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13/21

13.挨拶3

「そういえばセレスさん、最近何か読んだ?」


シオンのお母様……お義母様は菓子をつまみながら、さらりと聞いた。

「本、ですか」

「そう。私ね、先月出た北方農業経済の論文読んだんだけど面白くて」


私は少し目を瞬いた。

「読みました。先月のものですよね」

「まあ貴方も読んだの!?」お義母様の目が輝いた。「3章の実験方法のところ、どう思った?」

「改良の余地があると思いました。サンプルの選定基準が曖昧で、結論を出すには母数が少なすぎます」

「そうそう!私もそこが気になって!対照群の設定も甘いと思うのよねー」

「比較対象の領地の選び方も疑問でした。気候帯が違いすぎて条件が揃っていない」

「わかる!!」


お義母様は身を乗り出した。

「じゃあ2章の収穫データの解析は?あそこは面白いと思ったんだけど」

「手法は面白いと思います。ただ過去データの参照年数が短いので、長期的な傾向を語るには早計かと」

「そうなのよね。10年分あれば全然違う結論になってたと思うのよ。ねえ続きの研究が出たら絶対読みましょうね」

「は……はい、ぜひ」


気づいたら前のめりになっていた。

お義母様と菓子をつまみながら、論文の話をしていた。

お義母様の言葉は的確で、視点が鋭く、話していて少しも退屈しなかった。むしろ自分の知識が足りないくらいだった。


「あの、お義母様」

「なあに」

「第4章の政策提言の部分はどう思われましたか。私は少し楽観的すぎると感じたのですが」

「わかるわ!現場を見てから書いてほしいのよね。あれは机上の空論というか……」

話が弾んだ。


流行の話でも、恋の話でも、社交界の噂話でもない。だからこそこんなに楽しい。

ここまで充実した会話は久しぶりだった。


---


少し離れたところで、シオン父は腕を組んでいた。

隣でシオンが菓子を一つ摘んで口に入れた。


「……随分と学が深いご令嬢だな」

「でしょー」

満足そうだった。


論文の話で目を輝かせているセレスを見ながら、それ以上は何も言わなかった。

だから選んだ、と。そう言いたげな表情だった。


シオン父は小さく息をついた。

妻がこれほど嬉しそうに話しているのを見たのは久しぶりだった。

息子や夫以外と学術の話ができる相手が、妻には少なかった。


「シオン」

「うん」

「よかったな」

シオンは笑った。

「うん!」



会話が一段落して、ふとシオン様を見ると、穏やかな顔でこちらを見ていた。

「楽しそうだね」

「す。すみません……気づいたらこうなっていました」

「母さんも楽しそうだから、全然いいよ」


お義母様がこちらを向いた。

「ねえセレスさん、またいつでも来てね。全然話し足りないわ」

「……はい、ぜひ」


お母様はシオン様とよく似た笑顔で笑った。

なるほど。シオン様のあの笑顔は、お母様譲りだったのか。


なんだか愛おしいな、と感じた。


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