光源氏と北条早雲
「実は書いてみたい小説があってね。只、これを書くと宮崎では大変なことになりそうだから少し考えてしまう。」
緑茶にしては珍しく、結論から先に言わない喋り方だ。
「もしかしてあの話ですか。以前少し話されてたような気がします。とは言っても影の中で聞いていたんで、あまりはっきり覚えてませんけど。」
真が緑茶に言う。
「だったら〈日本の王に、俺はなる。〉と〘糞々田舎〙で十分理解できるかな。」
緑茶は真に言った。
「タイトルはどうするんですか。」
今度は実が緑茶に尋ねた。
「『神々の勾玉』だ。」
緑茶が簡単に答えた。
「勾玉は一繋ぎですか。」
すると実は待ってましたとばかりに茶化すように言う。
真と実は緑茶の頭の中では既に〘隠れ家物語〙が出来上がっているんだと理解した。
「世界的アニメのオマージュみたいになるんですか。」
実は再度緑茶に尋ねた。
「そういう風に解釈される可能性も多々ありだから、あえてセリフを借りてきた。」
「そういうことなんですね。」
緑茶の返答に真も実も納得した。
「日向に嫌気がさした狭野命が〈こんな糞田舎は嫌だ。〉と言って美々津から船出。歴史小説より仮想神話かな。」
緑茶は〘隠れ家物語〙の概要を話し始めた。
「日本史空白が百五十年間、三世紀後半から五世紀初頭まで中国の史料には日本の記録がない。いずれは発掘した出土品から徐々に解明されるんだろうがまだ時間は掛かりそうだ。」
「中国や半島の文献も含めて研究できると面白いのでしょうね。今の情勢では難しそうですけど。」
真が緑茶に言った。緑茶は再び喋り始める。
「縄文から弥生、大化の改新、幕末維新を文化の移入。倭国の内乱、戦国時代、幕末維新を動の時期として同じ括りで捉えてみたい。天孫降臨の宮崎なら海幸彦は狩猟漁撈の擬人化、山幸彦は採集から農耕への過渡期を擬人化だ。」
「今の話だけでは断片的でしかも広角度過ぎて僕の頭の中では繋がりませんが、先生の頭の中では繋がっているのでしょうね。」
真も緑茶に問うように話す。すると緑茶は
「ここに〘光と影〙を絡めて謎解きをしてみたい。こっちにも波の上死点下死点、帰納と演繹を絡める。」
と答えた。
「光が上死点なら影は下死点、俺は最下層か。」
緑茶が喋り終えると実がニヤリと皮肉っぽく言った。
「光の角度で影は変わる、上下は交互、帰納と演繹の帰結も交互、そこから〘歴史は繰り返される〙を波に例えるんだ。」
緑茶が言うと真が
「具体的に言うとどうなりますか。」
と尋ねた。
「〘卑弥呼以死〙、乙巳の変、本能寺の変、近年の要人警護失策等で括ることかな。」
緑茶が答えると実が
「近江屋事件は加えないのですか。」
と尋ね、緑茶は
「迷ってるんだ。」
と答えた。そして緑茶は
「文化遺産の破壊と紛失にも触れたい。」
と言い続ける。
「城なら戦火や不慮の火災による焼失と経年劣化。古墳は盗掘や築城の城壁に使うため石室が壊されたみたいだ。これに長屋王の遺跡も加えたい。他には破壊ではなくて情報の交錯として北条早雲の生い立ちもだな。」
「最後が一番気になりますね。」
緑茶が話終えると実は言った。
「完全なフィクションだが日野富子の記憶の中で執事の伊勢八郎と伊勢新九郎がごちゃ混ぜになり、後日北条早雲が誕生した設定だ。」
緑茶は史実の曖昧さを開き直って捉えている。
「文献が消失した世界で源頼朝と源義経の業績が一緒になり光源氏が誕生したみたいです。」
真は知人が源氏物語を源平合戦の記録だと勘違いしていたのを思い浮かべた。




