第232話 意地悪な条件と怪しい魔道具
「……分かった、条件は呑む。だからその内容を教えて」
過去を聞いたところで、今を覆せないのなら意味がないと判断した私は思考を切り替え、フレンの出す条件を達成する事に。
とはいっても、理由を聞く前からどのみち条件を呑むつもりではあったけど。
「……ふん、随分とあっさり承諾するのじゃな。まあ、わしにとっては都合がいいのじゃが……っと、条件じゃったな。なに、内容自体は難しい事ではない。ただ、とある魔道具に魔力を注いで満たす……それだけじゃ」
どこか含みのある笑みと共にフレンから出された条件は一見、単純で簡単そうに聞こえるが、魔力の少ない私にとっては中々に厳しいものだ。
どんな魔道具かは分からないけれど、注いで満たすというのなら溜めこんだ魔力を消費しながら使うものだろう。
そしてその系統の魔道具は総じて大量の魔力を必要とする。物にもよるが、最低でも普通の魔法使い五人分の魔力を要求され、容量の多いものであれば、魔法使い百人分の魔力でも足りないなんて事もある。
私の魔力量はエルフの中ではとび抜けて少なく、人間の魔法使いと比べれば少しだけ多いといった程度だ。
少なくとも、素の状態では最低限の魔道具すら満たせない……それが私の魔力量だった。
「魔力、ね……随分と意地の悪い条件でしょ、それ」
「はて、おかしな事を言うのぅイスト坊は。魔道具への魔力供給なぞ、魔法使いの頂点たる魔女なら朝飯前……容易い条件だと思うがの?」
事情を知っているイストが非難するように呟くが、フレンはどこ吹く風と聞き流し、やれるものならやってみろと言わんばかりの視線をこちらに向けてくる。
……これは確実に私の魔力量の少なさを知ってるね。そうじゃないとこの条件は出さない。
本来の二つ名よりも魔女殺しの通り名の方が有名になってしまったため、知る人こそ少ないものの、私は自身の魔力が少ない事を隠していない。
知っている人が少ないのは人との関わりを最低限にしていたからという理由もあるけれど、凡才の二つ名から推察するないし、少し調べるだけでも分かる事実なので、フレンが事情を知っていてもなんらおかしくはなかった。
とはいえ、条件としては難しくないのは事実……魔力が少なくてもやりようはある。
そんな事を考えつつ、どう返答しようかと言葉を選んでいる最中、口を塞いでから大人しくしていたベールがもぞもぞ動き出し、私の手からするりと抜け出した。
「むぐむぐ…………ぷはっ……ようやく解放されたよ…………さて、話は聞かせてもらったけど、その条件、何もルーコちゃんが達成する必要はないんじゃない?」
「……何じゃと?」
「だって交渉はルーコちゃんだけじゃなくてパーティとしての目的でしょ?ならそこの男や私が代わりに達成したって問題はない筈だよ」
抜け出した時は何か余計な事を言ってまたフレンを怒らせるのではないかと心配したが、存外、的を得た意見がその口から飛び出す。
ここまでフレンは私に向けて話し、条件を突きつけてきたけど、パーティを組み、依頼のために動いている以上、ベールの言う通りだった。
「……ま、確かに今回は依頼のために準備だし、コイツのいう事はもっともだと思うけど?」
元々、フレンの出す条件に反感を示していたイストがベールの意見に賛同し、後押しする。
普段はいがみ合っているのにこういう時ばかりは息があっているように見えた。
「…………そうじゃな。お主たちのいう事にも一理ある……じゃからまあ、わしとしては凡才の魔女一人でも、パーティ全員でも魔道具に魔力を込めてくれるのなら構わんよ」
ベールの意見とイストの後押しを受けたフレンは少しの沈黙の後、公邸の言葉と共に肩を竦める。
てっきり、さっきまでの様子から私に条件が向くよう反論、反対すると思っていただけにこうもあっさり肯定するとは思わなかった。
「……さっきの言葉の意趣返しじゃないけど、随分とあっさり承諾するんだね。その条件は私の事を知っているからこそ、出したものじゃなかったの?」
「ふん、それは自分は有名じゃという自慢かの、凡才の魔女?別に否定もせんが、わしが構わんといっておるんじゃからそれでいいじゃろ……さ、話は終わりじゃ。ここでうだうだ喋っておっても埒が明かん、魔道具を持ってくるからそっちで待っておれ」
半ば強引に話を打ち切ったフレンは店の隣、様々ながらくたが放置してある広場のような場所を指して店内へ引っ込んでいってしまう。
そして言葉に従い、待つこと数分、店の奥から掌ほどの水晶玉を持ってフレンが戻ってきた。
「……それで、その玉が条件の魔道具?」
「魔道具って感じには見えないけど……」
どう見たって水晶玉にしか見えないそれに思わずそんな感想を漏らすベール。
私も魔道具に精通している訳ではないけど、それにしても水晶玉という形状は結構、珍しいと思う。
「……あれが魔道具本体って訳でもないんでしょ。部品か、もしくは魔力を込めろってんなら動力源ってとこじゃない?」
「うむ、イスト坊の言う通り、この水晶玉はとある魔道具を動かすための動力源じゃ。この身体では本体は持ってこれる大きさではないのでな。さ、それでは早速、これに魔力を込めてもらおうかの。最初は誰からじゃ?」
「はいはーい、私はやるよ~……というか、魔法使いでもないそこの男じゃ話にならないし、ルーコちゃん以外だと私しかいないでしょ」
そういってフレンから水晶玉を受け取ったベールが目を瞑り、集中しつつ、魔力を込め始める。
魔力自体は見えないものの、徐々に水晶玉が発光を始めた。
「……魔力で満たせって言うけど、どうやったら溜まった判定になるの、これ?」
「ん?ああ、それは単純じゃよ。今も少し光っておるが、水晶玉に魔力が満ちれば比にならん程に輝く……その状態が一定以上続けば溜まったという合図じゃ」
なるほど、それなら確かに分かりやすい。ベールの魔力量がどれだけあるかは知らないけど、早々に光り始め、徐々に強くなってきているこの状態なら水晶玉を満たすのも時間の問題だろう。
そう思いながら経過を見守って数分が経過したところで発光が止まり、それ以上、光量が上がらなくなってしまった。
「…………っこの水晶ってこれ以上、光るの?たぶん、もう普通の魔法使い五人分くらいの魔力は込めてるんだけど」
「もう降参かの?まだ満ちた時の半分も光っておらんが」
「……五人分で半分以下ってどんだけ魔力を食う魔道具だよ…………というか、それって本当に大丈夫なやつ?」
イストの心配はもっともだ。それだけの魔力を核にする魔道具はどんな性能にしろ個人で所有できる範囲を超えている。
もし仮に大量の魔力を使って破壊を生み出すような代物だった場合、所有しているだけで国家反逆罪が適用される場合もある。
フレンが捕まる分には自業自得だが、この魔道具に魔力を込めた事で私達にまで火の粉が飛んでくる事になっては溜まったものじゃない。
だから場合によってはこの後、ギルドを通してフレンを国へ突き出し、私達の潔白を証明する必要があった。




