プロローグ
3月下旬、学生達は春休みに入って一週間が過ぎようかという日付に、とある一軒家に今年高校生になる2人の男子がいた。
「…なぁ」
「うん?」
ダイニングでノートPCを操作していた雪風は手を止め、蓬が放った言葉に顔を上げる。
「これ見てみ」
「何?」
そう言って雪風は蓬が操作していたノートPCを覗く。
そこに映っていたのは、アメリカで原因不明の性転換が発生したとの記事があった。
「…性転換?病気か何かかな?」
「多分な。…しかしアメリカかぁ」
蓬は頭をかきながら呟く。
「アメリカって雪の両親が働いてるんだろ?大丈夫なのかよ」
「多分、大丈夫だよ。…ほら、ここに20歳以下の発症のみを確認って書いてあるし。私の両親は20歳なんてとうに超えてるし、その心配はいらないと思うよ」
記事の中央に記されている文字を指しながら言う。
「お、ほんとだ。…なら大丈夫か、日本で発症した事例もないみたいだし」
「だろう?…あ、もうお昼だ。昼食作ってくるよ」
「おう」
PCの右下に示されている時間を見た雪風はそう言って昼食の準備をしにキッチンへ向かう。
今日は冷えるという天気予報を昨日見たため予め用意しておいたラーメンのトッピングを冷蔵庫から取り出し、自家製ラーメンを作っていく。
麺自体はインスタントの麺を使っているため、野菜やらチャーシューやらをトッピングするだけなので数十分で完成した。
「ほい、ラーメン完成したよ」
「お、待ってました!」
雪風がラーメンをダイニングに持っていくと、笑みを浮かべ操作していた手を止める。
「おぉ、やっぱ雪が作るラーメンは美味そうだなぁ」
「麺はインスタントだけどね。…まぁ野菜とかも美味しいし、とりあえず召し上がれ」
そう言って暁達は手を合わせて
「「いただきます」」
と言う。
箸を持ちラーメンをすする。
「ほぅ...」
4月に突入するというのに窓霜が出来るほど冷え込んだ日にラーメンの熱さが体に染み込む。
そしてあっという間に完食した暁達は
「「ご馳走様でした」」
と手を合わせて挨拶をし、雪風は食器をキッチンに持っていって洗う。
「…しかし、平和だなぁ」
「平和が一番だよ」
皿を洗いながら言う。
「俺も平和が一番だよ。特に雪の作る料理は美味いからなぁ」
「それはどうも。私の料理なら毎日朝昼晩の食事で食べれるし、安いものだと思うけど」
「いやいや、俺にとっては価値があるからな、これで雪が女だったら良かったんだがなぁ」
くぅぅぅぅっと悔しそうな声を出す蓬に雪風は苦笑して
「女子は女子でなんか求められる理想が高そうだし、蓬は既に彼女いるでしょうに」
と言うと、蓬は笑って
「そうなんだけどこうやって美味いご飯が食えるってなるとねぇ。こっちに移っちゃそうだなぁ」
その言葉に暁はまた苦笑する。
(千夜が聞いたら怒りそうだな…)
雪風は暖かい湯で皿を洗いながら、そう思うのだった。