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今日はいい天気だ。
「お友達作り日和ですね」
私は送迎車に乗り込みながら今日から毎日学校に送ってくれる運転手、皆川さんに言った。
「お嬢、調子にのって学園制圧とかしちゃいけませんぜ?」
「できませんよ」
中野さんは何を考えているのか。学園というのは私の通う学校の名前が桐應学園と言う名前だからなので分かるけど、学園制圧って…この学園高等部や付属大学まであるんですけど…もし出来たとしても私の夢見る社会に干されない暴力団は一気に遠のいてしまうだろう。
「いや!お嬢の力なら!」
「学園では隠しますよ?あと危険が迫ったとき以外で使うつもりはありませんから」
「まじっすか、お嬢…もったいない」
もったいないもなにも…確かにメイド(仮)もとい私の教育係の中野美穂、通称美穂さんは私に極道とは何かを5歳から教えていた…否きっともっと小さい時から教えていただろうけど私は知らない…そのせいで護身術は大体なんでも出来るようになっている。自分でいうのもなんだけど、特に合気道は割といい線いってるんじゃないかなー?と思ってる。だけど美穂さんには実戦では勝つどころかまだ一度も自分から触れたことすら一度もない…恐るべし美穂さん。
「お嬢着きましたよ」
「では行ってきます」
私は皆川さんに挨拶して教室へ向かった。
私は今、どういう基準で決められているのか分からないが自分の教室であるAクラスに着いた。ここが一番大事だ、私は深く深呼吸をして教室に入る。
「おはようございます」
「……」
教室には20人で1クラスなので10人くらい…約半分が居るというのに誰も返事を返してくれない。なんてこった、昨日は初対面だったし気を使って自己紹介のとき拍手してくれたけど平凡な私ではこの中には馴染めないのか!
すると暫くの沈黙があってから静かに既に3人くらいの取り巻きに囲まれてるあの城ノ崎麗華が立ち上がってこっちに歩いてくる。って、やばい…何が理由か分からないけど目を付けられたかもしれない。うちの家が潰されちゃう…
若干青ざめながら入口で逃げようかと考えて固まっていると、
「ごきげんよう、柏崎さん。ちょっとお時間頂いてもよろしいかしら?」
やっぱり話しかけてきたか、と思ったがそれより私の名前を覚えていた事にびっくりだ…じゃなくて、返事しないと!
「い、いいデスヨ…」
あ、ちょっと噛んじゃった…
「そうお返事頂き光栄ですわ。私に着いて来てくださいまし」
そう言われたので始業まではあと30分以上あるし…と思い逆らえないし仕方なく着いていく。
…後ろでうっすら聞こえた「かわいそうに…」みたいなクラスメイトの声がちょっと気になるけど。
城ノ崎麗華に着いていくと、場所は誰もいない図書室だった。この学校の図書室はずっと開放してあるんだなぁ、城ノ崎麗華やっぱりきれいだなぁって思っていたら城ノ崎麗華が振り返り話しかけてきた。
「急にお呼び立ててしまい申し訳ありませんわ。ですが私このままでは貴女がこの学園では浮いてしまうのではないかと思いまして…」
……
「え?」
「一年前から急成長されてから昨日初めて柏崎家の当主以外がお見えになられて、柏崎さんは初めて私たちにお会いしたのですから知らなかったのだとしても当然ですけれど、私たち自分の事は基本的に私と呼びますのよ?ですが柏崎さん自己紹介の時にお聞きしましたが、私と呼んでいらっしゃいますでしょう?それと私たちの中では挨拶は「おはようございます」ではなくて「ごきげんよう」が一般的ですのよ」
ま、まじかぁ…ちょっと本物のお嬢様の言葉遣いは敬語じゃダメだったみたいだ。そんな話し方現実では絶対に聞くことないと思ってたよ…
「そ、そう、なんですの…」
「ああ!分かっていただけましたのね!これからはそのような言葉遣いで皆様に接すればクラスで浮くことも無いと思いますわ!」
「あ、ありがとうございますわ…」
「今は少々ぎこちなく感じますけど、きっとすぐに違和感なく話せるようになると思いますわ!」
手を合わせて自分の事のように喜んでいる。今の城ノ崎麗華は普段感じる高嶺の花的な雰囲気は感じない。すると気がついたように
「そうですわ!今度から私の事は下の名前で呼んで貰えないかしら?もちろん私も貴女の事は璃子さんとお呼びいたしますわよ」
「えーっと…だったら…麗華さん?」
「ふふっ、いいものですわね。皆さん私のこと麗華様としかお呼びになってくださらないので…それから、「だったら」ではなく「でしたら」と言うべきだと思いますわよ」
少し寂しそうに語った後、今までの微笑みではなく見たことのないようなちょっといたずらっ子っぽい笑顔で言われた。想像とは違ってこの人実はかなりいい人なんじゃないだろうか…あと、私だけ『麗華様』と呼ばないのはいいのだろうか…
「あら、 いけないわ!璃子さん教室に戻りませんと!もうすぐ予鈴が鳴ってしまいますわ」
そう言って図書室を出ていこうとするので、私もそのあとを追って図書室を出る。
「そうですわ、璃子さん。これから私たち”お友達”よね?だってお名前で呼び合っているもの」
「そ、そうですわね」
「今のは言葉遣いに詰まっただけかしら?」
なんでこんなに友達を強調してくるんだ…
そこで私は一つの可能性にたどり着く。もしかして、麗華さんは私と一緒で友達が居ないのではないだろうか。一目見ただけで取り巻きに見えてしまった教室の人達を想像する。なんか仲間を見つけたみたいで嬉しい。
そんなことを考えていたら麗華さんが見えなくなっていた。急いで教室に向かいドアを開けて「ごきげんよう」と言ってみた。
「ごきげんよう、柏崎さん」
既にほとんどの人が登校していて、扉の1番近くの人が微笑みながら私に返してくれた。本当に言葉遣いがいけなかっただけみたいだ…
離れたところで麗華さんが手を振っていたのでとりあえずそっちに向かうことにする。
「言った通りでしたでしょう?」
「そうですわね…ありがとう、麗華さん」
私がそう言うと麗華さんはふふっと笑い、4人に増えてた周りの取り巻きたち(もしかしたら友達もいるかもしれない)が「マジでそうやって呼んでんの?!」みたいな顔で見てくる。そして、私も私も!といったように皆”麗華さん”呼びが確定したみたいだ。
それからすぐに先生が入ってきてHRが始まり、授業が始まった。
余談だが、次の日から男子の中で私の陰のあだ名は”取り巻き5”になっていた…
てゆうか皆、よく私の名前覚えてるよね。それを麗華さんに尋ねたところ「言葉遣いが少し違ったという事もありますけれど、大なり小なり皆企業の御子息御令嬢ですしね…私も含め人の名前を覚えるのは得意だと思いますわ。多分昨日の自己紹介でクラスの方々のお名前は皆覚えているのではないかしら?」との事だ…御子息御令嬢の記憶力やばい。