第234話 新たな拠点と鉱山に住み着く魔物
必要な部品を精査して譲り受けた私達はフレンの店を後にし、再びギルドへと向かっていた。
「――――せっかく好きに持っていっていいって言われたのに……」
私とイストの後をついてきながらベールは頬を膨らませて文句を口にする。
確かにフレンはそう言っていたけど、それはあくまで必要な物という意味だ。それを額面通りに受け取ってなんでも持っていこうとするのは流石に駄目だろう。
「……私達に必要なのは魔道具の部品だけ。欲しければお金を払って買えばいい」
「ぶ~……それはそうだけどさ~くれるって言ってるんだから色々貰ったって罰は当たらないでしょ~?」
「……常識がないんじゃなくて、言葉の意味を分かった上で根こそぎ持っていこうとしてるんだから余計に質が悪い」
剥れるベールに対してイストがうんざりした表情で呟く。
どうやら魔道具の部品を選定している間にもベールが煩かったらしく、その対応で相当に疲れたようだった。
「ちょっと人聞きの悪い事を言わないでよ。私は貰えるものは貰おうとしただけだもん」
「……子供ならともかく、その歳でだもんはないでしょ、だもんは」
「あぁん?口調なんて人の勝手でしょ。なにか文句でもあるの?」
相も変わらず険悪な二人の会話にどこか懐かしい既視感を覚えながらも、参加すると面倒くさそうなので聞かない振りをして先頭を歩き続ける。
「はいはい、俺が悪かった悪かった。面倒だからいちいち突っ掛らないでくれる?」
「何、その投げやりな態度。そっちが先に突っ掛ってきたんでしょ?」
「……そうね、元々はそっちは意地汚いせいね」
「あ?」
おおよそ女の子が出しちゃいけない類の声でイストの言葉に返すベール。
正直、話に首を突っ込みたくはないけど、そろそろギルドに到着するし、これ以上は口論だけじゃ済まなそうなので仕方がない。
「二人共、その辺にして。もうすぐ着くから」
「……ルーコちゃんがそう言うなら仕方ない……アレは後で絞めるけど」
ぼそりと付け加えられた一言が気になるものの、イスト当人はどこ吹く風と聞き流しているのなら私が言及するのも違うだろう。
程なくしてギルドに到着、中に入って受付まで進み、ギルドマスターを呼んでもらい、私達は再度、二階の応接室に向かった。
「…………ったく、俺も暇じゃないんだぞ?そんな気軽に呼び出すな」
その際にギルドマスターがそんな事をぼやいていたが、一度目の呼び出しは向こうからだし、今回も頼まれた依頼に関する事なのだから文句を言われる筋合いはない。
「……依頼に関する要請に来た。そんなに長い時間は取らせない」
「……今朝も話した通り、ギルドは依頼に関して積極的に関われない。その辺を分かってるんだろうな?」
「それは承知の上、別に魔動車を貸してほしいとかじゃない。今回はただ場所を紹介してほしいだけ」
「場所?一体何に使うつもりだ?」
とはいえ、それを態度に出したところで意味もないと、訝し気なギルドマスターに用件を簡潔に伝えて私達はとある場所を紹介してもらい、そのまますぐにギルドを後にした。
紹介された場所はギルドから歩いて十分程の位置にある広めの庭が付いた一軒家だった。
「へ~結構いい場所だね。これくらいの広さがあれば十分、作業できるよ」
到着早々、庭の方へと駆け出したベールがそう口にする。というのも、今回、ギルドに頼んだのは大風呂敷を広げて作業できる場所の提供だ。
魔動車の部品を揃えたはいいものの、当然、組み立てるにはそれなりに広い場所が必要で、宿屋を間借りしている私達には当てがなかった。
持ち運び自体は収納用の魔道具で問題はないけど、作業する場所はそうもいかない。
最悪、街の外で作業をする事も視野に入れていたが、ギルドが良い場所を紹介してくれて助かった。
「作業できる場所だけで良かったけど、一軒家がおまけでついてきたって感じかね」
「……ギルドマスターは好きに使っていいって言ってたからここを拠点にするのはありだと思う。二人共、家は自由に使って」
庭と釣り合っているかと聞かれれば微妙だけど、一軒家もそれなりに大きく、数人が寝泊まりするくらいなら問題はないだろう。
「それはありがたいけど、ルーコちゃんは?」
「私はいい。ここから宿屋も近いから」
「……なら俺も遠慮しておく。流石にこの状況は倫理観的に駄目だろうし」
私に引き続き、拠点を移す事を断るイスト。まあ、部屋を分ける前提とはいえ、あの二人が同じ家で暮らすなんて何が起きるか分からないし、私としても、ある意味では安心できる。
「何が駄目なの?ちょっとよく分かんないんだけど」
「いや、何がって……しゃーなしの野宿とかならともかく、年頃の男女が同じ屋根の下で暮らすのはまずいでしょ」
「……ふーん、ってことは何?普段、アレとかなんとか言ってるくせに私を女の子として意識してたんだ?」
「…………一般論の話だよ。それより、魔動車の部品がきちんと揃ってるか確認した方がいいんじゃない?足りなければ買い足すとかしないとだし」
揶揄うようなベールの言葉にイストは面倒そうな顔をしつつも取り合わず、適当に話題を逸らす。二年たった今でもその手の話はいまいち理解ができていないので、私から特別、何かを言う事もない。
「……イストの言う通り、足りないものがあると面倒だから確認をお願い」
「ま、そうだね。それじゃ確認、確認っと」
ベールは言葉に従い、収納用の魔道具から部品を取り出していく。
外装、車輪に様々な部品、動力と一通り、出し終えたところでベールがあれれ~と、変な声を上げる。
「どうかした?」
「ん~……その、一通り揃ってるんだけど、動力に繋げる機構を担うための部品が壊れてて……」
「……え、何、新しい部品が必要ってわけ?」
「や、魔鉱石があれば私でも修理できるからそれは問題ないと思うんだけど……」
何故か言い淀むベールに対して私とイストが首を傾げていると、彼女は観念したように言葉を続ける。
「その魔鉱石なんだけど、実験で使おうとしたらどこも品薄でね、話を聞くに近くの鉱山に魔物が住み着いたらしくて、討伐されるまでしばらく入荷しないって……」
「……つまり、魔鉱石が欲しければ魔物が討伐されるまで待つか、自分達で討伐するしかない、と」
「そうなるんじゃない?ギルドが依頼を出してるだろうからその内、討伐されると思うけど」
さっき会った時にギルドマスターがなにも言ってこなかったという事は私じゃなくてもできる案件だという事だ。
だからイストの言う通り、その内、討伐されるのだろうけど、それではあまりに不確定過ぎる。
「……仕方ない。ちょっと討伐してくるからベールは進めるところまで作業を続けて。イストはその手伝い、喧嘩をしないようにね」
「え、あ、ちょ――――」
物凄く急ぐわけではなくても、そこまでのんびりしている訳にもいかないと、二人に向けてそれだけ言い残して私は三度、ギルドへと向かい、依頼を受けたその足で町を出て、箒にまたがり、例の鉱山へと向かった。




