第二十一部
「この前、上田さんにも言いましたけど、自分から監査室に来られる方は珍しいですよ。」
「何もやましいことしてなければ、別に何とも思わないはずだろ?」
法務省から帰ると山本はそのまま、監査室に向かい、坂本に会っていた。坂本が笑いながら、
「町中でパトカーを見かけたらドキッとするのと一緒ですよ。何も悪いことしてなくても、何か言われるんじゃないかと身構えるのが普通なんじゃないですか。」
「自分の行動に責任を持ってれば、そんな気持ちにはならないと俺は思うがな。」
「さすがは山本さんって感じです。それで今日はどうされましたか?」
坂本が山本を褒めたたえた後で、本題に入ろうとした。
「ああ、上田が、この前、来た時に言ったかもしれないが、黒木と少し連絡がとりたくてな。黒木から連絡が来ないから、まだ伝わってないのかと思ってな。」
「ああ、まだ連絡ないんですか。
上田さんが来た後で何回か連絡して、やっと一回つながったので、伝えたんですけど、選挙が近々あるようで支援者拡大に忙しいみたいでしたから忘れてるんじゃないですか。山本さんから電話されてみてはいかがですか?」
坂本がニコリと笑って言う。
「そんなことするぐらいなら、別に連絡しなくてもいいと思うんだよ。」
「どんなご用事なんですか?」
「今度のOB会に参加するのかどうかを聞こうと思ってな。」
「行かれるんですか?」
坂本が意外そうに聞く。山本は肩をすくめて、
「一度どんなことをやってるのか見てみたいと思ったんだが、知らない奴ばっかりのところに行くのは嫌だろ?黒木が行くなら行こうかと思ってな。」
「それなら、僕も行きますから、一緒に行きましょうよ。」
「わかってないな。坂本は友達もいるだろうから、そっちに話に行くと俺が一人になるだろ。黒木がいれば、ずっと黒木の横に張り付いてればなんとかなるだろうという算段なわけだ。」
「いや、その見積もりは甘いですね。黒木さんが行けば色んな人が集まってきて、近くにいることすら難しくなると思いますよ。」
「そうか、まあ、そのへんを黒木にも確認したかったんだ。
ああ、そういえば黒木で思い出したが、さっき法務省に言ってたんだが、矯正局に勤めてる姫地さんって人が黒木を悪く言ったんだが、坂本はその人知ってるか?」
「姫地・・・・、姫地・・・・。
ああ、あの姫地さんかな。たぶん珍しい苗字なので一緒の人だと思います。」
「何でその人を知ってるんだ?」
「前にも言ったと思いますが、僕は研修で法務省に行ってたんですけど、そこで黒木さんに出会った時に、黒木さんと一緒に働いてたのが姫地さんだったんです。
黒木さんと姫地さんは、なんていうか出世争いをしてる間柄だったので、仲が悪かったように思います。しかも、先に黒木さんが出世したのに、辞めて国会議員になったので、さらに嫌ってるのかもしれないですね。」
「そうか。じゃあ、黒木の叔父さんは知ってるか?」
「黒木さんから二・三度聞いたことがあるぐらいで、お会いしたことはないですね。その叔父さんがどうかされたんですか?」
「姫地さんは、黒木のことは嫌ってたが、その叔父さんのことは嫌ってなかった印象を受けてな。何でなのかと思って、坂本なら知ってるかなと思ってな。」
「僕が全部知ってるわけではないですけど、確か叔父さんは総務省の事務次官になる前に法務省にも勤められていたみたいですから、そのあたりで何か関係があったんじゃないですか?」
「なるほど、ありがとうな。じゃあ帰るは。」
山本はそう言って、さっさと監査室を出ていった。
「何か用事でもあるんですか?」
山本の様子に唖然として、坂本が上田に聞いた。上田は苦笑しながら、
「最近よくやるんですよ。用が済んだらすぐに帰るみたいなこと。」
「ああ、そうなんですね・・・・。
そういえば、特捜課に女性の課長が来られたとうわさを聞いたのですが、本当ですか?噂では美人だということでしたが。」
「ええ、本当ですよ。警部も頭が上がらないくらい美人ですよ。」
「上田さん、あまり変なこと言うと後で怒られますよ。」
楽しそうな上田に大谷が言う。その様子を見た坂本が
「それはぜひ一度拝見したいですね。暇があったら覗きに行きますよ。」
「じゃあ、僕らもそろそろ行かないと怒られるので、失礼します。」
上田が言って監査室を出て、大谷も少し会釈をして部屋を出た。




