9話
受付のカウンターを横目に、何か嫌な予感がして薫は立ち止まる。
「どうした?」
憂己が薫の様子に心配そうに呟くと、辺りを見回した。すると、並べてある椅子に俯いて座っているいくつかの人影が目に付く。凛々や景兎もそれに気付いたのか動きを止める。
「景兎」
「うん。解ってる」
薫と景兎は銃を構え、様子を伺う。動く気配がない影に痺れを切らした景兎が言った。
「かおるぅ、撃っちゃダメ?」
その瞬間、人影が一斉に立ち上がった。景兎は「任せてぇ?」と引き金を弾く。景兎から放たれた数発の銃弾は乾いた音と共に全ての影に命中し、次々と膝から崩れ落ちて行く。
「エグいな……」
得意気に笑う景兎の腕前に三人は唖然とする。
床に倒れている人影がまだ蠢いている事に凛々が気付き「うわ」と声を上げる。凛々の視線の先見ると、まるで苦しんで居るかの様にのたうち回る黒い物体。
「しぶといっつーの」
薫は蠢く影に狙いを定め引き金を弾く。一体一体、確実に仕留める。薫の弾を受けて力尽きたのか、身動き一つしなくなった。
「二人に任せれば俺たち何もしなくて大丈夫そうだね? 凛々ちゃん?」
憂己が振り返ると、凛々の背後に先程と同じ黒い人影が両手を広げゆっくりとした動きで掴みかかろうとしている。
凛々は全く気付いていないようで、急に変わった憂己の表情に不思議そうに首を傾げる。
憂己は静かに刀を抜き凛々の頭越しに刃を突き立てグリグリと抉る様に刃先を回しながら冷たく言い放った。
「全く……汚い手で触ろうとしないでよ」
凛々は恐る恐る振り返ると、崩れ落ちて行く影を目にする。凛々は襲われかけていた事に恐怖し身体を震わせた。
「にぃ……凛々、全然気付かなかった」
「凛々ちゃん一人だったら絶対食べられちゃってたね」
憂己が馬鹿にしたように言う、凛々は「きらーい」と、景兎の所へ駆け寄って行った。
景兎に頭を撫でられ凛々は複雑そうな表情をし俯いた。
再び歩き始めると、長い廊下に出る。すると、廊下の奥から足音が聞こえて四人は立ち止まった。
「なんの音かな?」
「まぁ、今さら何が来ても驚かないけどね」
薫と憂己は神経を凝らし、それぞれ武器を構える。
「後ろは任せて! ばっちり守るから」
景兎の言葉に、薫は「しっかり頼むよ」と声を掛けた。段々と近付く足音、薫達の視界に姿を現し始めた足音の正体に身震いする。
「何だよ……アレ」
「薫くん良かったね?看護婦さん好きでしょ?」
「あんなグロテスクなナースには萌えないね」
「意外と良いかもよ?激しそうだし?」
憂己の言葉に苦笑しながらも、徐々に近付く看護婦らしき姿。あまりのグロテスクさに言葉を失う。
少し短めの血で汚れたナース服。骨の様な細い脚を軋ませ、長い黒髪を振り乱し歩く。顔はグチャグチャで原型を留めて居ない。両手で鉈の様なものを重そうに持ち、飛び出た大きな目で周囲を見回している。
「うげ、かおる趣味悪いぃ」
「俺はもっとムチムチしてる、普通のナースが良いんだよアホ」
チラリとこちらを振り返り冷めた憂己で見つめる景兎の頭を小突く。薫は近付いてくる看護婦に再び銃を構える。
そして、骨の様な脚に向かって引き金を弾くと、看護婦の右脚に当たり、痛そうに甲高い叫び声を上げながらその場に倒れ込む。
「薫くんって意外と鬼畜」
「うっせぇ、アイツ意外と歩くの速いんだよ!」
薫に撃たれ今にも千切れそうな片脚を引き摺り、それでもゆっくりと向かって来る看護婦を見ながら憂己が非難する。
薫はもう一度引き金を弾き、今度は頭を貫通すると、動かなくなった。
薫は暫く倒れ込んだ看護婦を見て居ると微かに身体が動き、再び起き上がり始めた。
「おいおい、勘弁してくれよ……」




