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「えー、というわけで。第五百六十七回みちしるべ裏庭頂上決戦を始めたいと思う」
わー、ぱちぱちー。
愉快に拍手をしたのは俺と一人だけだった。
他の三人、おもにメイメイとシャノは殺伐とした空気を醸している。
さて、俺、シャノ、メイメイ、ルイルイの四人は雑貨屋『みちしるべ』の裏庭に来ていた。そこはギルドメンバーの鍛錬場とかスキル試射場とか喧嘩場とか食材採取場になってるため、わりと広い面積をとってある。というわけで、俺はその対戦模様をギルドチャットに書き込んだ。
*・*・*・*・*
ビブリオ『うーん。そのレベル差だと、いくら2対1だからと言ってもメイちゃんとルイちゃんにちょっと分が悪いような気がするよねー』
トーノ『だよな。普通にやったら誰がどう見ても負けるよな』
ビブリオ『ふふふ』
トーノ『ふふふ』
ミュー『あの、その。楽しそうなところ横槍をすみません。でも、けんかは、よくないと思います。メイメイさんとルイルイさんはまだ中学生の女の子です。自分の心を律する術、つまりキレない術も学ばなければならない大切な時期です。それに相手の女の子ですが、トーノくんのお話から考えると、手加減をしてくれそうにないと思います。もしその女の子が二人をこてんぱんにしてしまったら、二人が心に深い傷を負うかもしれません。その前に、ここはトーノくんが仲裁して止めてあげたほうが良いのではないでしょうか。』
トーノ『あー、いや、すみません。そうですよね。やっぱり今からでも止めてきます』
ビブリオ『いやいやいやいや。ちょっと待って。ミューさんもトーノも鈍感だなー。ここでトーノが止めに入ったらそれこそ話がややこしくなるよ』
トーノ『?』
ミュー『?』
ミュー『すみません。いまビブリオさんからダイレクトメッセージで教えていただきました。なるほど、そういうことでしたら、メイメイさんとルイルイさん、がんばです。わたしも陰ながら応援していますとお伝えください。あと、トーノくんのすけこまし。』
トーノ『え? あ、はい。わかりました。伝えておきます。え? すけこまし?』
ミュー『休戦時間がもうすぐ終わるので、これにて失礼しますね。のし。』
トーノ『ミューさんお仕事おつかれさまですノシ』
ビブリオ『ノシ』
トーノ『おいビブリオくん。なんでミューさんだけにDMなの。ちょっと。どういうことなのさ。俺にも教えてよ』
ビブリオ『トーノ、きみはちょっと自分の胸に手を当てて、よーく考えたほうがいいよ。いくらぼくがきみの親友でも、ぼくが言えるのはここまでだねー』
トーノ『???』
ビブリオ『ふふふ(微笑)』
ビブリオ『あっ、あとで結果はどうなったかおしえてね? 読みたいと思ってた魔導本がちょうど襲ってきた』
トーノ『了解。気をつけてなノシ』
ビブリオ『あんがとノシ』
*・*・*・*・*
ため息を吐いて、ギルチャを終了する。
そして親友のアドバイスの通りに自分の胸に手を当ててみるが、だめだ。何もわからん。
とりあえず、俺は二人で真剣に作戦会議してるメイメイとルイルイを遠目に見ながら、一方こっちはやる気満々で腕組みして仁王立ちしているシャノのもとへ、こっそり横歩きで近づいていった。
「うわ、その動きキモ。何しに来たのよ」
俺から半歩引いてシャノは猫を払うようにしっしと手を振る。
彼女はもう、魔法スキルで編まれた漆黒の鎧姿になってハルバードを肩に担いでいた。




