秘密 2
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(あんの六百歳の下世話なじじい狐め! 今度あの口いっぱいに餅を突っ込んでやろうかしら。まったく、何が子よ! そんな関係じゃないってばっ)
綾女は一応、紫苑の嫁だ。今朝、嫁と認められた。誰にも披露するわけではないが、その事実は変わらない。
鬼の嫁になることについては腹をくくったし、命婦が喜んでいるから、まあ、不満はない。
だけど、それとこれとは別の話だ。
綾女はまだ清い体である。
そしてしばらくの間はこのままでいるつもりだ。
覚悟は決めても、そこまでの覚悟はまだ決め切れていない。鬼との間に子とか――正直怖い。産むのが、ではなく、その子の将来が心配だ。
この先そういうことがあるとしても、もっと紫苑や鬼について理解しなければ決断できなかった。
紫苑は強い鬼のようなので心配はないのかもしれないけれど――都に跋扈する魑魅魍魎は、いつ、法師や陰陽師に調伏されるかわかったものではない。
半分鬼なんて半端ものは、彼らによって狩られてしまうかもしれないではないか。
我が子がたどる運命がそのような悲惨なものだなんて、断じて許容できない。
大切な人は――幸せに、長生きしてほしい。できれば綾女よりずっと長く。
(おいて逝かれるのはもう嫌なの)
大好きだった父は、あっけなく逝ってしまった。
夜、眠る前まで元気だった。
でも、朝起きたら冷たくなっていた。
あんな思いをするのは、もうたくさん。
日が暮れる前に夕餉を終えて、綾女は、今日から自分の住処となった北の対で、ごろんと横になった。
隙間風が容赦なく入り込むあばら家と違って、ここは温かい。
女房の格好をした二人の式神が火桶にたっぷり炭を入れてくれたし、温石も用意してくれた。
昼間に綾女を怒らせたしょんぼりしている綿星からは差し入れに餅をもらったし、温かいお茶も出してくれた。
なんて至れり尽くせりなのだろうかと、今朝まで暮らしていた場所との落差に驚くほどだ。
立派な風呂殿もあって、先ほど汗を流してきたばかりだ。蒸気のこもった風呂殿はとても温かくて、寒い時期には実に気持ちがいい。基本は蒸し風呂だが、望めば大きな桶に湯を張ってくれるというし、実に贅沢で快適である。
髪も洗ってさっぱりしたし、紫苑の帰りを待つ間に眠ってしまいそうだ。
「姫様、横になるなら褥の上になさいませ。風邪を引いてしまいますよ」
「うん……」
命婦に言われて、綾女は褥の中で紫苑を待つことにした。
本格的に眠ってしまわないように灯りだけは灯しておいてもらう。
風呂殿でしっかり蒸されて来た綾女の体はぽかぽかしていて、褥に潜り込んでいたら自然と瞼が重くなってきた。
命婦が帳を降ろして、静かに部屋から下がる。
ただ牛車に揺られて運ばれただけだと思っていたが、引っ越しで疲れていたのだろうか。
眠らずに待っていようと決めたのに、睡魔が忍び寄って来て、もう目を開けるのも億劫だ。
灯台の明かりが消えたのか、それとも誰かが消したのか。
綾女が夢の世界に落ちた時には、部屋の灯りは消えていた。
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