49 自然に乗って行く③
「えっと……本当にその作戦で行くの?」
「大丈夫……アキラならいける」
パトリシアちゃんはそう言ってくる。
今はみんなパトリシアちゃんの近くに集まり作戦を決めていた。
「大丈夫だよっ……アキラくんなら出来るよっ!」
ミケが寄り添いながらそう言ってきた。
あんな大きなの俺だけで抑えられるのか……? この作戦は大丈夫なのかな?
作戦はシエナちゃんが先程のように弓で弱点を狙った後、俺とパトリシアちゃんで突っ込んで行く。ただそれだけだった。ミケとアリスちゃんは後ろで支援してくれるので安心だったが、前衛を任された上に、大きなセルバの注意を引く係に抜擢されてしまった。
あんなデカい鹿さんの相手とかちょっと……てかもう鹿ってレベルじゃないんじゃない? ほんとに大丈夫なの? うぅ……おじさん前衛じゃなくて魔法少女とか後衛が良かったよぉ!
不安と不満を感じつつも、シエナちゃんが弓を構えている。もう覚悟を決めるしかないようだ。
「そろそろ……いいですか?」
真剣な表情でシエナちゃんが顔をこちらに向ける。それに答えるようにみんなは頷く。
「……いきますっ!」
シエナちゃんの構える弓矢が光飛んでいく。
音もなく飛んでいった矢は大きなセルバの目に命中したようだ。不意に矢を受けた大きなセルバは怒号の叫び声をあげながら、こちらを睨んでくる。それを合図にパトリシアちゃんと共に飛び出していった。
うおぉぉ……こええなぁ。てか……パトリシアちゃん速いな。あ、ちょっとヒモパン見えてる。
同時に飛び出したかのように思ったが、どうやらパトリシアちゃんの方が早く出たようだ。前を行くパトリシアちゃんの可愛らしいスカートからチラチラ見える生足とヒモパンに、目がいきつつも目の前のセルバに集中した。
「アキラっ! 頼んだぞぉ!」
「……えっ?」
パトリシアちゃんが叫んだ瞬間、目の前からパトリシアちゃんが消え去る。
少し上を見上げると、パトリシアちゃんは槍を使い棒高跳びのように勢いよく飛んでいった。
パトリシアちゃんすげぇな……あんな身軽だったんだね。そして、モロに中身が見えてますね。可愛らしいヒップが太陽と重なり神秘的だとおじさんは思います。
パトリシアちゃんが飛んでいくまで、可愛らしいヒップに目を奪われていると、前方に大きな物体が近づいていた。
「ちょっ……とぉっ!」
甲高い音共に地面を削る音が聞こえる。
すれすれのところで盾で受ける事が出来た。目の前には毛むくじゃらの血走った眼で、こちらを睨むセルバが居た。
ちょっと……超怖いんですけど? なによこれ? 本当に鹿なの!? 軽トラくらいあるんじゃねぇの!? でも……よくこんな巨体を止められたな……。
気が付けば後方に2メートルほど下げっていた。
目の前に居るセルバは力強くこちらに圧をかけてきている。それに対抗するように盾で押し返していた。
すげぇ重いけど……なんとか抑えられてるな。前の自分じゃ物理的に不可能だったろうに……マナってすげぇんだな……。
今の華奢の体で、この巨体を抑えられるのは、この世界にある魔法やマナの懸念のおかげだなと感謝していると、目の前のセルバが悶えながら叫んでいた。
「アキラはやっぱりすごいね!」
パトリシアちゃんの声のする方へ顔を向けた。
パトリシアちゃんはセルバの背中に乗り、槍を突き立てている姿がそこにあった。セルバは背中に乗ったパトリシアちゃんを振り払おうとしながら、パトリシアちゃんの方へ振り返る。
「おっと……アキラ足狙って!」
振り返ると同時にパトリシアちゃんは槍を引き抜き背中の上から飛び上がって地面に着地していた。
パトリシアちゃん綺麗に体ひねりながらジャンプしてたなぁ……それに、またスカートがめくれて……。おっと、いかんいかん……おじさんもしっかりやらないとっ!
パトリシアちゃんに目が奪われそうになりながらも、こちらに後ろを見せたセルバの足に剣を振りかぶる。
「俺もやくにって……うぉっ! あぶねっ!」
セルバは足に斬撃を受けると同時に、後ろ足でこちらを蹴りあげてきた。ギリギリのところで盾で受けることが出来たが、少し距離が離れてしまった。
危なかったな……もうちょっとで脇腹もってかれてたわ。でも、野生動物ってすげぇな……瞬時に反撃してくるなんてな。多少はダメージは入ったのかな? 切った感触が生生しくてちょっとやだな。
斬撃の感触が手に残りつつセルバの方を見る。
セルバは反撃した後に、こちらから距離を置くように移動していた。
「アキラありがと! 後は私が!」
パトリシアちゃんが叫ぶと同時に走り出していく。セルバは瞬時にパトリシアちゃんの方へ向き、全身の筋肉に力を入れながら突進していった。
一瞬の出来事だった。
セルバとパトリシアちゃんが交差したと思ったら、地面に頭から落ち行くセルバ。パトリシアちゃんは綺麗に地面の上を滑っていく。
「さすがパトリシアちゃん!!」
シエナちゃんが歓喜している。その横でミケとアリスちゃんもキャッキャとはしゃいでいる。
その声援に答えるようにパトリシアちゃんは、こちらに親指を立てて笑顔で答えてくれた。
「よくまぁこんなでかいのを……」
俺は、こと切れているセルバを近くで見つめながら呟いていた。
「結構大きい方だと思うぞぉ。久しぶりに良い運動になったな!」
いい仕事をしたと言わんばかりに、パトリシアちゃんは笑顔で話す。
パトリシアちゃんはすげぇな、いくら後ろ足にダメージ与えていたとはいえなぁ……心臓一刺しってなぁ……。
横たわるセルバの脇腹には、パトリシアちゃんの槍が綺麗に刺さっていた。
パトリシアちゃんはセルバを避けながら槍を刺して、そのまま離脱していったようだ。
俺が関心しながらセルバを眺めていると、パトリシアちゃんは徐に槍を抜き取り、下処理の準備を始める。
「周りのセルバも逃げちゃったし、ささっと処理して今日はやすもっか」
パトリシアちゃんの言う通り気が付けば、他のセルバ達の姿は消えている。
取り過ぎは良くないしね! そう言いながら空間収納魔法から道具を探していた。
大きなセルバを見つめながら俺は、もしかして他のセルバを守る為に最後まで逃げずに戦っていたのかと考えていた。
動物だしなぁ……どうなんだろ? あ、でも魔物なんだっけ? ちょっと違うのかな?
ちょっとした疑問だったが、今はみんなの手伝いを優先することにする。
「静かにっ!!」
作業を始めようとすると、シエナちゃんが叫ぶ。
みんな動きを止めシエナちゃんに注目していた。
「何か近くに……」
シエナちゃんがそう言うと同時に、近くの茂みがガサゴソと音を立て始める。
みんながその茂みに注目し、緊迫した空気になっていく。
なんだなんだ……? 血の匂いに誘われてまた違う奴が来たのか? ん? 茂みから黒いフサフサなのがちらほら見えてるような?
その茂みの近くに一番近かった俺からは、何かフサフサな物体が見え隠れしていた。
「くまぁ~!」
「うぉぉ!? なんだこいつ!」
変な鳴き声を上げながら、黒いフサフサの物体がこちらに突っ込んできた。
「わぁ! かわいい!」
アリスちゃんが俺に抱き着く黒い物体に駆け寄ってくる。
「え? なにこれ? クマ? 子グマ?」
抱き着いてきた物体は、大きなヌイグルミのサイズで、見た目もヌイグルミの様な子熊だった。
「くま?」
いや……熊が鳴き声クマってちょっとさぁ……安直じゃない? ねぇ? 神様ちょっと安直じゃない?
そしてこいつ、なんなのよ……。
フサフサでフワフワな子熊の感触を感じながら途方に暮れていた。




