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さて状況を軽く整理してみよう。
俺、ハーフヴァンプ少女に馬乗り。
プラス、ハーフヴァンプ少女、服が半壊。
イコール、これ、あかんやつや。
「ぁ、むぐっ……っ!? むっ、……むむーっ!」
何かを叫ぼうとする彼女に俺は先手を打った。
すなわち、右手で彼女の口を封鎖したのだ。
「むむむーっ!」
「待て。ちょっと待て。大人しくしろ。な? 悪いようには、悪いようにはしねえから。いや、おい、だから。お願い、だから。ちょっと。……大人しくしろっつってんだろうが」
ダガーナイフをハーフヴァンプ少女の首の皮に触れるか触れないかのところで地面にズンと突き刺す。もちろん声音は自分が出せる最低音域。これ、脅迫の基本な。
……………。
って、脅迫してどうすんだよ、俺は。
左手を額に当ててしくじりのポーズ。
……まあ?
ジタバタしていた彼女の動きが止まったから、まあ、いっか。
反抗心丸出しの鋭い睨めっ面の赤い瞳に涙が溜まってるが、それは恐怖心からきてるのか。それとも羞恥心からなのか。もし怖がらせてしまったなら申し訳ないことをした。
「わるい。わるかったよ。ごめん」
ため息を吐いて謝罪する俺に、ハーフヴァンプ少女のこわばりは数ミクロン程度和らぐ。
「おーけー。じっとしてろな? あんたが動いちゃうと、ただでさえあんたの小さい穴に入らなくなるだろ。俺の持ってるこの」
カギが――――。
という俺の台詞の続きが口から出ることはなかった。
いきなりハーフヴァンプ少女が口をふさいでいた俺の右手をガブリといきなり嚙みやがったからだ。




