第三十八部
「どうやら山本さん達は、例の信号機のことも彼らの目的についてもつかんだようですよ。」
電話越しに坂本が報告して、黒木が
「そうか。それで、例の信号機から彼らを見つけるのにどれくらいの時間がかかりそうだ?」
「そんなに時間はかからないと思いますけど、週末には確実に用意できるかと思います。」
「今回は、あいつが自分で勧誘した二人に任せてみたが、俺としてはどうにも気の乗らない事件だったよ。」
「今回は僕らに向いた疑いを少しでもそらすために、全く僕らと関連のない彼らが選ばれたわけですし、情報の提供から準備から全部あいつがしたので、僕は楽でしたよ。」
「坂本はそうだろうな。事後処理のための法案作成やら、大阪府警の本部長への根回しからした俺の身にもなれよ。」
黒木はそう言って苦笑した。坂本が
「本当にお疲れ様です。でも、まだ安心はできそうにないですよ。武田総監が本格的に動き出しそうなので。」
「あの人はタヌキの皮を被った虎だからな。
用心に越したことはないだろう思うけど、今のところ俺らと目的は近いところにあるわけだし、最大限に利用させてもらおう。」
「虎だけじゃなく龍も相手にするんですから、あまり油断しない方がいいですよ。」
「そうだな、一匹でも厄介な龍に、もう一匹の独断龍が合流する前に俺らも最大限計画を進めとくとするよ。」
「アハハ、『独断龍』ですか、面白いですね、その言い方。」
坂本が笑いながら言い、
「笑い事じゃないだろ。優秀な独断で事件を解決してきた男だ。山本が一人増えるようなもんだから、内心ビビってるよ。」
「それだけ、山本さんが救世主になるのが速くなるってことだから喜びましょう。」
「とにかく、そっちは任せた。俺もこれから大事なお客様の相手をしないといけないからな。」
「それでは失礼します。」
坂本が電話を切ると、黒木は秘書と合流して、ドアを開ける。
「お待たせしてしまってすみません。」
「君の活躍で、交通犯罪の取締が強固なものになることがわかったよ。それで、君を信用することにした。」
「ありがとうございます。それで・・・・・?」
「ああ、君が欲しがっていた物は全てこの封筒の中にあるよ。
だが、こんなものを集めても、警察は動かんよ。」
「警察が動かなければ、世の中を動かせばいいだけです。
週刊誌にでも暴露記事を書かせますよ。」
「飛ばしでは意味がないだろう?」
「いえ、会長がご存知ないだけで、最近は週刊誌の影響力もバカにできなくなってますからね。」
「芸能人のプライぺートを暴いて正義面してるような、奴らの何が信用できるというのかね?」
「まあ、そう言わずに。彼らも一日中頑張ってネタを探しているんですから。それにどんな馬鹿げた記事であっても、信じる馬鹿なやつはいますからね。」
「そういう馬鹿を利用して何かしようとしていると言っているようだが?」
「この資料について、被害者の会内で知っている人はどれくらいいますか?」
「君が内密にと言ったから、私しか知らないが、それがどうかしたのかね?」
「いえ、目に見えないものは、どこから漏れているか調べにくいですからね。私が使う前に先に他の誰かに使われて欲しくないと思っただけですよ。」
「そういうものか。じゃあ、今回の礼としてこれを渡しておくよ。今後も仲良くしたいものだね、黒木君とは。」
黒木は封筒を受け取って、
「ええ私も、今後も交通事故被害者の会の皆さんとは仲良くさせて頂きたいと思っておりますのでよろしくお願いします。」
交通事故被害者の会の会長と黒木は握手をして、会長が部屋を出て行き、一人残った黒木は一人で
「今後も・・・・か、あるといいですね、あなたに。」
つぶやいた黒木の口元には笑みが浮かんでいた。




