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46. ショッピング 前編 ~なんでオレなんだ~

 教室の一角。

 窓際に集まった女子たちの輪の中で、笑い声が弾けていた。


「如月さんは最近どうなの、松前くんと」


 唐突に名前が出る。

 リサは視線を泳がせてから、曖昧に笑った。


「え、どうって…」


「夏休みどうするの?一緒に遊んだりする?」


 間髪入れずに重ねられる質問。逃げ場がない。

 リサは俯いて、指先をいじりながら小さく答えた。


「遊びたいけど…まだ聞けてない…」


「え、そうなの?」


「あっちから誘ってきそうじゃない?」


 その言葉に、リサはほんの少しだけ間を置いてから首を横に振る。


「……松前くんに誘われたことない」


「うそー」


「意外なんだけど」


 周囲がざわつく。


「じゃああっち気づいてないの?」


 リサは視線を落としたまま、小さく息を吐く。


「……気づいてないと思う」


 その声はさっきよりも少しだけ弱かった。


 一人の女子がふとリサの顔を覗き込む。


「てか如月さん大人しいね、どしたの?」


 リサはハッとしたように顔を上げる。

 そして――

 両手をそのまま頬に当てた。

 少し熱を持った頬を、自分で包み込むみたいに。


「待って、あたし…こういう話したことないから、恥ずかしい」


 視線は落ち着かず、指先にほんの少し力が入る。


(ほんとに、ない)


 誰かの恋バナを聞くことはあっても、自分のことをこうやって話題にされるのは初めてで。

 しかも――


(松前くんのこと…)


 そこまで考えた瞬間、頬の熱が一段階上がる。

 隠すみたいに、もう少しだけ顔を覆った。


「えー、なにそれ」


「如月さんでも照れるんだ」


 くすくすと笑いが広がる。


「かわいいー」


 その言葉に、リサはますます頬を赤くして視線を逸らした。

 逃げ場を失ったまま、次の一撃が飛んでくる。


「でさ、松前くんのどこ好きなの?」


 リサの動きが止まる。

 ほんの間。

 でも――次の瞬間、


「……全部」


 ぽろっと、こぼれた。


「「きゃーっ」」


 一斉に上がる悲鳴。


「え、なに。なに?なんで盛り上がるの?」


 さらに追撃。


「具体的には?」


「え、具体的って……」


 困ったように笑いながらも、視線が泳ぐ。

 でも、言葉は止まらなかった。


「顔とか…声とか…優しいとことか…話し方とか……」


 少しずつ、熱が乗っていく。


「……とにかく全部だよぉ」


 最後はほとんど投げやりみたいに言い切る。


「「きゃーっ!!」」


 再び教室に響く黄色い声。

 リサは両手で顔を隠した。


(なに言ってんのあたし……)


 でも、指の隙間から見える頬は、隠しきれないくらい真っ赤で。

 その様子を見て、女子たちはさらに盛り上がる。


「チョー好きじゃん!」


「松前くんが羨ましいんだけど」


「夏休み勝負じゃんこれ!」


 騒がしさの中で、リサは顔を伏せたまま小さく息を吐いた。


(……遊びたい。でも……誘えない)


 顔を上げる。

 窓の外、眩しい夏の光。


(松前くんから……来てほしい)


 期待しかけて、すぐに打ち消す。


(……来ないと思うけど)


 ◇ ◇


 教室の後ろ側。

 男子たちの輪は、授業中だるい空気から一転して、どこかざわついた熱を帯びていた。


「なんで松前くんなのー」


「如月さんと釣り合ってなくね?」


 軽い調子の問いかけ。

 マサキは机に肘をついたまま、片耳にイヤホンを付け、特に間も置かずに返す。


「釣り合ってないな」


 あっさりとした肯定。

 その反応に、周囲が止まる。


「そういうさー、興味ありませんみたいなのムカつくわ」


「如月さん可愛いだろ」


 少しだけ真面目なトーンが混ざる。

 マサキは視線を上げないまま、短く答えた。


「…そうだな」


 否定はしない。

 でも、それ以上もない。

 その温度が、逆に空気を引っかける。


「告白されたらどうすんの?」


 誰かが笑いながら投げる。

 マサキは言葉を選ぶように間を置いてから、


「ありえないだろ」


 低く切り捨てた。


「えー?」


「なんでだよ」


 軽いブーイング。


「で、夏休みどっか行く約束は?」


 話題が少しだけ現実的な方向に戻る。


「してない」


 即答。


「お前から誘わないんか」


 少し呆れた声。

 マサキは机の上のペンを指で転がしながら、ぼそっと言う。


「むこう忙しいだろ」


 それだけ。でも――

 その言い方は、どこか決めつけるみたいで。


「いや、関係なくね?」


「誘えばいいじゃん」


 そのまま、さらに雑な方向へ流れる。


「もうエッチなことした?」


 一拍。

 マサキの動きが止まる。


「………」


「は?え、なに?マジで?!」


「今の間なに!?」


 一気に食いつく男子たち。

 マサキはゆっくり顔を上げて、眉を動かした。


「お前らの低俗な質問に呆れたんだよ」


 冷めた声。

 それ以上は何も言わない。

 余計に想像を煽る形になる。


「絶対なんかあるだろそれ!」


「隠すなって!」


 騒ぎは収まらない。


「なぁ、どこまでしたんだ?」


 声が重なっていく。

 マサキは視線を外したまま、何も返さない。

 イヤホンを軽く押し込む。

 周りの声も、もう言葉としては入ってこなかった。

 ただの雑音みたいに、遠くで響いている。


「だって松前って如月さんの家まで行ってるんだぞ」


「さすがに何もないわけないよな?」


「如月さんエロいし経験ありそうだから、絶対自分からいくじゃん」


「それなー、逆に押し倒されちゃったから言えないとか?」


(夏休み)


 ふと、頭に浮かぶ。

 約束は、していない。

 誘ってもいない。


(……誘う理由がない)


 すぐに、そう結論づける。

 あっちから来るならまだしも。

 自分から行く意味がない。


(……もし誘われたら)


 その想像だけが、妙に具体的に残る。

 イヤホンのコードを指でいじる。

 騒がしさは続いている。


 ◇ ◇ ◇


 教室は、夏の気配が濃くなり始めていた。

 窓の外から入り込む風はぬるくて、どこか湿っている。

 黒板の上の扇風機が、意味があるのか分からない程度に回っていた。


 期末テストも終わりだらけた空気。

 もうすぐ夏休み――そんな言葉が、教室のあちこちに浮いている。


 マサキは、いつも通り窓際でイヤホンをつけていた。

 スマホを見ているが、内容はあまり頭に入っていない。


(……暑い)


 それだけが、ぼんやりとした感想だった。


「ねぇ、松前くん」


 声がして、意識が引き戻される。

 イヤホンを外す。

 顔を上げる。


 ――目の前に、リサがいた。


(……相変わらず)


 髪は軽くまとめていて、首元が少しだけ見えている。

 夏服の薄い生地越しに、動くたびにラインが変わる。


(……可愛いな)


 いつも思っていること。

 でも、いちいち口に出すほどではない。

 だからいつも通り、何もなかったみたいに目を外す。


「……ん」


 短く返す。

 もう、この距離で話しかけられること自体には慣れてきている。

 リサは間を置いてから、どこか様子を探るみたいに口を開いた。


「今週末って、あいてる?」


(……来た)


 マサキは目を外す。


(この聞き方は、だいたいろくでもない。断る前提で聞いてるくせに、結局断らせないやつだ)


 経験上、そう分かっている。


「……特に予定はない」


 あっさり認める。


 リサはすぐに食いつく。


「空いてるんだ」


 リサの目が輝く。

 マサキは小さく息を吐いた。


「……なに」


 完全に逃げきれないと判断して、先を促す。


 リサはぱっと表情を明るくした。


「買い物に付き合ってほしいの」


 マサキは一瞬だけ間を置いた。


(……やっぱりそれか)


 小さく息を吐く。


「……オレはそういうの向いてない」


 やんわりと距離を取る言い方。

 リサはすぐに返す。


「浴衣と水着、買いに行きたいの」


 マサキの思考が止まる。


(……浴衣と、水着)


 頭の中で、言葉だけが残る。


「……如月は友達多いだろ」


 なんとか返す。

 リサはすぐに続ける。


「女の子だけで行くと絡まれるんだよ」


「オレが行っても役に立たないぞ。腕っぷしもないし、喧嘩とか無理」


「男の子と一緒の方が、明らかに声かけられにくいと思わない?」


 理屈としては分かる。

 でも。


「オレより適任いくらでもいるだろって」


 マサキは淡々と返す。


「そもそも人混み苦手だし」


「そういうのは、仲いいやつと行った方がいい」


「荷物持ちに期待されても困る」


「かえって邪魔になりそうでイヤなんだけど」


 思いつく理由を、順番に並べる。

 リサは途中から、じっと見ていた。


「うーん…そっかぁ。じゃあさ」


 リサが身を乗り出す。


「お昼、奢ってあげるから」


「いらない、奢るとかもういい」


「じゃあ…服について男の子の意見ほしいの」


「モデルに意見できるわけない。店員に聞いた方がいい」


「知らない人の意見より、知ってる人の方がいいの」


 言葉が詰まる。


「……ちゃんと見て選べる気しない」


(とくに水着なんて…)


 少しだけ笑ってから、


「えー、松前くんはちゃんと選んでくれそう」


 マサキは前を向いた。


(……それ言うか)


 でも、すぐに戻す。


「だからって、他にも誘えるやついるだろ」


「……他の人だと、なんか違うんだもん」


 頭の中で、何かが引っかかる。


(なんだそれ)


 なんで、自分なんだ。

 他と何が違う。

『なんか違う』。

 それは、どういう意味だ。

 ただの流れか、それとも――


(……いや)


 そこまで考えかけて、止める。

 特別扱いみたいな期待をしたところで、違ったらダサい。

 変に意識したら、今の距離が崩れる。


(考えたって、ろくなことにならない)


 マサキは軽くため息をついた。


「……オレじゃどうせ役に立たないから。無理だ」


 リサは数秒だけ黙った。


「そう、じゃあ1人で行くからいい」


 あっさり言う。

 マサキの思考が遅れる。


「……は?」


「1人で買いに行く」


「さっき絡まれるって」


「でも仕方ないじゃん。松前くん来てくれないんだもん」


 少し拗ねた言い方。


(1人で行くって……)


 頭の中に、さっきの言葉が引っかかる。


『女の子だけで行くと絡まれるんだよ』


(1人で行く方がもっとヤバイだろ)


 想像してしまう。

 人混み。

 知らない男に声をかけられるリサ。

 笑って流して、でもしつこく絡まれて――


 舌打ちしそうになるのを、抑える。


(……ほんとに1人で行く気か)


 そのとき、ふと別のことが浮かぶ。


(浴衣って……夏祭りか)


 夜の屋台。人混み。

 浴衣姿のリサの隣に――知らない男がいる光景。

 自然と、眉が寄る。


(……水着は、プールか)


 強い日差し。騒がしい音。

 リサと近い距離で笑ってる誰か。


 胸の奥に、妙な引っかかりが残る。

 うまく言葉にできないまま、じわじわと苛立ちだけが広がっていく。


(なんだよ、それ)


 ただ――


(……なんか、気に食わない)


 小さく息を吐く。

 イヤホンを持ったまま、数秒だけ動かない。

 そして――


「……おい」


 自分でも、なんで呼び止めたのか分からないまま。

 リサが振り向く。


「なに?」


「……その日」


 言葉を選ぶ。

 放っておくのも、なんか違う気がした。

 かといって、全部付き合う理由もない。

 頭の中に、さっきの光景がちらつく。

 知らない誰かの隣で笑ってるリサ。

 それを想像するのは、妙に落ち着かなかった。


「……昼だけなら」


 リサの目が大きくなる。


「付き合う」


「え、ほんと?」


「……それくらいなら、いい」


 短く返す。

 それ以上は言わない。

 リサの顔が、一気に明るくなる。


「やったぁ」


 声が弾む。

 その反応を見て、マサキは目を逸らした。


(……なんでこんな喜ぶんだ)


 理解できない。

 ただ、さっきまでとは明らかに違う表情が、妙に引っかかる。


(……大げさだろ)


 そう思うのに。

 視線を外したあとも、頭の中に残る。

 あの顔とか、声とか。

 気にする必要はないはずなのに、意識を切ろうとしても、完全には離れない。


 でも――

 さっきのやり取りを思い返しても、嫌な感じは、どこにもなかった。

 それどころか。


(……まあ、いいか)


 ほんの少しだけ、気が緩む。

 理由は分からないまま。


 ◇ ◇ ◇


 待ち合わせ場所は、駅前のショッピングモールの入口だった。

 休日の昼前。

 人の流れは多くも少なくもなく、ちょうどいい程度にざわついている。


 マサキは、壁際にもたれるように立っていた。

 イヤホンをつけたまま、音楽を流している。

 スマホの画面は開いているが、特に何かを見ているわけでもない。


(……こんなもんか)


 時間を確認する。

 約束の30分前。

 早いのか遅いのか、よく分からない。

 そもそも、こういう"待ち合わせ"自体ほとんどしたことがない。

 何分前に来るのが普通なのかも、知らない。


(遅れるよりはいいだろ)


 それだけで、判断した。

 特にやることもなく、そのまま音楽を聞きながら立っている。

 人の流れをぼんやり眺めているうちに、時間が過ぎる。


 ――どれくらい経ったか。


「松前くん」


 イヤホン越しに、かすかに声が届く。

 反応が遅れる。

 イヤホンを外す。


 リサが軽く手を振っている。


(……早くないか)


 時間を確認する。

 まだ、約束より20分以上前。


「ごめんね、待たせた?」


「……いや」


 短く返す。


「いま来たとこ」


 リサがきょとんとする。


「え、ほんと?」


 疑うような目。

 マサキは何も言わない。

 リサは視線を下げて、時間を確認する。


「……めっちゃ早くない?」


 思わず、という感じで笑う。


「待たせるの嫌だったから、早めに来たのに」


 その言葉に、マサキは詰まる。

 待ち合わせがよく分からなかっただけだとは、言わない。


「……たまたま」


 それだけ返す。

 リサは少しだけマサキの顔を見る。

 それから、ふっと笑った。


「松前くんらしいね」


 意味はよく分からない。

 でも、否定もしない。


(……まあ、いいか)


 そう思ったところで、改めて、リサの姿が視界に入る。


 ――私服だった。


 肩の出ないシンプルなトップスに、短めのスカート。


 ◇


 歩み寄りながら、さりげなく裾を指で整える。


(短すぎないよね……?)


 鏡の前で何度も確認した。

 でも、少しだけ不安は残っている。


(でも……今日くらい、いいよね)


 ほんの少しだけ、背伸びした選択。

 マサキがどう思うか、気にならないわけじゃない。


(可愛いって思ってくれるかな…)


 そんなことを考えている自分に、少しだけ笑いそうになる。


 ◇


 マサキの視線は、自然と下に流れる。

 スカートの丈。

 これは――


(……これ、短くないか)


 引っかかる。

 自分にはよく分からない基準。

 ただ、目に入るたびに、妙に意識が向く。

 歩くたびに、わずかに揺れる。

 無意識に、周りにも目がいく。

 すれ違う人の視線。

 別に、何かされたわけじゃない。

 でも――


(……これじゃ、声かけられてもおかしくないだろ)


 先日言っていた言葉が、頭に浮かぶ。


『女の子だけで行くと絡まれるんだよ』


(……そりゃそうだろ)


 自然と、目で追ってしまう。


(可愛いな)


 教室で見るのとは、少し違う。

 距離の問題か、服のせいか。

 理由は分からない。

 ただ――


(……近い)


 変に現実感がある。

 隣に並んで歩くところまで、簡単に想像できてしまう。


 ――これ、普通にデートっぽいな。


(……いや)


 そこで、思考を切る。


 リサがマサキの顔を覗き込む。

 距離が近い。


 マサキは前を向いた。


「じゃあ、行くか」


 そのまま横に並んで歩き出す。

 肩が触れそうな距離。

 リサはそのまま、何も言わずに歩く。


(あ、今日は離れない…)


 少しだけ、意図的。


「浴衣から見ていい?」


「……うん」


 迷いなく決める。

 数歩進んでから、リサが言う。


「ねえ」


「……なに」


「ちゃんと選んでね?」


(見てほしいってことか…)


 詰まる。


「……努力はするけど」


 リサが小さく笑う。


「うん」


 その声が、すぐ隣で聞こえる。


(……なんなんだよ)


 理由は分からない。

 でも――


(見なきゃいいのに、気づくと見てる)


 目を外しても、また戻る。

 距離も、声も、反応も。

 さっきから全部、引っかかる。


(……他のやつなら、こんな気にしないのに)


 それが分かっているから、余計に厄介だった。


(無視できない)


 ◇ ◇ ◇


 浴衣売り場は、季節物の特設コーナーとして広く取られていた。

 色とりどりの生地が並んでいる。

 マサキは足を止めた。


(……多いな)


 違いは正直よく分からない。

 リサはゆっくりと棚を見て回る。


 ◇


 並んだ色の中から、手に取ったのは――紺。

 落ち着いた色。

 そのまま、体に当ててみる。


(……松前くんと並ぶなら、このくらい大人っぽい色がいいんだよなぁ)


 頭の中で、なんとなく並んだ姿を想像する。

 自分だけ浮くのは、なんか違う気がした。


「……どう?」


 振り返る。


 ◇


 マサキは少し考える。

 悪くはない。

 落ち着いて見える。

 でも――


(……なんか違うな)


「……悪くはない」


 とりあえずそう返す。

 リサは首を傾げる。


「そう?」


 もう一枚。

 今度は紫。


 ◇


(こっちの方がいいかな……)


 迷いながら、当ててみる。

 やっぱり、落ち着いた印象。


(紫の方が松前くん好きそう)


 そう思って選んでいるのに。


「……どう?」


 もう一度聞く。


 ◇


 マサキは黙る。

 やっぱり違和感が残る。


(……似合ってないわけじゃないけど)


 視線が、無意識に別の棚へ向く。

 明るい色。

 白地に、淡い花柄。


(……こっちの方が)


 どう言えばいいのか分からない。


「……もう少し明るい方がいいと思う」


 ぽつりと出る。


「え?」


「そっちより」


 言葉を探す。


「……このへんの」


 軽く視線で示す。


「明るいやつ」


 曖昧な言い方。

 それでも、意図は伝わる。


 ◇


 リサは迷ってから、言われた方に手を伸ばす。


(……明るい色)


 鏡の前で当ててみる。

 白地に、淡い花柄。


(……あ)


 さっきより、しっくりくる。


(やっぱ、こういうのが好きだな)


 自然とそう思う。

 さっきまで考えていたことが、少しだけ遠のく。


(松前くんに合わせたかったけど…)


 こっちの方がいい。


「……どう?」


 振り返る。


 ◇


 マサキは迷わず答える。


「……こっちの方がいい」


 リサの顔が明るくなる。


「あたしもね、いま同じこと思った」


 リサは鏡越しに自分を見る。

 それから、ふっと笑った。


「じゃあ、これにしよっかな」


 その言葉に、マサキが間を置く。


「……いや」


 短く止める。

 リサがきょとんとする。


「え?」


 マサキは視線を棚に向けたまま言う。


「まだ見た方がいいだろ。こういうの、時間かけるもんだし」


 その言葉に、リサは少しだけ驚く。


(……女の子の扱い方、わかってるの何で)


 リサはもう一度、鏡を見る。

 手に持った浴衣。


(これもいいけど)


 視線が、他の棚に流れる。


(せっかくなら、もっと見てみたい)


 さっきより、選ぶ気持ちが前に出る。


「じゃあ、もうちょっと見よ」


 素直にそう言った。


(……一緒に選べるの楽しい)


 ほんの少しだけ、そんな気持ちが混ざる。

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