15.夜会
王族主催の夜会まで、あと一週間という頃のことだった。
「セレスさん、これ着てみて」
シオン様の実家を訪れると、お義母様は満面の笑みで大きな箱を差し出した。
「……何ですか」
「ドレスよ。夜会用に仕立てたの。セレスさんにぴったりだと思って」
開けてみると、深い緑色のドレスが入っていた。シンプルだが生地が上質で、光の当たり方で色が微妙に変わる。余計な装飾がなく、それでいて品がある。
「……いただいてもよろしいのですか」
「もちろん。早く着てみて」
断る間もなかった。
仕上がりを見て、シオン様は少し苦笑した。
「……ドレス、僕もプレゼントしたかったんだけどな」
「お母様に先を越されましたね」
「そうなんだよね」
シオン様はため息をついてから、上着のポケットから細長い箱を取り出した。
「せめてこれだけでも」
開けると、細いチェーンに小さな淡い石がついたネックレスが入っていた。控えめで、しかし確かに美しかった。
「……つけてもいいですか」
「どうぞ」
シオン様は私の後ろに回り、そっとネックレスを留めた。
鏡を見る。ドレスと不思議なほど合っていた。
「はぁ……可愛い」
後ろからシオン様の声がした。
「……ありがとうございます」
「本当に可愛い」
「言いすぎです」
「まだ言い足りない」
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夜会の会場は煌びやかだった。流石王族主催。
シャンデリアの光が床に反射して、至るところで宝石が輝いていた。
以前ならこの光景に委縮していた。義妹と元婚約者が並んで歩いていたのもこういう場所だった。
でも今は、隣にシオン様がいる。
「緊張してる?」
「少しだけ」
「大丈夫。セレスが一番綺麗だから」
「……誰に対してもそういうことを言うんですか」
「セレスにしか言ったことないよ」
シオン様が私の手を取ってエスコートした。会場に入った瞬間、周囲の視線が集まった。
シオン様目当てだろう、と思った。
実際そうだった。あちこちから視線が刺さってくる。令嬢たちの目がこちらに向いていた。正確にはシオン様に、その後、隣の私に。
「気にしなくていいよ」
「わかっています」
シオン様の愛の表明がその後しばらく続いた。
「セレスのドレスの色、本当に似合ってる」「そのネックレスつけてくれてよかった」「今日のセレス特別可愛い」
正直うるさかった。
悪意ある視線や声はあったのかもしれないが、隣のシオン様の声がうるさすぎて何も感じなかった。
しばらくして、一人の令嬢がつかつかとこちらへ歩いてきた。
金髪で、整った顔立ちをしていた。目がシオン様を真っ直ぐに捉えていた。
どこかの貴族の令嬢だろうか。
私は少し身構えた。
しかしシオン様が一歩前に出て、その令嬢と目が合った瞬間。
ウィンクをした。
令嬢の足が止まった。
ごめんね、と言いたげな、それでいて柔らかい笑みを添えて。
令嬢は一瞬固まり、頬を染めて、くるりと向きを変えた。
「……」
「効くんですね」
私は素直に感心した。
「慣れてるから」シオン様はあっさり言った。「これが一番話さなくて済むんだよね。言葉にすると角が立つし」
「なるほど」
「あ」シオン様がこちらを向いた。「セレスにもやってあげようか」
「結構です」
「遠慮しないで。ね」
シオン様はウィンクを私に向けた。
ただ、高速でウィンクしすぎてほとんど瞬きだった。
私は吹き出してしまった。あまりにも面白くて。
シオン様はたいそう嬉しそうだった。




