2話
次回から高校生活が始まります
少女を家に連れ、ソファに座らせて早速調理に取り掛かる
「私も手伝うよ」
「分かった。千夜は酢飯を作ってくれるかな?酢と砂糖と塩はこれね」
「了解」
千夜がすし酢の材料をボウルに入れていくのを横目で確認しながら、先ほどスーパーで購入した魚を板に乗せ切っていく。
「はや...」
隣ですし酢の材料をボウルに入れ混ぜていた千夜がぽつりと呟く。
「よし、まずは鮪終わりと」
まずは鮪とサーモンを切り終え、次に3枚に下ろされている鰤と鯛を板の上に乗せる。
「まずは皮引きからか」
身と皮の間に包丁を入れ、皮を手で押さえながら身をはがしていく。
身をはがし終え包丁を身に入れ切っていく。
「鰤と鯛も終わり。千夜、そっちは?」
「もう少しで混ぜ終わるから、お米用意できる?」
「分かった」
飯台を取り出し、白米を入れていく。
「雪、終わったよ」
丁度千夜の方も終わったため、ボウルを受け取りすし酢が全体に行き渡るように混ぜていく。
すし酢がなじんだら水気を飛ばし、冷ましていく。
十数分で終わり、丼に盛り付ける。
「出来ましたよ」
ソファに座っている少女に渡す。
よほど腹が減っていたのか、一口入れるや否やガツガツと箸を動かしている。
「う、うぅ...」
「ど、どうしました?」
食べ終えた後、何故か目尻に涙を浮かべる少女を困惑した顔で見る。
もしや海鮮丼が嫌いだったのではと思っていると、その少女は涙を溢しながらぽつりぽつりと呟く。
「お、おいじいよぉ...こんなおいじいものだべだごどない...」
「「あ、ありがとう」」
呟かれた感動の言葉に千夜と雪風は困惑しながらもお礼を言う。
残った丼と箸を持ちながら泣いている少女をしばらく見つめ、やがてプッと吹き出す。
「おーい、お茶持ってきたぞ…なんだこの状況?」
お茶を入れて戻ってきた蓬は目の前の光景に困惑する。
「あ、ありがどうございまず...」
少女は嗚咽交じりに茶を受け取り、飲み干す。
「...ふぅー」
茶を飲んで落ち着いたのか、目尻に浮かべていた涙を拭きとると、3人に頭を下げてお礼を言う。
「ありがとうございます。まさかご飯をご馳走になれるとは思いませんでした...」
「あ、いえいえ...でも、どうしてあそこで倒れていたんですか?」
「それには事情がありまして...お話しするのも恥ずかしい内容でして...」
「そうですか...事情はどうであれ、無事で良かったです」
雪風はにこりと微笑みながら言う。
「はい、ありがとうございます」
もう一度深く頭を下げていた少女は、ふとバッと顔を上げる。
その表情は、焦っていた。
「あ、あの!今の時間って分かりますか!?」
「えっと、今は1時30分ですね」
壁掛け時計を確認しながら時間を伝えると、少女はますます焦る。
「ヤバイ、ここでのんびりしてる場合じゃなかった...!」
そう言うと、立ち上がり、玄関へ足早に向かう。
「あ、ありがとうございました!いつかまた、正式にお礼をしに来ます!」
一言そう言い、去っていく。
『…』
取り残された3人は、やがて
「表情がコロコロ変わってて不思議な子だったね...」
「そ、そうだな...」
「でも、ちょっと面白かったかも」
「「それは同感する」」
3人は顔を見合わせ、やがて声を出して笑った。
この時はまさか、学校の担任になるとは知らずに。