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あとぜき!  作者: あまやま 想
2年目
22/26

あと二ヶ月…

主人公:大津武

 年が明けた。つくっちゃんと僕が一緒に過ごせるもの残すところ、後三ヶ月となった。年末年始には彼女は熊本に帰っていたが、一年前みたいに羽田空港まで見送りには行かなかったし、西の空ばかり見て過ごすこともなかった。僕は大宮の実家で平凡な正月を過ごした。

 方研では学園祭が終わってから、ずっと「新方言が若者に与える影響」と関連することを調べていた。また、「若者の共通語と方言に関する意識調査」を行い、共通語と方言の境界線が今までの結果と一致するかどうかを検討した。

 一月中旬になると、つくっちゃんは一月末の卒論提出締め切りに向けて、必死になって論文を書いていた。朝日が出る前から大学の研究室に行き、帰ってくるのは夜遅く日付が変わる頃になることが多かった。ときにはそのまま研究室に泊まる日もあった。

 一月末、正式に唐津ゼミへの所属が決まり、早速オリエンテーションが行われた。唐津ゼミには僕も含めて六名が入った。男性が二名と女性が四名であった。全員が集まると早速、オリエンテーションが始まった。

「ようこそ、唐津ゼミへ。私が指導教官の唐津です。よろしくお願いします」

 ここで学生は口々に「よろしくお願いします」と言っておじきをした。先生はそれを見てうれしそうにしていた。

「本ゼミでは言語地理学、方言学を中心に知識を深めていくことになります。その中で論文の書き方も三年次に平行して教えていきます。三年後期にはみんなで一つテーマを決めてもらって、簡単な発表をしてもらいます。四年次にはそれぞれが自分のテーマを決めて、卒論を製作していくことになります。これからの二年間の流れはこのようになりますが、何か質問のある人はいますか?」

 ここでは誰一人として手を上げなかった。その後、今の三年生が共同で取り組んだ研究の発表があった。これのおかげで僕はこのゼミの雰囲気を少しばかりつかむことができた。三年生がやった研究は「進む方言の統合・共通語化」であった。一見すると、最近の方言研究の流れに逆行しているように見えた。しかし、それぞれの方言が独自の進化をしている中でも、方言の統合・共通語化の流れが大きいことも事実であった。

 その日の夜は久々につくっちゃんと一緒に夕食を食べた。ここ一週間ほど、彼女はずっと研究室に引きこもりで追い込みをかけていたので、僕らがこうやって会うのは実に一週間ぶりだった。一応、毎日電話していたが、電話で話せる時間は限られている。だから、こうして久々にあったときに積もり積もった話をすることになる。

「武、今日やっと卒論が完成したんだよ。もう、研究室に引きこもりの日々は終わりだよ。後は二月一五日の卒論発表会だけ。これさえ乗り切れば、完全に卒論とおさらばできるけんね」

 つくっちゃんはとてもうれしそうに話していた。約一年間束縛されていたものから、解放される瞬間と言うのはとてもうれしいに違いない。その上、就職内定もしっかりと決めていればなおさらである。

「二月、三月はかなり暇になるはずだから、残りの二ヶ月は武とたくさん思い出が作れるといいなあ。あっ、そうだ。二人で旅行に行こうよ。私達、付き合ってから一年以上経つけど、今まで一度も二人だけで旅行に行ったことがないから、一度ぐらいは行きたいな…」

 そう言えば二人で旅行に行ったことはない。つくっちゃんの言う通り、二人が離れ離れになる前に一回ぐらい二人だけで旅行に行っておきたかった。

「うん、そうだね。ふたりで旅行に行きたいね。そう言えば、つくっちゃんはどこに旅行に行きたいの?」

「じゃあ、黒川温泉に行きたい。前から一度は行ってみたいと思っていたのよ。でも、地元にあるからなかなか行く機会がないけんね…」

 彼女の地元と言うことは熊本か…。生まれてからずっと埼玉に住んでいる僕にとって九州は未知の世界であった。

「その黒川温泉って熊本のどこにあるの?」

「阿蘇の南小国にあるのよ。九州ではとても有名な温泉街よ」

 彼女はそう言うが僕は別府の温泉街しか知らない。黒川温泉と言うのを生まれて初めて聞いた。多分、九州以外ではほとんど知られてないのだろう。

「僕は生まれてから一度も九州に行ったことはないから、ちょうどよかった。前から一度は行ってみたいと思っていたんだ」

「じゃあ、黒川温泉で決まりね」

 そうして、二人だけの卒業旅行はだいたい決まった。二人で過ごせるのも後二ヶ月…残された時間は確実に無くなりつつあった。

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