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「って、おい待て。肉が一切れも入ってないんですが」
「そんなのとっくにあたしが食べちゃったわよ」
さいですか。
「うーん、さっすがあたし。おいしぃー」
俺が火を起こして自炊してる間、ずっと膝を抱えてこっちを見ていただけのやつがよく言うぜ。
……それにしても、本当に美味そうに食うね。
ムフフーと鼻歌交じりで馬鹿みたいにご飯にありついている彼女を見て、むかし飼っていた犬のポチを思い出した。
「あんたも黙ってないで美味しいって言いなさいよ」
「…………はあ」
「なによ」
「飯をおごってる俺も呑気だが、あんたも呑気だよな。他人が作ったものを平気で食うなんて。毒でも入ってるのかと疑わないか、フツー」
空っぽになった木椀を落として口を押えたハーフヴァンプ少女が俺を睨んでくる。
「ま、まさか眠り薬を入れて眠ったあたしにえっちなことを」
「しねーよ」
あんたえっちなこと好きだな、おい。
「うそっ! だってこんな美少女、下心なしで男が助けるわけないじゃないっ!」
「まあな。もしあんたが美しくないおっさんとかだったら無視してたかもな。その点、ぶっちゃけた話、あんたの顔と胸の大きさとぷに腹だけは俺のドストライクだったしね」
「うわキモ。やっぱり男はみんなケダモノなのよ。幻滅したわ。あとあたしぷに腹じゃないもん。訂正して。訂正しろ。ぶっころすぞ」
「あーはいはい。幻滅で結構。ブッコロ上等。もう会うこともねえ人間の好感度ゲージを破壊したところで痛くも痒くもないね」
「ふん。なによ。……童貞のくせに」
唇を尖らせてそっぽを向いたハーフヴァンプ少女に俺は肩をすくめて手元のお皿に入った野菜汁を飲み干した。




