幕間 とある転生者たちの会合
その場所は地図に載っていない国。かつて栄えたその跡地にそびえ立つ廃城で、数人の男女が円卓を囲んでいた。
「――――で、議題は何だっけ?てか、人少なくない?わざわざ来たのに半分も集まってないじゃん」
円卓を囲む一人……派手な格好をした赤髪の少女がそう言いながら足を机に上げる。あまりに不遜な態度だが、円卓を囲む人物達は特に何も言わない。
「まあまあ、みんな忙しいんでござるよ。議題も切羽詰まった物ではないからして、我々だけで問題ないでしょう」
「あ?何、勝手に反応してんのクソオタク。お前に話し掛けてないんだけど?」
「くふふ、相も変わらず辛辣ですなマツリ殿は。拙者にはサントという名前があるでござるのに…………まあただ、我々の間には上も下もないという決まりを忘れてはござらんかな?」
「はぁ?アタシとお前が同列なわけないでしょ。ウケるんだけど」
「ほう、それは聞き捨てなりませんな」
「へぇ、それならどうするの?」
「…………」
「…………」
マツリと呼ばれた少女と彼女にクソオタクと呼ばれ、自らをサントと名乗った青年の間に緊迫した空気が流れる。
何かきっかけさえあればすぐにでも殺し合いが始まりそうな雰囲気の中、沈黙を破ったのは金髪碧眼の男だった。
「――――二人共、そこまでだ。僕たちでの争いはご法度だっていつも言ってるだろう?それが聞けないなら…………」
「……嫌ですなぁセイヤ殿。いつものじゃれ合いでござるよ。拙者もマツリ殿も本気でないからして」
「ちっ、勝手に…………ハァ、アタシもここでおっぱじめるつもりはないよ。誓ってね」
セイヤと呼ばれた男の一声で大人しくなるサントとマツリ。口では本気でないと言いながらも止められなければ間違いなく殺し合いが始まっていただろう。
「……さ、いつものやり取りが終わったところでさっさと議題に移ろうよ。僕も暇じゃないんだからさ」
会話が一区切りついたところで、ここまでやり取りに参加していなかった銀髪の少年がそう切り出す。他の者と比べて一際小さい彼だったが、纏う雰囲気はどこか恐ろしくも神々しく見える。
「ああ、ノブキの言う通りだね。それじゃ今回の議題だけど、同志の一人から連絡が途絶えてしまったんだ」
「同志ぃ?…………誰の事?」
「はて、誰の事でしょうな。拙者も流石に末端の方までは覚えてござらんので」
「はぁ、君達は薄情だね。末端って言っても同じ転生者なのに……ほら、あれだよ、最近、仲間になったばかりの……セイジ君だっけ?」
「……ヨージよ。貴方も人の事は言えないじゃない」
マツリとサント、そしてノブキと呼ばれた少年に続き、黒髪の少女が呆れたように口を開く。全身を黒ずくめの服で固めた彼女もまた独特な空気を身に纏っていた。
「そーそーヨージ君ね。それで、そのヨージ君と連絡が取れなくなった、と……ま、十中八九、死んでるでしょ」
「……彼の生死は不明だが、最悪の想定はしていかなければならない。仮にヨージが死んでいたとして、問題はその死因だ。何かしらの事故、あるいは魔物にやられたというのなら大事はないが――――」
「もしも誰かに殺されたとしたら大問題、ってわけね。ようやくセイヤの言いたいことが見えてきたわ」
「確か彼の特異能力は魔物を操る類のものだったはずよ。だから死因が魔物という事はまずないんじゃないかしら」
「ふむぽん、然らば事故というのも考えにくいでしょう。拙者たち転生者はこの世界に来た時点で高いステータスを有していますからな。建物の倒壊に巻き込まれても死にますまい」
彼、彼女等は円卓を挟んで議論を繰り広げる。発言からも分かる通り、ここに集った全員が転生者……つまるところ、村を襲った魔物使いヨージの所属する《楽園の選民》の幹部たちだった。
「んじゃ、やっぱ誰かに殺されたんだろうね。転生者を殺せるって事はいわゆる最上位の称号持ちってやつかな?」
「下っ端の連中は何も考えずに暴れ散らかしてるから目をつけられたんでしょ。引き際を分からない馬鹿は組織に必要なくない?」
「……一理あるわね。自由を求める組織とはいえ、多少の規律は必要だわ」
「メイコ殿の言う通りでござるよ。力を手にして暴れたくなる気持ちは分からんでもないですがな」
「そうだね。なんにしてもまだその時じゃない。いずれ僕達がこの世界をてにいれるまでは、ね」
不穏な発言も然ることながら、組織の一員が殺されたというのに一切の悲哀も見せない彼、彼女達。会話から仲間というより、使えない駒が消えたくらいの感覚なのだろう。
「結局、誰に殺されたかってのは分かんないままって事ね。議論の意味あった?これ」
「情報を共有する事が重要なのよ。心構えもなく襲撃されたら溜まった物ではないでしょう?」
「ま、気を付けておくに越したことはないんじゃない?アタシなら問題ないけどね」
「ぐふふ、今のはまさに死亡フラグというやつですな。マツリ殿、ご愁傷様です」
「あん?喧嘩売ってんの?クソオタク」
再び険悪な空気になりそうなマツリとサントに対してノブキ、そしてメイコが呆れのため息を漏らす。
彼、彼女等のリーダー格であるセイヤから止められたにも関わらず、こうなるじてんで、二人の相性が最悪な事は想像に難くない。
「……じゃれ合いはともかく、話し合いはこれで終わりって事でいい?そろそろ戻らないと信者が煩くってさぁ」
「教皇様は大変ね。情報共有は済んだ事だし、問題はないんじゃないかしら」
「ああ、問題ないよ。それじゃ今回はこれで解散としよう。これなかった者達には僕から通達しておくよ……マツリ、サント、その辺にして各自、持ち場に戻ってくれ」
「……了解、それじゃアタシはサッサと戻る。一秒でもコイツと同じ空間居たくないから」
解散の流れから吐き捨てるようにそう言ったマツリは立ち上がり踵を返すと、そのままバチリとはじける音を立ててこの場から姿を消してしまった。
「……それでは拙者も失礼させてもらうでござるよ。何かあればまた連絡するでござる」
「私も失礼するわね。一応、こっちの方でも情報収集はしておくから」
マツリに続き、サントとメイコも席を立ってそれぞれこの場を後にしていく。気付けばいつの間にかノブキの姿もなく円卓にはセイヤ一人となっていた。
「――――僕達は全てを支配する。神の意図がなんだろうと支配される側には回らない……絶対に」
円卓で一人、意味深な言葉を呟くセイヤ。仲間達にも漏らさない心の内とその瞳に秘める激情がこの世界に何をもたらすのか、それは神さえ知る由もなかった。




