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あとぜき!  作者: あまやま 想
1年目
11/26

未練たらたら

主人公:山畑つくし

 二月に入ると関東地方は雪に覆われた。何でも百年に一度の強い寒気が北極から直接流れ込むような状態が続いているらしい。そのため、東京でも二〇センチも雪が積もっていた。日本海側では四メートルを超える積雪を観測した所もあった。各地でそれまでの積雪記録を更新した。

 外で雪が降り続くのが窓から見えた。私は今、武の家にいる。暖かい部屋で二人、楽しい会話をしているならいいけど、そうではなかった。武の身の回りで起きている問題を解決するために二人で考えていた。去年の秋から武に思いを寄せていた島崎加与が最近また武に電話を頻繁にしてくるようになったらしい。

 彼女はもともと武の友人・亀池君と付き合っていた。しかし、武は彼女に対して密かな思いを抱き続けた。一方で亀池君との友情を壊したくない武は二人の仲を見守るような立場を守ってきた。その後、島崎は亀池君と別れてから、武に好意を抱くようになった。私達が付き合う前、彼女は武にアプローチをかけていた。実際、その現場を私は偶然にも目撃している。

 行動力のある彼女のことである。武も私もこのままではいけないと思い、私は彼に対してメルアドを変えるように以前勧めていた。その後、かれはすぐにメルアドを変えた。しかし、それから彼女からの電話が頻繁にかかるようになったのである。そこで彼の携帯番号を変えるように勧めたが、今度はメルアドのように簡単にいかない。

「ここまできたら、直接会って話をつけてくるしかないかな…。俺、島崎さんと会ってくるよ。このままでは迷惑だし…」

 私は少し戸惑った。武を信じていないわけではないが、武と付き合いたいと思っている人と二人きりにするのは少し抵抗を感じた。しかし、島崎と話し合わないといけないことはわかっていた。そのとき、私はひらめいた。

「だったら、そこに私も連れて行ってよ。別に武を信じられないわけじゃないけどさ…その子と二人きりにさせるのは不安ばい。それに私がいれば、それだけ圧力がかかるけんね」

「なるほど、確かにそうだね。つくっちゃんが来てくれると助かるよ」

 とりあえず、二人の話がまとまったので、私はベランダに出て、タバコに火をつけた。武の部屋には私のために灰皿があった。でも、部屋で吸うのは悪いと思い、いつも灰皿を持ってベランダに出て行った。彼は気にしなくていいよといつも言ってくれるけど、普段タバコを吸わない彼のために私はベランダに出た。外は雪が降り続いていた。


 二月一四日の夕方、大学近くのジョイフルに武と一緒に向かった。私達がここに着いたときにはもうすでに島崎加与がいた。くりくりとした大きな瞳。栗色のショートロングを二つに分けて束ねて、流行の服で体の線をさりげなく強調。男性にはすごく好かれるだろうけど、女性には間違いなく嫌われるだろうと言うのが、彼女の第一印象だった。

 彼女は武には甘くて優しい視線を送っていた。しかし、私を見るなり、武にわからないように私をにらみつけていた。私はあえて無視した。彼女の挑発に乗る必要は全くないのである。彼女があせっているのが手に取るようにわかる。彼女は私が来ることを全く知らなかった。武はきちんと知らせておくべきだと言っていたが、私は絶対に知らせないように念を押していた。私の言う通り、彼は彼女には伝えなかったようである。

「島崎さん、僕には今、付き合っている人がいるんだ。確かに昔、君のことが好きだったけど、今は違う…。もう、君に片思いしていた頃の僕じゃないんだよ」

 彼の最初の一言がとても頼もしく思えた。彼の心には少しも、彼女に淡い思いを抱いていた頃の心は残っていなかった。彼の心には私しか映っていない。それでも彼女はひるまなかった。

「確かにそうかもしれない。でも、私は大津君のことが好きになってしまったから仕方ないじゃない。もし、もっと早く大津君のよさに気付いていたら、私、大津君と付き合っていたと思う」

 なんてムシのいい発言なんだと私は思った。前、付き合っていた人とうまくいかなくなったから、たまたま武のよさに気付いただけのくせに…。

「そんなことを言ったって、高校の頃からつい最近まで亀池と付き合っていたじゃないか。そんな状況で僕は何度も自分にあきらめるように言い聞かせたことか…。今の状況を作り出したのは全て、島崎さんでしょ? 亀池と付き合うことを決めたのは島崎さんでしょ。自分で選んだことぐらい自分で責任取れよ」

「じゃ、どうして私をずっと思い続けたの? その責任を取ってよ」

「何を言っているの? どうして片思いをした責任なんか取らないといけないわけ? 意味がわからない。お願いだから、もっと考えてからしゃべってくれない?」

 その後も武はずっと正論を主張していた。それに引き換え、島崎ときたら自分の都合でしかしゃべらないので、ますます自分を追い込んでいくことになった。そのうち、彼女は目をうるうるさせて泣き出しそうになった。この女、何をやってもうまくいかないと見るや、泣き落としで強引に自分の主張を通そうとしている。さすがにそんなことをされたらたまらない。武の肩を叩いて、もう帰ることにした。結局この日、私は一言も話すことなく終わってしまった。

 外はすっかり真っ暗になり、とても冷え込んでいた。私達は夕食をどうするか楽しそうに話しながら、ジョイフルを出た。すると、その横を勢いよく島崎加与が走り去っていった。鉄の階段をカンカンと勢いよく音を立てながら、彼女は暗闇に消えていった。

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