50
それからしばらくの間、スープを啜る音が続く。
月はすでに真上にきている。今日はここで野宿したほうが手っ取り早いだろう。
というか、すでに自称美少女の美少女はお腹を膨らませて幸せそうな顔して寝息を立てていた。はえーよ。さっき横になって五秒とたたないうちに【睡眠】状態かよ。
「ぅあ……」
頬をつねっても少し眉をしかめただけで起きそうにない。やはり幸薄ステータスなせいで状態異常には破滅的に弱いようである。こうなってくると、焚火が消えないように薪をくべる役割は俺が負うしかない。インナーのスキルスロットに【地形順応】ランクAを付与している俺とは違い、彼女はあまりにも無防備だ。もし焚火が消えてしまえば、眠ってる間に凍死することは明白だった。
「なんだかなぁ」
切り出した木の枝を弱くなってきていた炎に投げ入れる。
パチパチと音をたてて、紅蓮が元気を取り戻す。
星の瞬きを見上げると、ちょうど【流星虫】の群体が天の川を創り出していた。
*
翌朝のことである。
つまり今週期の最終日である三十日目の朝。
「あたしが寝てる間、ヘンなことしてないでしょうね」
寝起きの開口一番それかよ。
飛び跳ねた寝ぐせを手で押さえながら彼女は半眼で俺を睨んだのである。
何も言わずエルフの携帯食料である【レムバス】をかじる俺に彼女は頬を膨らませる。
【レムバス】は薄焼きのクッキーみたいな食感で、一つ食べれば一日は空腹状態にならないうえに、わりと美味い。徹夜明けの脳みそにも十二分に活力を与えてくれるから重宝するぜ。
そこで、モソモソと咀嚼する俺をじっと見つめているハーフヴァンプ少女に気づいた。
「なに。惚れた?」
「ばかっ! あたしが言いたいのは、それのことよ」
ハーフヴァンプ少女は未だにちょろちょろパチパチと燃えている焚火を指差す。彼女はそれから視線を朝霜で凍り付いた周囲の景色に向けた。
「なんでまだ燃えてるのよ」
「そりゃあんた、俺がせっせと薪をぶっこんでたからな」
深夜に薪が切れて調達しにいって帰ってきたら危うく消えそうになってはいたが、おおよそ一晩中メラメラと凍結防止の結界を造ってたことは間違いない。目の前の少女が凍死体になってないことがその証拠である。
「なんでそんなことしたのよ」
「いやだって、愚問だろ。あんたが防寒スキル持ってないから悪いんじゃないか」
俺は悪くないもん。
「そういうこと言ってるんじゃないのっ。だから、どうして。ああもうっ、もういいわよっ」
「はあ? あんた、つくづく変な女だなー」
腕組みして胡坐をかくハーフヴァンプ少女に【レムバス】を差し出すが、彼女はしばらく考えて自分のお腹あたりを触った後、『いらない』と目をそらした。
なんだよ。美味しいのにさ。




