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距離感ゼロの如月さんと自己評価ゼロのオレ  作者: 空色いろはに
デート 編

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スイーツ後編 ~誘ってよかった1~

 スマホの画面を見たまま、マサキはしばらく動かなかった。

 検索欄には、中途半端な単語だけが残っている。


『デート 話題』

『女の子 会話 続かない』


 自分で打っておきながら、改めて見ると余計に意味が分からない。


(何やってんだオレ)


 指が止まり、消そうとして、また止まる。


 そのときだった。


「……なにしてんの?」


 すぐ近くから低い声が落ちて、マサキの肩がびくっと揺れた。

 反射みたいに顔を上げると、リサが立っていた。

 さっきまで席にいたはずなのに、いつの間にかすぐ近くまで来ている。


 マサキは束の間、固まる。


 リサはマサキの顔を見たあと、視線を下げた。

 手元のスマホ。

 開かれた検索画面。

 そこに並んでいる単語。


 見られた。


 そう思った瞬間、マサキは反射で画面を伏せる。


「いや、これは……」


 言いながら、自分でも何の弁解か分からない。

 リサはじっとマサキを見る。


「遅いなって思って」


 一歩だけ近づく。


「隠れてスマホいじってたんだ」


 その言い方には、拗ねた声が混ざっていた。

 マサキはうつむき加減になる。


「……悪い」


 口ではそう言ったのに、頭の中は全然まとまっていなかった。

 反射でスマホを持つ手に力が入るが、今さら隠したところで遅い。

 検索欄。


『デート 話題』

『女の子 会話 続かない』


 最悪だった。


(終わっただろこれ)


 喉の奥が急に熱くなる。

 リサはまだ何も言わない。

 その沈黙が逆にきつい。


(いや違う)


 会話が続かなかったから検索した。

 でも、それを説明したら、


『リサとの時間が気まずかった』


 みたいになる気がした。


(違う。楽しくないわけじゃない)


 むしろ逆だった。

 楽しいから崩したくなかった。


 何を話せばいいか分からなくて。

 と言えば、今この時間を持て余していたみたいになる。

 楽しませたかった。

 と言えば、それはそれで重い。


 変に考えて、何を言っても変になりそうで止まる。


(いやキモいだろこれ)


 女子と二人で来て、隠れて、スマホをいじる男。

 しかも、リサを席に残したまま。

 何とかしようとして、結局ひとりで逃げただけだった。


(終わってる)


 マサキは視線を落としたまま、眉間に力をこめる。

 何を言えば被害が一番少ないのか考えるのに、何も浮かばない。

 リサはそんなマサキをじっと見ていた。

 頬を膨らませたまま、小さく首を傾ける。


 けれど、すぐには何も言わなかった。


 口を開きかけて、閉じる。

 指先が、ニットの袖口をつまむ。


 伏せられたスマホ。

 何も言わないマサキ。

 その二つを見比べてから、頬のふくらみがゆっくり戻る。


「……誰と?」


 マサキは束の間、止まる。


「……は?」


「そんな隠れてまで、誰とLINEしてるの」


 言った直後、リサはうつむいた。


 責めるみたいな声になった。

 そう気づいたみたいに、唇が閉じる。


 けれど、すぐには引けなかった。

 マサキが何を隠していたのか知りたい。

 でも、知ったら自分が傷つくかもしれない。


 その迷いが、伏せた目元に残っていた。


 マサキは数秒遅れて理解する。


(そっちか)


 変な汗が一気に引く。

 同時に、別の意味で詰まる。


「……いや、違う」


 反射で否定する。

 リサはマサキの反応を見ながら、口を尖らせる。


「じゃあ、なんで隠れてたの」


「……」


 答えが出ない。

 数秒止まる。

 スマホの画面。


(いやでも、これ見られるよりは……)


 いや、どっちも嫌だった。


「何してたの」


 逃がさない聞き方だった。


 マサキは目を閉じる。


(無理だろこれ)


 言えるわけがない。


『女の子 会話 続かない』


 そんな検索をしてた、なんて。


 マサキが黙ったままいると、リサの視線はスマホに向けられる。


「……それ、なに見てたの?」


 マサキは答えない。

 答えられない。


「つまんなかった…?」


 聞かれる声が、思ったより小さい。

 その声で、マサキは反射的に顔を上げた。


「違う」


 今度は少し強かった。


 リサが一瞬、目を丸くする。


 マサキはそのまま言葉に詰まる。

 勢いで否定したのに、その先が続かない。


「……じゃあ、なんで」


 リサの声が弱くなる。


 マサキは顔をそむけた。

 スマホを持つ手に力が入る。


(どう言えばいい、いや無理だろ)


『女の子 会話 続かない』


 頭の中に、自分で打った文字が浮かぶ。

 死ぬほど恥ずかしい。

 でも。


 リサが「つまんなかった?」って聞いた瞬間、そっちだけは違うと思った。

 マサキは息を吐く。

 数秒迷ってから、スマホを持ち直した。

 マサキは観念したみたいに画面を開き、そのままリサへ向ける。


「……え?」


 検索履歴。


『話題 デート』

『デート 話題 困ったとき』

『女の子 会話 続かない』

『会話 ネタ 女子』

『好きな 質問 NG』


 似たような単語が、画面にずらっと並んでいた。


 リサが止まる。


「……」


 一瞬、理解が追いつかない。


 マサキは目を伏せたまま、ぽつりと言う。


「……なに話したらいいか、分かんなくて」


 声が沈む。


「……調べてた」


 一瞬、静かになる。


 リサはまだ画面を見ていた。


 そこに並ぶ単語。

 似たような言葉を、少しずつ変えて検索した跡。

 困って、消して、また打ち直したみたいな並び。

 そこに残っている、マサキの必死さ。


 その中で。


『デート』


 その単語だけが、やけに目に入る。

 リサの耳が、じんわり赤くなる。


(え、いや……待って)


 脳内が一瞬止まる。


(デートで検索した?)


 顔が熱くなる。


 マサキは気づいていない。

 完全に死にそうな顔で目を伏せている。


 リサの思考だけが急激に加速する。


(え、なに、どういうこと。いや、待って落ち着いて)


 心臓がうるさい。

 耳まで熱い。

 リサは一回だけ深呼吸した。

 まずは、素直な気持ち。


「嬉しい」


 言葉にすると、胸の内側が熱くなる。


「あ、あ、あたしのことで…悩んだり、するんだね」


「……そりゃ、そうだろ」


 マサキは目を伏せたまま答える。

 その言い方が、変に自然だった。


 だから余計に、リサの心臓が跳ねる。


(そうなんだ……あたしのことで悩むの、普通なんだ……)


 顔の熱が全然引かない。


 マサキはまだ気まずそうだった。


「オレ、こういうの慣れてないから」


 声が落ちる。


「変なこと言って、いやな空気にしたくなくて」


 その一言で、リサの胸がまた熱くなる。


 マサキは、たぶん本気で分からなかっただけだ。

 どうすればいいか。

 何を話せばいいか。

 それを、なんとかしようとしてくれていた。


 しかも隠れて。

 一人で検索して。


(むり……かわいすぎる……)


 リサは思わずうつむき、緩む口元を必死に耐える。


「あたし、マサキくんが黙ってても平気だよ……べつに」


「……」


「無理して話そうとしなくていいし」


 リサは目を落とす。


「でも、1人で悩まれるのは、ちょっとやだ」


 落ちた声だった。

 さっきまでの慌てた声とは違う。

 熱を隠しきれないまま、それでも本音だけがそのまま出たみたいな声。


 マサキは束の間、止まる。


「……楽しませようとして」


「うん、分かってる」


 リサはすぐに頷く。


「でも、あたし待ってたし。遅いから探した」


 その言い方が妙に自然で、マサキの胸の奥が詰まる。

 待って、遅かったら探す。

 リサの中では、それが当然みたいだった。

 それだけのことなのに、変に残る。


 リサはまだ照れたまま続ける。


「あたしのこと、考えてくれてるのは…ほんとに嬉しい」


 嬉しそうに笑う。


 その笑顔を見た瞬間。

 さっき検索していた時間、リサのそばにいれば良かったと思う。


 なんか、無駄なことしてた気がした。


 ◇


 リサはまだ顔の熱を引かせきれないまま、息を吐いた。


 マサキのスマホ。

 そこに並んでいた検索履歴。


『デート 話題』

『女の子 会話 続かない』

『好きな 質問 NG』


 思い出すたび、耳まで熱くなる。

 でも。

 あれを見せるの、たぶん相当恥ずかしかったはずだ。

 マサキは今も目を伏せたまま、逃げたいみたいな顔をしている。

 リサはくすっと笑う。


「……ありがとね」


「……なにが」


「ちゃんと見せてくれて」


 マサキの指が一瞬、止まる。

 リサは自分の指先を見ながら続けた。


「隠したままはぐらかすこともできたよね」


「……」


「でもマサキくん、見せてくれたの嬉しい」


 だから、リサも覚悟を決める。

 顔はまだ熱いまま。


「……だから、あたしも言う」


 マサキが眉間をわずかに動かす。

 リサは目を伏せたまま、指先でスカートの端をちまちま触る。

 落ち着かないみたいに、膝が内側へ寄る。


「さっき黙ってたの、悩みすぎてただけなんだよね」


 マサキが止まる。

 リサはその反応を見て、余計に恥ずかしくなる。

 でも、ここで止まる方がもっと恥ずかしい。

 息を吸う。


「あたしね……まだ食べたいなって思ってたの」


「……」


 言った瞬間、自分で耐えられなくなったみたいに顔を伏せる。

 耳まで真っ赤だった。


「でも、あたしだけ追加するの、恥ずかしくて……」


 もじもじと指先が動く。


「マサキくんより食べてるって思われるの、やだったし……」


 最後の方はかなり声が細い。

 マサキは数秒、何も言わなかった。

 それから息を吐く。


「……いや、食えばだろ」


 リサが顔を上げる。


「だ、だって気になるじゃん……」


「……オレは別に気にしてない」


 マサキはさっきより力が抜けている。


「じゃあ、あたし食べるよ?」


 そう言うには、リサはまだ恥ずかしそうだった。

 マサキはその顔を見て、目を伏せる。


「いいよ」


 さっきより自然な声だった。

 リサはその返事を聞いて、ふっと肩の力を抜く。


「……えへへ」


 くすぐったそうに笑う。


「マサキくんは、変なことで悩みすぎなんだよ」


「……リサの方が変だろ。食べ放題で食べようか悩むって」


「えー」


 でも否定できない。

 お互い、変なところで止まっていた。


 リサは<食べたい>が言えなくて黙っていたし、

 マサキは、変な空気にしたくなくて、逆に何も言えなくなっていた。

 しかもマサキは、隠れて検索までしていた。

 思い出した瞬間、リサの顔がまた熱くなる。


(デート…)


 ◇   ◇


 マサキが先に席へ戻ってくる。


 片手には、細長い紙に包まれた焼きたてのクレープ。

 甘い匂いの中に、ソーセージの香ばしい匂いが混ざっている。


 マサキは席に腰を下ろし、紙包みを持ったままリサのいる方へ目を向けた。


 少しして、リサが戻ってきた。

 両手には、いちごの乗ったショートケーキの小皿が二つある。


「見てこれ、結局こういうシンプルなのが落ち着くんだよね」


 席へ戻るなり、リサは嬉しそうに皿を置く。

 白いクリームの上に、半分に切られたいちごが並んでいた。

 座る前からもう顔が緩んでいて、目は完全にケーキへ向いていた。


 しかし、

 その視線が、ふとマサキの手元へ向けられる。


「またクレープ?」


「……さっきの、美味かったから」


 マサキは紙包みを持ち上げる。


「食事系、他のも気になって」


 包みの口から、レタスとソーセージが少しだけ見えていた。


「あ、ソーセージ&レタスだ」


 マサキはその反応を見ながら、一口食べる。

 焼きたての生地とソーセージの皮が、同時にぱりっと音を立てた。


「え」


 リサはケーキを食べる手を止めて、そのクレープをじっと見る。

 マサキがクレープを横にずらすと、リサの視線が追いかける。


「……食う?」


「うんっ」


 返事が早い。

 リサはフォークを置いて身を乗り出す。

 ほんの一瞬のことだった。

 見えた、と思った瞬間には、もう視線が外せなくなっていた。

 ニットの隙間から覗く白さ。

 呼吸に合わせてゆっくり上下する胸元。

 前へ体重をかけているせいで、胸が中央へ寄って、やわらかい谷がくっきり出来ている。


(……見える)


 反射みたいに思う。

 でも。

 リサはまったく気づいていなかった。

 視線は完全にクレープへ向いている。

 そのまま一口かじる。


 ぱりっ、と軽く鳴る。


「……っ!」


 すぐ顔が上がる。


「食感!」


 肩を跳ねさせて笑う。

 その動きに合わせて、胸元が揺れた。

 谷間の影が揺れる。

 柔らかそうな膨らみが、ニット越しに跳ねる。


(……やばい、視線が戻らない)


 思うのに、戻れない。

 リサはもう一口。

 ぱりっと音が鳴る。


 頬を緩めながら夢中で食べるたび、テーブルへ預けた胸がわずかに押し潰されて形を変える。

 そのたびに、ニットの胸元が開いて、白い谷間がちらついた。


「これ甘いの食べたあとにちょうどいい……」


 言いながらもう一口いこうとして、リサは途中で止まる。


「これ、マサキくんのだった」


 今さら気づいたみたいに言う。

 マサキは間を空けてから、肩の力を抜いた。


「……別にいいよ、見物料」


 マサキが返す。

 リサは「えへへ」と笑って、またクレープへかじりつく。

 ぱりっと軽い音。

 その瞬間、また目が細くなる。


「これどっちもパリパリなのがたまんない」


 嬉しそうに言いながら、もう一口。

 視線は完全にクレープへ向いていた。

 食べやすい位置。

 その言い訳が成立する高さを、ぎりぎりで保つ。

 自分が見られているなんて、一ミリも思っていない顔で夢中になっている。


(……これ、上げれば見えなくなる)


 クレープを持つ手に力が入る。

 あと数センチ。

 少し高く持ち上げれば、リサは自然に顔を上げる。

 そうすれば、この角度は消える。

 視界のすぐ下。

 白い谷間。

 ニットに押し込められた柔らかな丸み。

 リサが動くたび、そこが揺れる。


「ぱりぱりだ……」


 幸せそうに呟いて、また一口。

 かじるたび、肩が揺れる。

 胸も揺れる。

 マサキはコーラへ口をつけた。

 炭酸が喉を抜けていく。

 でも、意識はほとんど戻ってこない。


 クレープを持つ手だけが妙に冷静だった。

 少し上げれば見えなくなる。

 でも、上げない。

 リサは無防備なまま、また口を開く。


「あー」


 マサキは反射みたいにクレープを寄せる。


 ぱくっ。


 音が鳴る。


「んー……」

評価くれるのメチャクチャ嬉しいです(^▽^)

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