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あとぜき!  作者: あまやま 想
2年目
13/26

ケンカの後の仲直り

主人公:山畑つくし

 とうとう、大学四年生になってしまった。時が経つのは本当に早い。三年前に大学に入学した頃は四年生がとても大人に見えた。でも、実際に自分が四年生になるとそれほど大人じゃないことがわかる。

 一年生の頃、四年生が卒論やら就活やらですごく忙しそうにしていたのを、何がそんなに忙しいのだろうって感じで見ていた。今はその忙しさが痛いほどよくわかる。就活だけでもこんなに忙しいのに、これに卒論が加わったらどうなるのだろうか。一日も早く内定を決めて卒論に専念したいものである。

 今日は一〇日ぶりに東京に戻ってきた。この一〇日間、武とケンカしたまま就活のために熊本に帰ったことがとても気がかりだった。ケンカした翌日にはお互いに電話で仲直りしたけど、直接会うのはケンカ後初めてのことだった。今日は私が武の家に行くことになった。

 武の家に着いた。いつもなら何とも思わないけど、今日は初めて彼の家に行くときのように緊張した。ドキドキしながらベルを鳴らした。すると、彼がすぐに出てきた。それまで欠けていたパズルの最後の一ピースが埋まったときのあの気持ち。今の私には武はなくてはならない存在になっていた。それは彼も同じだったと思う。

「つくっちゃん、この前はごめんね。あの日から毎晩きちんと携帯の充電をしてるよ。それから、待ち合わせの場所できちんと待ち続けるからね。本当にごめんね…」

 あの日、ケンカの原因を作ったのは私なのに…。いくら、卒論の打ち合わせと言っても、約束の時間に遅れたのは私。本当だったら、家の近くのコンビニや武の家とか武が行きそうな場所に私が出向いて行くべきだった。そんなこともしないで、携帯がつながらないことを勝手に武が怒っているって決め付けて…。私は恥ずかしかった。その上、彼のけなげさに心が打たれた。

「何ば言うとると。悪いのは私じゃない。私こそ、本当にごめんなさい。時間に遅れたのに、携帯がつながらないからって一人で逆ギレして…何やっているんだろうね。忙しさのあまりに心のゆとりをなくしていたのかもしれない。本当にごめんね…ごめんね。武は何も悪くないからね」

 そう言いながら私は彼の背中に手を回した。私よりも一回り小さい背丈に、頼りないなで肩、その上何をやらせても不器用。でも、誰よりも一生懸命で一途、そして素直な心で私の欠点を含めて全てを愛してくれる人。それだけで私はとても幸せ…。だから、私だって彼の欠点も含めて全てを愛してあげたい。

「苦しいよ…つくっちゃん」

 その一言がまた心を甘く酔わす。彼が愛しくてたまらない。彼の頭をなでなでしてあげた。彼はそれを恥ずかしそうに嫌がる。でも、少しうれしそう。そんなやり取りをしながら、私達はようやく玄関から部屋に向かった。それから私達はたくさんたくさん話をした。方研のこと…就活のこと…などいろいろ話した。それでも話題がつきない。二人で話しているという事実が楽しくてたまらない。この日は亀池君が弓道で茨城に遠征しているので、そのまま、朝まで二人で過ごした。私は彼から元気をもらった。これでまた新しい気持ちで就活や卒論に励める。彼は私の元気の源である。

 新学期が始まってからすでに二週間が過ぎた。四月もすでに終盤にさしかかり、みんなの話題は「ゴールデンウィーク」で持ちきりだった。今年は日程がよく最大で九連休取れるらしい。

 でも、私は就職活動でそれどころではなかった。連休明けには次から次へと就職試験が始まる。就活を始めたのが三年の一月からと出だしが遅かった私はこれからが勝負である。去年の夏から始めている人の中には四年になってすぐに内定をもらった人もいる。人のことをうらやましがっていても、何も始まらない。私は私なりに頑張るしかない。

 それでも、一時期に比べて時間のゆとりができた。今までみたいに毎日のように就職説明会に行くことはもうない。私は外食産業や接客業が自分に向いていると思ったので、これらを中心に試験や面接を受けることに決めたからである。

そのため、連休中は武とたくさん会うことができた。久々に六本木ヒルズや原宿、さらに足を伸ばして横浜までデートしてきた。二人っきりで遠くへ行くのはクリスマス以来だった。武の話によれば、島崎さんには新しい彼氏ができたとのことだった。何でも同じ学科の先輩に相談しているうちに、付き合うようになったらしい。

『今まで迷惑かけてごめんね。今までありがとう』

と言う言葉と共にこれまでの成り行きを武にメールで説明してきたらしい。それが三日前のことであった。どこまでも自分勝手な女性だ。でも、これで私達の間に変な女がつきまとうことはもう無いだろう。

 また、今年度から方研は時代に合わせて、方針の大転換をしたことを武から聞いてびっくりした。「もちろん、変わったのはそれだけじゃないでしょ?」

「もちろん、まず、方研創立以来一八年そのままだった活動方針が新しくなったよ。なんか、後世にしっかりしたものを残そうってことで法律文のような堅苦しくて長々とした文になってしまったからね。それと共通語も元をたどれば、さまざまな地方の方言の寄せ集めに過ぎないから、その起源についても調べていこうと言う事になってね…。」

「方研を引退してから、急に一〇年分ぐらい先に進んだみたい…もう別世界だね。」

 私達がこんなにたわいのない話をしている間にも、世の中はどんどん進んでいくし、変化していく。私達はその進化や変化にきちんとついていけているだろうか? 世の中の流れに追いつくのがやっとで、ちょっと気を抜けば、その背中を見失ってしまいそうな中、精一杯その足を進めるしかないのである。

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