第三十九部
「警部、遠野さんと藤田が週末に休みを取りました。」
今川が報告すると、山本が
「遠野と藤田に張り付いてくれるか?応援が必要なら三浦でも上田でも使っていいぞ。」
「それが、藤田に関してはこの二・三日無断欠勤で連絡が取れず、どこにいるのかもわかっていない状態です。遠野さんも有給の一括消化で昨日から一週間休みを取っていて、行方がわかっていません。」
「疑われてるのがわかってるんだから、そう易々と動向を探らせたりはしないか。」
山本が言ったところで、上田が
「警部、塗装工場の本田さんからお電話です。」
「ああ、今行く。」
山本は上田から受話器を受け取って、少し会話してから、今川に向かって、
「今川、これから一緒に来てくれ。」
「えっ、わ、わかりました。」
「僕も行きましょうか?」
上田が聞いたが、山本が
「いや、上田は、加藤に合流して小森の警護を強化してくれ。
このタイミングで消えたところを考えると俺らの考えは正しかったと言えそうだからな。」
「了解しました。」
上田がすぐに出て行き、その後で山本と今川も部屋を出た。
「お待ちしてました。」
塗装工場に山本と今川が到着すると、本田が出迎え言った。
「お忙しいのにすみませんね、それで例のものは?」
「こっちにありますよ、どうぞ。」
本田の案内について行く山本、何のことか全くわからずに今川も本田の後に従った。
工場の奥につくと、本田が黒いビニールのシートを指さして
「これですね。」
「これで、車の色が完全に変わるんですか?」
山本が聞くと、本田が
「ええ、その成果はまた後で確認してもらいますけど、これを車体に貼れば車種を他のものに見せることは不可能でも、車体を別の色にすることぐらいはできますよ。」
「今川、お前でもシールを貼れば、車の色を変えることはできるだろ?」
山本に聞かれた今川は焦って、
「僕もこういうのは少し遊びでやっただけなので、完璧にはできませんよ。」
「そうか。本田さん、何分くらいかかりますか?」
「そうですね・・・・、総力を使ってやってるので、もう終わったかもしれませんね。」
「何ができてるんですか?」
意味のまったく分からない今川は山本に向かって聞いた。山本はニヤリと笑って、
「じゃあ、本田さん行きましょうか。」
「そうですね。行きましょう。」
そう言って二人が歩き出したので、今川もその後に続いた。
歩いている途中で、すれ違った作業員が本田に何か言っていたが今川には聞き取れなかった。駐車場に出て、今川は言葉が出なかった。
「・・・・・・、僕の車はどこに行ったんですか?」
自分が止めたところには別の車が停まっている。本田が
「何言ってるんですか?停まってるじゃないですか、あそこに。」
ニヤニヤしている本田と同じようにニヤリと笑っている山本。
今川は車に駆け寄ると、確かに自分の車だが色が白から黒に変わっている。
「どうですか、山本さん。完璧でしょう?」
本田が聞くと山本は
「ええ、元々この色だったんじゃないかってくらいの仕上がりですね。」
この会話を聞いて、今川が全てを理解して、
「僕達が来て、奥に行ってる間に、あのシールを僕の車に貼ったんですか?」
「ええ、車種を聞いておいたので、それにぴったり合うようにシールを作ってもらって、この短時間でウチの作業員を総動員してやりました。」
「持ち主本人がわからないほどの精度ですから、知らなければ記憶にも残らないでしょうね。」
「そうだと思います。でも、この方法にはかなりの熟練度が必要ですし、これを二人でやろうと思うと並みの人じゃないですね。」
本田が感心しながら言い、山本が
「じゃあ、申し訳ありませんがもう一作業お願いします。」
「わかりました。明日の朝には仕上げとくので、取りに来てください。」
「わかりました、行くぞ今川。」
「えっ、行くって?車どうするんですか?」
「ああ、キーは本田さんに預けとけ。迎えなら三浦が来てるからな。」
山本が指さした先には、三浦が今川の車を眺めながら立っていた。
その三浦が
「凄いですね。シール貼ってる作業も見てましたけど、連携が凄すぎて、途中からどこ見ていいかわからないくらいでしたよ。」
「職人技ってのは美しいもんらしいからな。」
山本が言い、本田が
「僕らもまだまだですよ。日々精進ですね。」
「じゃあ、本田さん明日の朝に今川が取りに来ますので。」
「ええ、明日9時以降であれば、お渡しできます。」
今川がキーを渡し
「あ、じゃあ、よろしくお願いします。」
「そんじゃあ、戻るか。」
山本が三浦の車に乗り、三浦が今川にキーを渡し
「よろしく。」
「わかりました。」
助手席に三浦が乗り、今川が運転席に乗って、車を出した。
それを見送っていた本田が
「それにしても、こんなこと考える人っているんだな。あの人は凄すぎるな。」
そう言って、白から黒に変わった今川の車を見た。




