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「後片付け、ありがとう。ママ」
「ァ? だれがママじゃ」
「あはは」
「ざけんな。死ねよ、ぼけなす。――――あっ。ルイねぇさんっ」
ふとルイルイのお皿に残ったプチトマトを発見してメイメイは叫んだ。
それに応えて、まるで名前を呼ばれて駆けてくる子犬のように、ぱたぱたと戻ってくるルイルイ。しかし、メイメイの持っているプチトマトを見た途端、嫌そうな顔をして、ぷいと顔を横に向ける。
「ルイねぇさん、お残しはだーめ。ちゃんと好き嫌いなく、トマトも食べないと良い大人になれないんだよ? それに、こっちでまず食べられるようにならないと、リアルではもっと食べられないんだからね。お願い。ルイねぇさん、食べて? ほら、あーん」
渋々あーんしたルイルイの口に、メイメイがプチトマトを入れた。しかし、ルイルイはそれをくわえるだけで飲み込もうとしない。激しい葛藤がルイルイの中で繰り広げられているようだった。妹のお願いを聞くのか。それとも我が道を行くのか。それを固唾をのんで見守りながら、メイメイは自分の姉を応援する。
「ルイねぇ、がんばってっ。ほら、あともう少しっ。――――って、あれ? どこに行くの?」
座ってインベントリを開いてビブリオくんとギルチャしていた俺の方へ、ルイルイが逃げるように近づいてきた。
「どしたの、ルイ……んむっ!?」
どんがらがっしゃん。メイメイが手に持っていた食器を床に落とす。もしくは、俺のガラスの心臓が砕けた音なのかもしれない。
「む、むむーっ」
なんと俺の初チューはトマト味だった。じゃなくって。
俺はルイルイに口移しでプチトマトを食べられさせていた。そりゃあもう、フレンチキスなんてお子様なやつではなく、ルイルイの舌がプチトマトをぐいぐい押しながら俺の口腔内に侵入してくるという、とってもディープなやつである。
う、うわーっ。この子、どこでそんなテクをーっ。
舌が、舌がー。
俺とルイルイの舌と舌が、絡ま――――。
「ぷはっ」
唾液が尾を引く。俺とルイルイの唇は、ようやく離れた。
こうして危うく失いかけていた俺の舌の貞操は、ルイルイを引き離したメイメイによって救われたのだった。
ダイニングに沈黙が漂う。
ルイルイがこくんと喉を鳴らせて何かを飲み込んだ。おそらく唾液だと思われるが、それには少なくとも俺のも含まれていると思われる。そうなってくると、彼女の体内に俺の一部が入ってしまったわけで。なんだかちょっとムラムラする。
そんな圧倒的童貞発想に蓋をして、俺もそそくさとルイルイの置き土産であるプチトマトを咀嚼して飲み込んだ。うーん、なんだろう。ドレッシングなんてかけてないのに、トマトの味以外にほんのりとした甘味が。なんだかちょっとムラムラした。
ありがとう、ルイルイ。
童貞が最後に良い夢を見ることができたよ。
ふう。ここで一つ、ため息を吐く。
さて、殴られるか。
「オイ」
ぐえー。
絶対零度よりも低いという物理現象を超越した声音でもってして、メイメイが俺の胸倉を掴んできた。メイメイはいつにもまして怒ってるみたく、彼女の顔はとても怖い。地獄の閻魔大王が仏にみえるレベル。
「覚悟ハ、イイナ?」
さー。
いぇっさー。
このあと滅茶苦茶ダメコンした。




