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「あのねー、だいたいねー。ショーコショーコ、名探偵に指名された犯人のようにあんた言うけどさ。今ここで俺が自分のこと童貞だって暴露してもそれは証拠にしてくれないんだろう?」
「当たり前でしょっ! そんなの証拠になんてならないわっ! いくらでも言えるじゃないっ! ぬぁにがどーてーよっ! あたしだって処女だったのにぃっ!」
「へえ。処女か。そっか。同類さんかー。親近感わくわー」
「…………ぁっ!? ななっ、なななっ、あたしになに言わせんのよあんたはァーっ! ヘンタイヘンタイヘンタイッ!」
「いや、今の俺が悪いところ? あんたの自爆だろう。誰がどう見ても。たまやーっ。はっはっは。それに童貞に需要はねえが処女にはたくさん需要あるだろう? 恥ずかしがることじゃない。誇れよ。いいなあ。うらやましいなあ」
ちくせう。
「うっさいだまれっ! ずべこべ言うなぁっ! 首ちょんぱしてやるからそこにならえこのあほぉっ!」
親の仇でも見るような涙目でこっちを睨みながら迫ってくるハーフヴァンプ少女に、俺は肩をすくめて後退した。彼女と一定の距離を保つ。首ちょんぱは嫌だもの。誰だって。
しばらくグルグルと円を描くようにして鬼ごっこを行ううち、キレたのは鬼の方だった。
「にっげんぬぁごるぁっ!」
鬼が鬼のような形相で叫ぶ。俺は欠伸して頭を掻く。
「まあ、まあまあまあまあ。まあ、落ち着けよ。ゲス男ズ相手に『憐れ憐れ』と高笑いしてたドSクールなキャラが完全崩壊してるぞ、あんた」
ふしゅー、と荒い息を吐いて俺を威嚇するハーフヴァンプ少女。このままじゃ埒があかない。俺は両手万歳の降伏のジェスチャーをとった。
「おーけー。わかった。悪かったよ。何に謝ったらいいのかさっぱりだけど、謝ろう。ごめん。やっぱり俺が何を言っても無駄だった。いや、俺が何かを言ったら余計に状況がややこしくなることがわかった。だから、こうしよう。ほら、これが何かおわかりか?」
「…………そ、それはっ」
取り出したるは手枷のカギである。指で弾いて空中に回転したそれをまた手でキャッチして彼女に見せびらかす。




