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「あんたねえ。今のは引き留めるとこでしょ、フツー」
「はあ? なんで。あんたから別れようって言ってきたんだろ」
「女の子は引き留めてほしいものなの。あたしに言わせないでよ、甲斐性なし。それだから童貞なのよ。だいたい助けてくれたんなら最後まで責任とって」
「ははあん。あんたが俺に助けられたと思ってるんならそれは違う。俺は別にあんたを助けたくて助けたんじゃない。ただ結果的にそうなっただけだ。成り行きで。あーやだやだ。人が良いのも考えものだなー」
手をひらひらさせると、ハーフヴァンプ少女は鼻を鳴らした。
「四の五の言わないの。成り行きでも男なら責任をとるのが当たり前でしょ」
「そいうもんかな」
「そういうものよ」
「ふうん。まあ、よく考えてみれば一理あるかもね」
世の中、理不尽なことに男女間のトラブルで責任をとるのは男の方なのだ。いつだって。
「でしょう? わかったらさっきのやり直しね。あたしが別れようと言ったところを、あんたがあたしの足に泣いて縋り付いて引き留めるところからよ。さん、はい」
「イカナイデーッ! イカナイデーッ!」
「うーん。思ってたのと違ったわ。一言でいうならそうね。キモい」
俺の迫真の演技を冷めた口調でハーフヴァンプ少女はそう評しやがった。
「っていうか、誰の許可を得てあたしのすべすべな生足に触ってるのよ。いっぱい踏んだげるから今すぐ顔を地面にこすりつけなさい。ほら早く」
「愉快な提案だがそれは聞けないね。こちとら、あんたがやれと言ったから仕方なく義理でやってやったんだぞ」
「あたしの期待に応えられないならそれはやったとは言わないのよ。むしろマイナス。あんたって男としての魅力なさすぎ。あたしと全然釣り合いとれてない。格好悪いし。甲斐性もないし。キモいし。なんであたし、……はあ」
はあ、とため息をつきたいのはこっちである。
確かに男は責任をとらなきゃならない。
けれどもそれには限度というものがある。
いくら温厚な俺でも、いくら相手が美少女でも。
これだけボロクソに言われちゃうと腹が立つのは自然の摂理じゃないだろうか。




