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脱出の後は・・・

 これはまずい事になったと思った我輩は、もう一段スピードを上げて走り出した。

 だが、間に合わない時の用心のために、一応、毒蛇に意見を打診した。

「蛇もクシャミするのか?」

「はい、もちろん、しますよ。どうしてですか?」

 間に合わない時は、鼻を擽ってクシャミをさせ、その勢いで我輩たちを噴射させてもらう。

「それはグッドアイディアですね。そうしましょう」

と、毒蛇が感服したように言った。

 我輩は、毒蛇に褒められたようで心持ち気分が良くなった。

「でも、大蛇の鼻の高さは相当なものですよ。大丈夫でしょうか?地面に叩きつけられても」

 <猫の体のメカニズム>

猫が足から着地できるのは、平衡感覚を司る三半規管にある、前庭が、脳に地面に落ちるまでの距離がどれくらいか伝えているため、猫は自動的に頭や体の向きを計算して着地の体勢を整えることができる。そして、落下する時は手足を広げてムササビのようなポーズをとって落下速度を落としながら着地する。着地の時も強い筋肉としなやかな関節をもった足と肉球が衝撃を和らげている。反射神経と動体視力、柔軟性など、様々な要素を猫は持っているのである。

猫のこの特技からヒントを得たのが、

『姿三四郎』

著者:富田常雄

猫の三寸返りという技だ。屋根から落ちた猫が、ひらりと身を翻して着地するところからヒントを得て体得した。相手に投げられた瞬間にくるりと宙に返って畳に背中をつかぬという技。

「それをうかがって安堵しました。あなたにお任せします」

「お前はどうなんだ?落下する時に、銜えている保証はないからな。思わず口からポロリなんてことも、無きにしもあらずだからな」

「私も木登りはしますから、ある程度の高さなら平気かと思います」

 そうこう言い合っているうちに、大蛇の開口はますます狭まってきた。我輩の足が速いか、それとも、大蛇の口が閉まるのが早いか。我輩は息せき切って走りに走った。心臓の鼓動は更に高くなり、息も多少なりとも絶え絶えになってきていた。

 後僅かで口が閉まってしまうと思われたその瞬間、我輩は毒蛇を銜えたままスルリと大蛇の口から外へ飛び出していった。間一髪だった。

 我輩と毒蛇は、遣り遂げた安堵感と生きていることへの喜びで、茫然とその場に立ち竦んでいた。

「やったな」

「はい、やりました」

「脱出できたな」

「はい、できました」

 我輩と毒蛇の口から出た言葉は、これだけだった。我輩と毒蛇は、暫く、疲労困憊の心身を休めた。

「さて、これからどうする?」

と言った矢庭に、我輩の腹の虫がキューッと鳴った。

「腹減ったな」

「はい、お腹が空きました」

 我輩の耳にはそれが小さ過ぎて、毒蛇の腹もキューッと鳴いたであろうに、聞こえなかった。

「ちょっくら、里に下りてくるわ」

「里へですか?何しに」

「餌探しによ」

「それなら、私も一緒に」

「お前はここにいろ!」

 我輩は、思わず叫んで毒蛇を止めた。

「どうしてですか?」

「毒蛇のお前がいけば、里はパニック状態に陥って、大騒動になるからよ。そうなったら」

「そうなったら?」

「騒ぎに驚いたお前もパニック状態に陥り、鎌首を擡げて大口を開け、その牙を見せつける」

「そうなった場合どうなるか、私にもわかります」

「だろう。だからな」

「あなたは平気なのですか?」

「ああ、平気さ。アイドル並の人気者だからな。そんな我輩が演技をすれば、み~んながイチコロなって、我輩に同情するのさ」

「凄いですね」

と、毒蛇が驚嘆するように言った。

「行ってくるからよ。帰るまでお前は叢に隠れて大人しく待ってろ」

「はい。気をつけていってらっしゃい」

「おゥ、行ってくるぜ」

と言うなり、我輩は一目散に駆け出した。

 毒蛇はそれを見送りながら、帰ってはこないんだろうな、なんて良からぬ思いに馳せてはいたが、それでも、叢に隠れて身を顰め、帰りを待ったのであった。

 里へ下りると、カラスの群れが生ゴミを漁っていた。今日は燃えるゴミの日なんだんと思った我輩は、群れに飛び掛ってカラスを追っ払った。そこら中に散乱した生ゴミの中に、ナイロン袋に入れられて捨てられた肉の塊りを見つけた。しめしめと我輩はそれを銜えると、再び、一目散に駆け出した。

 森の奥に戻った我輩は、どこに身を隠したの姿のない毒蛇とあちこちと探し回った。

「ここです」

と、叢から毒蛇が飛び出してきた。

「そこにいたのか」

と、我輩は持ち帰った肉の塊りの入ったナイロン袋を手で押し出して言った。

「調達してきたぞ」

「私も」

と、毒蛇が二個の獲物を尻尾を使って器用に前面に押し出した。

「お前」

「はい」

 我輩と毒蛇は顔を見合わせて笑った。

「お前さ、成長過程の蛇なのか?それとも」

「成蛇です」

「成蛇なのか」

「はい。成猫のあなたと同じく私も成蛇でう」

 我輩と毒蛇は、大口を開けて鋭い牙を見せびらかし合って腹の底から笑った。我輩と毒蛇はこの時、お互いに協力し合って助け合って艱難辛苦を乗り切ったせいなのか、種の違う者同士の立場でありながら、お互いの心の中で友情のようなものを感じ合った。

 お腹を満たした我輩と毒蛇は、大蛇のいるその場所から離れようとしてソロリソロリと行く当てもないのに歩き出した。ギラリと目を光らせて去りゆくその背を眺めている大蛇に気付きもせずに、談笑しながら前へ前へと歩いていった。

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