隠れ家小説
真は緑茶に問いかける。
「ところで先生、実と話しているところを申し訳ないのですが森市 〆と岸畑 楽が手を結んでから何か変わったことはありますか。」
「嫌がらせが極端に多くなった。仕掛けてくる奴らは年齢も幅広い。まず行き先々で女性に変に絡まれる。買い物に行って駐車場の空きの多い場所に停めるといつしか数台の車に囲まれるんだが、いつも同じ車種だから半分脅しだな。酷い時にはドアを開けて〈あら、間違えました。〉とか〈失礼しました。〉と言って笑いながら去って行く。男の場合もあるが圧倒的に女だ。男性陣の殆どは歩いているのを狙い、車で向かって来て目の前で急停車する嫌がらせが多い。」
緑茶はいつものように涼しい顔で喋った。
「先生、本当に気をつけてください。森市と岸畑の連携が結構噛み合ってます。このまま能力が増大すると衆院宮崎一区と参院宮崎区は進化党が議席を獲得する可能性が高い。」
真は緑茶を心配すると同時にこれはまずいぞと言った表情をしている。実もここまでやるのかと驚き顔だ。
「新科学会の婦人部と青年部もますます活発に動き出しそうだな。特に婦人部は動くと言うより暗躍かもな。婦人部はもう宮祭 香を先生に近付ける〘ストーカー作戦〙は使えない。戦術の変更か。」
実はいつものように笑みを浮かべ好戦的な表情をしている。それを見た真は
「余計なことをするんじゃないぞ。俺達は影なんだ。」
と実を制した。
「偶然と言うかホントにたまたまなんだろうが、森市と岸畑とで操る男女や年齢層を上手く使い分けている。」
緑茶もその役割分担の見事さには少し驚いていた。
「影を操り男を動かす実戦部隊は森市が担当、音楽や言葉で女を動かすのは岸畑か。森市は力で統治する王、岸畑は眷属の多い吸血鬼かよ。日向異人化したのとバンド吸血鬼族結成はどっちが先だろう。」
実がそう言うと緑茶は
「〘鶏が先か卵が先か〙程度じゃないか。音楽で日本を制覇しアジアから世界へ翔く夢は儚く終えてる。」
そう言ってのけた。真は
「完全否定ですか。先生にしては珍しい。普通なら〈そのうちブレイクするかもしれない。〉と柔らかめ言うのに。」
と少し緑茶に絡んだ。
「他人が思いついたフレーズを自分の曲にしてるようじゃ音楽でのブレイクは無理だろう。」
実は大声で笑い始め、笑い終わると話し始めた。
「森市は先生のパソコンや携帯を覗いてネタ集め。岸畑は眷属の鵜財兄弟に盗聴器と隠しカメラこっそり仕掛けさせて先生の動向チェックか。」
実が話し終えると緑茶は
「そんなに目立ちたいのかな。私ならどうすれば目立たずに済むかを考えるよ。」
と言う。今度は真が吹き出した。
「業界人が聞いたら怒りますよ。〈何故ネタを使わない。〉〈どうして曲を作らないんだ。〉って。」
真の言葉に緑茶は返した。
「使わない訳じゃない。作ってない訳じゃない。脳内ではしっかり自分の物語を作って自分の曲を流し自分で楽しんでる。映画『隠れ家物語』を上映中だ。」
「だから隠れファンが多いのか。西都原元知事に魑魅魍魎対策室の梯 絵南、そして何より森市と岸畑。」
実が言うと
「最後の二人は要らない。」
と緑茶は言う。三人は笑った。
笑いが収まると実が
「『隠れ家物語』の一番の名台詞はなんですか。」
と緑茶に尋ねた。
「〘犬のエサ代は払いたくない〙だろうな。主人公が教唆冤罪捏造隠蔽の警察官に言う台詞だよ。」
澄ました顔で緑茶が言うと実は爆笑だ。
「それ、先生が宮崎中央署生活安全部の谷間に言ったまんまじゃないですか。」
「実君、その時君は僕の影から目撃していたのかな。」
緑茶が答えると、今度は真が
「しょうもねぇな。」
大笑いで言う。




