破「ホームルーム」
地球が宇宙人によって滅ぼされるとされる日が、ついに明日になった。
世界中の人間が明日死ぬのだと思っても、あまり実感は湧かなかった。布団から起きてカーテンを開くと、見るからに暑そうな晴天で、蝉の鳴き声も聞こえた。毎年やってくるただの夏の一日だ。そんな日常が明日突然終わるなんて、うまく想像できるわけもない。
学校に向かう道中、何人か見かけた島の人たちは庭掃除をしたり、洗濯物を干していた。車だって普通に道路を走り、赤信号では列をつくって止まっている。みんな自分の日常をただ淡々と過ごしているだけのように見えた。
勿論、クラスメイトの殆どは登校していないし、多くの人達が島を出て行った。彼ら彼女らが今どこで何をしているのか知らないが、この島に残った人達はとある夏の一日を、いつもと変わらぬように過ごしている。
今日も登校してきたクラスメイトは同じ五人のメンバーだった。
チャイムが鳴って、朝のホームルームが始まる。担任の糸土健が教壇に立ち、教室を見回した。
「えー遂に、明日が地球の最後の日だ。明日、我々は死ぬだろう。そんな日の前日に、こうして変わらずにこの教室に登校してきてくれてありがとう。奥海、鈴根、多々峰、野崎、吉華。お前たちが毎日登校してくるから、俺は最後までこうして教師でいられた。お前たちが登校するのに、俺が逃げ出すわけにはいかないからな。改めて礼を言うよ。ありがとう」
糸土は深く頭を下げた。
「だけど、今日はもうお前たちは帰れ。一日自習だ。後悔しない最後の一日を過ごせ。俺も、もう家に帰るよ。六歳の娘がいるんだ。今日と明日ぐらいは、家族と最後を過ごしたいんだ。明日は土曜日。学校はないからな」
教室の誰も何も言わなかった。だが、それが否定を現していないのは明らかだった。どこか頭の中でこんな日が来ることを覚悟していたのだ。それが最後の最後にやってきただけ。ただそれだけのこと。むしろ、ここまで変わらぬ日常を送らせてくれた糸土には感謝しかない。
みんな無言で帰る支度をし、教室をでるときに「有難うございました」とだけ言って各々が何処かに歩いて行った。
背中から「皆んな、元気でな」と糸土の声が聞こえて、少し寂しくなった。




