第233話 店主の謎と研鑽の結果
「……ふむ、何を勘違いしておるかは知らんが、わしの所有しておる魔道具はきちんと国に申請し、通っておる。心配せんでも違法性はない」
心外だと言わんばかりの表情を浮かべたフレンがイストの疑問に答える。
そうは言われても、こんな裏路地にある店の主が国からきちんと許可を取っているなんて誰が思うだろうか。
それに魔道具関連の規約には詳しくないから何とも言えないけど、ここまで魔力を必要とする大規模な代物を一個人が所有する許可なんて簡単に降りるとは思えない。
可能性を考えるならフレンが嘘を吐いているか、それとも彼女が怪しげなお店の主以上に何か特別な事情を抱えているか、だ。
……でも、嘘を吐いている可能性は低い気がする。結局、私達がこの後、確認を取ってしまえばすぐに露呈する嘘だし。
仮に魔力を込めるだけ込めさせて逃げるつもりだとしても、水晶だけならともかく、魔道具を運びながらでは難しいだろうし、そもそもフレンはできるものならやってみろと、失敗する前提でこの条件を出してきた。
魔力を込めさせるのが目的ならもっと違ったやり方、話の持っていき方があった筈だ。
だからこそ、嘘というよりはやはり何か特別な事情があるのだと思う。
「――――っもう流石に無理~」
フレンの事情を推察している内にさしものベールも魔力が尽きたらしく、息を切らしながらその場にへたり込む。
正確な量は分からないけど、水晶玉にベールが込めた魔力は目算で優に普通の魔法使い十人分を超えている。
ベールの魔力量にも驚きだが、それだけ注ぎ込んでも許容量を満たさない水晶玉はどうなっているのだろうか。
「頭のおかしな小娘は降参のようじゃな。かなりの魔力量じゃったが、満たすには至らんかったの。さて、次はどうするのじゃ?」
何故か得意げな顔でそう聞いてくるフレンに対してイストが面倒そうな表情を浮かべながら前に出ようとする。
おそらく、ベールの次に名乗り出ようとしているのだろうけど、魔法使いではないイストの魔力量はそこまで多くないだろう。
「……いいよ、イストは下がってて。私がやるから」
手でイストを制しつつ、前に出てベールから水晶玉を受け取る。
私を慮ってくれているのだとしても、イストの魔力量では正直、あまり意味がない。
どのみち遅いか早いかの差でしかないのなら最初から私が出た方が良いと判断しての選択だったけど、それをどう受け取ったのか、フレンは訝しげにこちらを見やってくる。
「ほぅ……凡才の魔女は随分と自信ありげじゃなぁ?いくらイスト坊の仲間でもおまけはせんぞ?」
「……問題ない。要はこの水晶を魔力で満たせば何でもいいんでしょう?」
「それはそうじゃが……」
怪訝な表情のフレンを他所に私は胸の高さまで水晶玉を掲げ、空いた方の手で懐から数個の魔力結晶を取り出し、ぐっと握り潰した。
瞬間、結晶化していた魔力が中から砕け、飛び出し、空気中に放出される。
結晶化した魔力はそのまま砕いたところで自身の魔力には還元できない。
体内に取り込む、口内で嚙み砕く、あるいは儀略魔術の中継点に使うなどしなければならず、ただ砕いたところで空気に溶けて霧散してしまうだけだ。
そもそもが私の確立した技術、もしかしたら他にも研究、開発している人がいてもおかしくはないが、少なくとも、世間一般的には広まっていない。
だからまだまだ未知数な部分が多く、この二年間で発見した技術も少なくはなかった。
儀略魔術はその最たるものだけど、その他にも空中に飛び散った魔力を霧散する前に操り、変換するといった技術も身に着けた。
まあ、操ると言っても、霧散しきる前の僅かな間だけだし、単純な現象にしか変換できず、とても実戦で使えたものではないのだが、今回、使うのはその技術だ。
原理は単純、砕いた魔力結晶が霧散しきる前に自身の魔力を薄く通して操る、それだけ。
元々、自分の魔力を結晶化したものだけに、操るのも容易い。
もちろん、魔力そのものを放出すること自体が難しいというのはあるけど、それさえできてしまえば後は簡単……砕かれた結晶から飛び出た魔力を操って水晶玉へと注ぎ込んでいくだけだ。
撒き散らされた魔力が尽きればさらに結晶を砕き、延々と魔力を注ぎ込んでいく。
そして砕いた結晶が二十を超えた辺りで水晶は周囲を埋め尽くさん程の光量で輝き、収束。水晶玉の色が黄金へと変化した。
「……この水晶にこれ以上、魔力は注げない。もういっぱいだと思うけど、問題はある?」
結果と共に魔力を注ぎ終わった水晶玉を突きつけ、フレンにそう問うと、彼女は信じられないといった表情を浮かべ、呆然とこちらに視線を向けている。
「……ありえん、この魔道具は国の魔法使いが数年単位で魔力を込め続けて満タンにするものじゃぞ。それに凡才の魔女は魔力が人並みだったはずじゃ……それが何故――――」
「ああ、やっぱりルーコの事情を知ってて出したわけね。ってか、国の魔法使いが数年単位でって代物をぶつけてくるとか、流石にどうかと思うよ」
「通りでどれだけ魔力を込めても満タンにならない訳だ。服薬や実験で私の魔力量は常人の十倍くらいはあるんだけど、そりゃ足りないね~」
フレンの呟きにそれぞれ反応を返す二人。
さらりとベールの口からとんでもない事実が飛び出た気がするけど、それは置いておいて……なるほど、元々が数年がかりで準備する類の魔道具だったのならあの量も納得だ。
やはりどうしてそんなものをフレンが持っているのか、疑問は尽きないけど、追及する意味もないし、ひとまず、ここは条件を達成しただけでも良しとしよう。
「……凡才の魔女の事は知っていても、情報不足。こと、魔力に関しては私を陥れる材料にはならない……それで?結局、合格でいいってこと?」
「…………ふん、まあ、仕方あるまい。約束は約束じゃ。店内にあるものは好きに持っていくがいい」
不貞腐れたフレンは半分、投げやりな様子でそう言い放つ。
約束は商談してくれるかどうか、だった気がするが、下手に交渉するより、私達にとっては好都合なので言及する必要もないだろう。
「えっじゃあ、無料でなんでもくれるってこと!?やった~!じゃあじゃあ、私はその水晶――――」
「はいはい、俺達が何でここに来たかを忘れないようにね」
とんでもない要求をしようとしたベールをイストが諫め、引きずり、魔動車の部品らしきものを選定させるために連れて行ってしまった。
「必要な物だけ持っていく。きちんと代金は支払うから」
「…………さっき言った通り隙に持っていけ。代金もいらん……試すような真似をしたというのもあるが、予想外とはいえ、魔力を満たしてもらったからのぅ。それが代金みたいなものじゃ」
「……そう、ならいいけど」
調子に乗ったベールの失言に申し訳なさを覚えたからこその申し出だったのだが、フレンが良いというのなら是非もない。
ありがたく魔動車に必要な部品だけもらっていこう。




