!?」


 当然ながら体力も魔力もない今の私に迫る衝撃を防ぐ手段はなく、そのまま吹き飛ばされて受け身もとれないまま、魔法壁に打ちつけられてしまった。


「がっ……!?ごほっげほっ……ぅぁっ……」


 激しく咳き込み、血反吐を吐きながらも、全身に走る痛みでまだ自分が生きている事をどうにか自覚する。


な……んで……まだ……動け……るの……?


 私の回し蹴りは確かに無防備な長老の胴体を打ち抜いた。防御も強化魔法も間に合わない速度で確実に捉えた筈だ。

 いかに長老が魔法の扱いに長けていようと、あの状況で攻撃を防げる訳がない。


「ほう、まだ息があったか」

「う……ぁ……」


 感心したような口振りで首をこきこきと鳴らしながらゆっくり近付いてくる長老。服こそ汚れているものの、その立ち振舞いは攻撃を受ける前と何ら変わらず、まるで堪えた様子もなかった。


「ふむ、どうやら儂がこうして無事なのが不思議でしょうがないといった顔じゃのう」


 髭を擦り、私の思考を見透かしたようにそう言った長老は片眉を上げ、少し得意気な顔で続ける。


「確かに主の一撃には驚かされた。よもや防壁を突破されるとは思わなんだ。おかげでまともに受ける他なかったからの」


 つまり長老は私の攻撃をまともに受けて平然と立ち上がってきたという事になる。


あり……えない……あれを……生身で……受けきる……なんて……。


 いくら長老でも……いや長老だからこそ、その年齢故に素の身体能力、耐久力は低く、強化された私の回し蹴りを受けようものならまともに立てる筈がない。


「儂の身体はある種特別での。見た目よりも頑丈な上に回復力も異常なんじゃよ。それこそ一度の治癒魔法で万全に回復するほどにの」

「そ……んな……」


 言ってしまえば長老は防壁で私の攻撃を防がなくても対して問題はなかったという事だ。

 あまりに理不尽、魔法の腕だけでなく長老がそんな特異性を持っているなんて誰が予想出来ただろうか。


「……主は良くやった。あの魔物を殺し、儂に一撃食らわせたんじゃからの。正直、予想を遥かに上回る実力じゃったよ」

「ぐ……ぁ……」


 おそらく止めを刺すつもりなのだろう。私の方を見据えた長老は手にしていた杖をゆっくりと振り上げる。


「しかし、それもここまで。予想を上回っても儂を越えられなかった時点で主の命運は尽きた……本当に残念じゃ」


 もはや私に打つ手は残されていない。体力、魔力共に限界を迎えていたところに追撃を受け、文字通り指一本動かない状態だ。


もう……だめ……っ。


 迫る死に怯え、ぎゅっと目を瞑ったその瞬間、魔法壁の外側から誰かの近付いてくる足音が聞こえてきた。


「━━〝水を包む水の膜、礫は雨に雨は槍に……降れ降れ降り注げ、重なる豪雨は全てを貫き、敵を射るまで止む事を許さない〟」


 突然聞こえてきた詠唱に長老も振り上げた手を止め、視線をそちらに向ける。


 ━━『重なる水の槍雨(デュアキュレス)


 凛とした声音が響き、魔法壁の上、遥か上空に巨大な水の塊が出現。大きなうねりと共に水の塊が弾け、凄まじい数の水槍が魔法壁へと降り注いだ。


「これは……」


 降り注ぐ水槍が魔法壁を揺らし、地響きかと錯覚する程の轟音を響かせながら表面を削り取っていく。


 圧倒的な物量の水槍はあっという間に魔法壁を削り切り、こちらと外とを隔てていた壁が霧散するように崩れ消えていった。


「お姉……ちゃん……?」


 痛みと疲労で朦朧とする意識の中、私の目に映ったのはいつもとは違う剣呑な雰囲気を纏った姉の姿だった。


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