13話
「苦……ジィ、タスケテタスケテ」
余りの光景に目を逸らす。苦しいと声を上げ、床を這う上半身だけの、人間とそう変わらない形をしたゾンビ。涙をボロボロと零し、声にならない声で助けを求めて薫の元へ進んでくる。
思考が上手く働かず、薫はその場に立ち竦む。
「何してるの!」
憂己の声で我に帰る。いったいどの位の時間立ち尽くしていたのか。ほんの数秒しか経っていない筈なのに、薫には何時間にも感じられた。
いつの間にか、薫の足元までソレは迫っていた。薫は腰を抜かしそうになりながらも、震える足で一歩一歩、後退りする。
「タスケテ、タスケテ、苦シイ……タスケテ」
「俺に……どうしろって言うんだよ!!」
叫ぶ薫に、ズルズル、ズルズルと迫りながら「タスケテ」と繰り返す。まるで自ら「殺してくれ」と訴え掛けているかの様に。
「ヒドイ……」
「嫌ぁ! 見ていられない……」
薫の背中越しに景兎や凛々の啜り泣く声が聞こえる。薫は覚悟を決め震える手で銃を構えると、ゆっくりと引き金を引いた。
乾いた音。飛び散る血と肉片、ゾンビは項垂れるようにして倒れる。完全に動かなくなる間際、掠れた声で「アリガトウ」と確かに聞こえた。
薫はその場にへたり込む。景兎や凛々は声を上げながら泣き崩れ、憂己も動けず立ち尽くし呟く。
「キツいなぁ」
「はは、俺、一瞬「可哀想だ」って、思っちまったよ。目の前で喋って……苦しんでて、「タスケテ」って……」
「薫……」
「俺、間違った事してねぇよな?アレ……敵なんだろ? 俺達殺そうとしてるんだろ?」
薫がポツリ、ポツリと言葉を紡ぐ。
「あいつら一体なんだよ! 俺……なんで平気で、躊躇なくっ! 殺せるんだよ!俺ら普通の高校生だろ? 普通に生活して来たんだろ? 何で……」
薫の目から涙が溢れ出る。拭っても拭っても、止まらない。
「何、甘えた事言ってるんだよ。 そんなの分かってた事だろう? 今更、躊躇してどうするの! 可哀想だって? 笑わせないでよ…… 可哀想なのは僕達じゃないか。」
憂己は薫を怒鳴りつける。
「……生きたいんでしょう? ここから出たいんでしょう? 僕は何だってやるよ。今度くだらない戯言なんて言ったら相手が薫くんでも容赦しない」
薫は自分の愚かさに下唇を噛み締めた。
『自分だけじゃない、景兎……憂己や凛々だって居る。何甘えた事言って居るんだ』
憂己の言葉に薫は目が覚める。景兎や凛々も涙を拭い、立ち上がった。




