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私に初めて告白してきた人  作者: 知香


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12/21

12.対象外と兄妹

◇◇◇



福島の部屋に居候させてもらうようになって一週間程が経った。


「これ、昨日バイト先に山形さん達が来て渡してくれた」


揃って朝食を取っていると福島が私に差し出したのは講義ノートのコピーだった。


昨夜は福島がバイトから帰ってくるのが遅く、私は先に寝てしまっていたので渡すのが今朝になったのだろう。


「ありがとう」


パラパラとクリップで留められたノートのコピーをめくると、書写の先生の様な綺麗な字でまとめてあった。山ちゃんの字だなと思った。


「来週の試験期間は行けそうか?」


「うん。痣も薄くなってきたしね」


大学は後期の授業も終わりの時期で、試験や課題提出が目白押しだ。この大事な時期に講義を休んでしまったのはかなり痛いが、友人達が福島を通じて試験範囲や課題内容を教えてくれている。


「単位取れるといいな」


「取れなくても仕方ない。取れなかったら来年また授業を受けるよ」


親に報告をしていないのもあり、大学は休学していない。冬休み前までは真面目に授業に出ていたのだから出席日数はどうにかなりそうだし、こうして友人の助けもあり試験を受けることも出来そうなので、単位を取れる可能性は高い。全滅は無いだろう。数個単位を落とすくらいなら来年また受ければ卒業には問題ないと思う。


ただ、試験を受けに大学に行くということは友人達に会うということだ。


殆どの友人には体調不良で大学を休んでいることになっている。山ちゃん達親しい友人は、はっきりと伝えてはいないもののある程度悟られている。なのでこうして福島を経由して講義ノートのコピーや課題等を渡して貰っている。


私は未だにスマホが無い。連絡手段が無いのだ。


試験を受けに行くのだから、心配を掛けていることもあり私からちゃんと説明をすべきだろう。


正直言いたくはない。


でも以前程の頑なに言わないという気持ちは無くなった。それも福島との暮らしのお陰かもしれない。


先輩のことが好きだったからこそ先輩に怪我をさせられたとは言いたくなかった。友人に言えば「別れた方が良い」とか「警察に相談した方が良い」とか言われてしまう気がして怖かった。そして同棲しているのを解消するとなれば、引っ越ししなければならない。つまり、親にも伝えなくてはならなくなる。私が勝手に新しい部屋を契約するのは無理だ。学生の私は安定した収入が無いので保護者名で契約しなければならないし、保証人も親以外頼める人が居ない。そして心配した親によって確実に地元に呼び戻されるだろう。大学は休学か中退しなければならなくなる。


考えれば考える程マイナスなことしか思い付かない。けれどもうこうなってしまっては言わないでいるのは無理だ。


とりあえず親しい友人には伝えるのが良いだろう。


何も言わない私を見限ることもなく、福島を媒介して心配してくれ、気遣って、助けてくれている。何も変わること無く友人でいようとしてくれている。態々福島のバイト先まで赴いてくれているのだ。何て優しく温かい人達なのだろう。



チラッと向かいに座って朝食を食べている福島を見やる。


こうやって一緒に食事をするのも、最早日常になった。「うまい」とか「ありがとう」とか「ご馳走さま」とか、毎回ちゃんと言ってくれる。本当に福島は良いヤツだなと思う。居候させてもらっているのは私なのだから、私の方が感謝をしなければならない。その感謝のしるしとして私に出来る家事をしているだけなのに、とても喜んでくれるしお礼を言われてしまう。


先輩と同棲を始めたばかりの頃のウキウキとした楽しさとは違うけれど、とても居心地の良い暮らしをさせて貰っている。大学に行く以外の当たり前の日常をゆったりと過ごしながら、気持ちの整理をし、前向きな気持ちになれた。あまりにも居心地の良い暮らしに、福島に甘えて期限を考えずに居候させてもらい、気が付けば一週間。


「いつまでも居てごめん」と言えば、「今はそんなこと考えなくて良い」とか、「とりあえず単位取れるように頑張れ」とか言ってくれる。あと、「ご飯が美味しいし、家事をしてくれるから助かってる」とまた感謝されてしまうのだ。


けれど、いつかはこの部屋から出なければ。一人暮らし用のアパートに、家主に許可もなく同居していては注意されてしまうかもしれない。福島も今は彼女が居ないようだけど、出来たら私は完全に邪魔だ。


スマホの件もある。先輩の手にある私のスマホを解約して新しい契約をしたい。その為には親に説明しなければならないだろう。


(春休みになったらちゃんと向き合わなきゃ、な)




◆◆◆



宮崎との会話のテンポが以前に戻った気がする。どこか意識が飛んで行ってしまい上の空な状態が少なくなった。頭の回転が戻り速くなったので、以前と変わらない様な会話が出来るようになった。


試験を受け課題を出し単位を取るという目標が出来たので勉強をするようになり、思考を放棄してただぼーっとしているだけの時間が減ったからかもしれない。




夜、レポートの作成がありいつもなら「おやすみ」と言って部屋を出て行くのだが、宮崎も勉強をすると言って同じ部屋で過ごしていた。

俺はデスクでパソコンを使いレポートを作成し、宮崎はいつもご飯を食べているテーブルで試験勉強をしていた。


俺は宮崎に背を向けているので監督でもされているような気分になり、初めは変な緊張からか意識が散漫になってしまっていたが、怠けられないからか不思議と集中力が上がり結果とてもレポート作成が捗った。深夜、眠たい中の作業はなかなか進まないものなのに、有難いことだ。


書くだけ書いてあとは明日頭が冴えている時に読み返して修正すれば良いかと思い、一先ず伸びをする。うーんと手を伸ばせば凝り固まった肩や背中も伸びて気持ちが良い。そして一気に眠気が襲ってくる。


「宮崎、俺もう寝る……」


話し掛けながら振り返ると、宮崎はテーブルの上に突っ伏して寝ていた。


疲れていたのだろう。完全に体力が戻ってはいない中こうして遅くまで勉強しているのだ。それに昼間はかなり家事をやって貰っている。


無理して義務のように家事をしなくて良いと伝えても、宮崎はやりたがった。施されるだけと言うのが嫌なのだろう。


この奇妙な同居も一週間が経った。俺が半ば強制的に連れてきてしまったところはあるが、これが日常の様になってきている。いろいろと助かっているし、「おはよう」や「おかえり」と言ってもらえるのが嬉しく、日々が充実している様に感じている。


しかし、たまにこうして宮崎の油断している姿を見ると、胸がざわざわとする。


(対象外なんだろうな……)


安心して心を許してくれているのは嬉しいとは思うが、襲われること等考えてもいないのだろうと分かってしまうのが辛い。俺は友人であり恋愛対象外だとはっきり態度で示されている。


衝動のままに抱き締め押し倒したら、宮崎に逃げ場が無くなる。そうしたら心が本当に壊れてしまうかもしれない。壊れた彼女を囲い込んで閉じ込めるのか?そんなの、宮崎の彼氏と一緒では無いか。


宮崎との同居は居心地が良い反面、理性を保つのがきつい。

このままの生活を続け宮崎を独占したいと言う気持ちがありながらも、俺が理性を失ってしまうのが怖く出ていって欲しい気持ちもある。



眠るのならちゃんと布団で寝なければ体が疲れてしまうし、今の時期は特に寒いので、宮崎を起こすしかない。


「宮崎、起きろ」


宮崎の肩を揺すってみる。体に触れるのは若干の抵抗はあるが仕方がない。


「ん……」


「ここで寝るな。布団で寝ろって」


ボケボケの顔で部屋の照明を眩しそうに眉間に皺を寄せている。


「ごめん……」


「俺ももう寝るから」


「うん……」


ふらつきながら立ち上がってベッドに行こうとして転びそうになるのを腕を回して支える。偶然とはいえ抱き締めるような形になってしまい、ドキッとする。


「おいっ……しっかり」


誤魔化すように声を掛けるが、ふらふらしているのでベッドまで支えて歩いた。これは介助だと自分に言い聞かせながら。誤魔化しているのは宮崎に対してなのか、自分の心に対してなのか。


ベッドまで連れていき、布団に潜らせ掛け布団を掛けてやる。何の心配もなく目を閉じ眠りにつこうとする顔は、俺の男としての衝動や欲望を気にも止めていない証だろう。


吸い寄せられるように軽く額を撫でた。嬉しそうな顔も嫌そうな様子も無い。


これ以上はキスでもしてしまいそうだったので、直ぐに背を向けた。


「電気、消すぞ」


「うん……」


返答があり、まだ起きていたのかと思った。額に触れたことに気がついただろうか。


パチッと照明を消して俺は部屋を出た。


レポートの作成が終わって眠気を感じていた筈なのに、すっかり目が冴えてしまった。


ガシガシと髪を強く掻いた。


触れるべきでは無かったのに、触れてしまった。今になって手が震える。


白い肌をし、人形の様に眠る姿が頭から離れない。化粧をしていないスッピンの顔はもう見慣れたけれど、寝顔は心をざわつかせる。可愛いと思うし、ゆっくり休んで欲しいとも思うのに、奪いたいと思ってしまう。


暫く体の奥の熱が冷めそうもない。




◇◇◇



「試験の全日程が終わったらバイトを再開しようと思う」


試験週間が始まった。大学へもちゃんと行って試験を受けて、課題の提出もしている。


山ちゃん達にも話した。詳しくは試験が終わってからちゃんと話すと約束をして、先輩から暴力を受けたこと、その痣で外出出来なくなったこと、先輩にスマホを取り上げられてしまったこと、そして今は福島の家に居候していること。今後どうするかをまだ決められていないことも。殆どは既に察していたことだろうけど、静かに私の話を聞いてくれた。そして、力になれることがあれば何でも言って欲しいとも言ってくれた。


「福島くんとは……付き合ってはないの?」


当然の疑問ではあろう。年頃の男女が狭い部屋で一緒に住んでいるのだ。プライベートな部屋があるルームシェアとは違う。


「まさか!居候させて貰っているだけ」


私を妹のように優しく当たり前に接して生活してくれている。友人として私を助けてくれ、そのまま私が福島に甘えている。

これまで一度も男女の雰囲気になったことも無いし。私に女としての魅力が無いだけのような気もするけれど。

福島はモテる。きっと目が肥えているだろう。もっと美人だったり、可愛かったり、ナイスバディだったりしなければ、異性として見られない気がする。


友人達は「ふーん……」と何か飲み込んだような反応ではあったが、それ以上追及されることは無かった。



そして少しずつ日常へ復帰している中、今度はバイトにも復帰したくて、朝ごはんを食べながら福島に報告をした。


「大丈夫か?」


「ちょっと不安はあるけれど、自由に使えるお金があまり無いし。それにずっと休んでいたらバイト先にも迷惑を掛けてしまうから」


福島が出掛けている間、ちょこちょこ買い物に出掛けたりもしていたので、お金を使ってしまった。福島と出掛ければお金を出してくれるけれど、何から何までと言う訳にはいかない。これから本格的に大学に行くのなら、友人付き合いもあるしお金が必要になるだろう。

親に仕送りをお願いするのにも理由を聞かれるだろうし。まだ親に報告する決心はついていない。

自分でどうにか解決出来るのならそうしたいのだ。


「……無理はするなよ」


「うん。ありがとう。またで悪いけど、バイト先に連絡するから後でスマホを貸して貰って良い?」


「ああ」


本当にお兄ちゃんみたいだなぁと思ってしまう。私が末っ子だからそんな風に思ってしまうのだろうか。


朝食が終わってバイト先の営業時間を待ち、電話を掛けた。試験最終日以降バイトのシフトに入りたいと伝えると、快く受け入れてくれた。試験最終日に先ずは短時間からどうかと提案をしてもらい、有り難く了承した。温かく親切なバイト先で本当に感謝だ。


その話を福島に伝えると、「俺はその日バイトが休みだから帰りに迎えに行く」なんて言い出して、ますます心配性のお兄ちゃんみたいだなぁと思ってしまった。短時間だからいつもより早く上がらせてもらうから、六時には終わる。夜遅く危ない時間でも無いのだから、そんなに心配しなくても良いのにと思うけれど、まぁいっかと受け入れ、試験が終わる日だから打ち上げで何処かに食べに行こうと約束をした。


きっと福島は、バイトで疲れているだろうから食事の支度をしなくても良い様にそう提案をしてくれたのだろう。


やっぱり福島は良いヤツだ。





試験が無事に終わった。結構書けたと思うので一先ずホッとした。課題も全て提出したし、単位はどうにかなりそうだ。


そして久し振りのバイトに来ていた。痣は目立たなくなり化粧で隠したのでお店の方に気付かれた様子も無く、これなら接客も問題ないだろう。


実際お客さんの相手をして会話をしても違和感を持たれた様子も無かった。


(良かった。これなら春休みに問題なくバイトに出られそう)


お店の方の配慮により、病み上がりだしお客さんが来ない時は座りながら事務作業をさせてもらったが、殆どの時間は立ちっぱなしなので二時間もするとかなり疲労を感じた。こんなにも体力が落ちていたのだろうかと思う。


「宮崎さん、大丈夫?」


女性社員の方に心配されてしまった。


「はい。あと一時間程ですし、頑張れそうです。お気遣いありがとうございます」


精一杯の笑顔を返した。

確かに疲れてはいるけれど、試験も無事に終わってバイトにも復帰出来て、こうして今までの日常が戻ってきたことへの安堵感や充足感で若干ハイになっている。楽しくて仕方がない。


しかしここのバイトだけでは然程稼げない。春休みだけでも他のバイトを増やそうか。短期か派遣か。それとも時給が良く短時間で継続して出来る家庭教師とか。求人情報を見てみようかな、なんて考えながら依頼されていたポップを作っていると、お客さんが入店してきた。


「いらっしゃいませ──」


立ち上がって店の入り口に視線を向けて、その客の姿を見て心臓が大きく早く動き出したのが分かった。


「宮。やっと見つけたよ」


立ち上がったまま動けなくなった。そこには先輩が立っていた。動けなくなった私にゆっくりと近づいてくる。手足が震え出し、ふらつくように一歩だけ後退った。


何も考えられないでいる内に、もう目の前に先輩が立っていた。


恐怖で声も出なかった。




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