「内緒だよ」
海の向こうに沈んでいく夕日を眺めていると、体温が二度下がったようなどこか寂しい気持ちになった。今日も一日が終わってしまう。
いつの頃からだっただろう。学校が終わると、こうして防波堤に座って海を眺めるのが日課になっていた。
「こんな所で何してんの、野崎くん」
声がした方を向くと、同じクラスの奥海咲さんが立っていた。一体いつからそこにいたのだろう。声をかけられるまで、全く気が付かなかった。
「ぼーっと海を見てるだけだよ。どうせ、もう十日でこの世界も終わるしさ。そう思ったら、何もやる気が起きないしね」
「ふーん」と言いながら、奥海さんが僕の横に座った。チラッと横を見る。奥海さんの髪の毛に夕陽が反射して、髪が光を纏っているかのように輝いて見える。
「ほんと実感ないよね。世界が終わりますとかさ。なんか笑える」
彼女は可笑しそうに笑った。
一年前、東京、ニューヨーク、ドバイ、台湾、パリの上空に巨大な宇宙船が現れた。そして、それぞれの都市を一夜にして壊滅させた。世界中が混乱に陥ったのは言うまでもない。
一体何が起こっているのかを把握しようと、世界が躍起になっている中、一本の動画がYouTube上で公開された。それは宇宙人から地球人に向けた動画だった。
映画とかネットでよく目にするグレイ星人が、人間の女性の声で流暢な英語を話していた。
宇宙人もYouTubeって使うんだなーと思いながら、僕は動画を開いたのを覚えている。
「この星の何処かにあるはずの『第七宇宙』を探している。今回攻撃した都市に『第七宇宙』が存在しないことは分かっている。この星の何処かに隠されているそれを差し出さない限り、我々は地球全土に攻撃を行い人類を皆殺しにする。一年後、太陽を周回して再びこの位置に戻るまで、我々は見ている。一年以内に差し出せ。それだけだ。繰り返す…」
とても短い動画だったが、それは世界中に衝撃を与えた。
そらから一ヶ月毎に、主要な都市が宇宙船の攻撃を受けた。ロンドン、シンガポール、モスクワなど。宇宙人の圧倒的な力によって、三十分も経たずに様々な都市は壊滅した。
人類に成すすべなどなく、そもそも『第七宇宙』が何なのかも人類には分からないまま、時間だけが過ぎた。
後、十日でちょうど一年になる。
「宇宙人って本当にいるんだね。映画の世界だけだと思ってたから、未だに信じられない自分がいるんだよね。もう宇宙船が現れて一年も経つのにさ」
今まで、実感がなかった。
ここは本土から切り離された離島で、宇宙人の情報はインターネットとかテレビの映像からしか得られないし、壊滅した東京を実際にこの目で見たわけじゃない。こんな島からでは空の上に宇宙船だって飛んでない。様々な情報が非現実的過ぎて、現実味がなかった。
それでも、終わりがそこまで見えてきて、やっと怖さが湧いてきた。
奥海さんは防波堤の上に立ち上がった。スカートが風に吹かれて踊るように揺れる。彼女は僕の顔を見て笑った。
「後十日で、この地球が滅亡するらしいから、野崎君に私の秘密を教えてあげる。同じクラスの友達として」
今まで奥海さんと関わることがなかったから、友達として認識されているのが意外だった。
人差し指が、まっすぐ空に向けられる。
指の指し示す先を見ると、夕暮れ空に点在する星々の煌めきがあった。
「私は宇宙人なんだ。あの宇宙から、この地球にやってきたの!」
「そう、なんだ…。奥海さんは、宇宙人だったのか。全然気が付かなかったよ」
奥海さんの冗談だと思った。こ彼女なりのユーモアなんだと、そう思った。
「これ、誰にも言ったら駄目だからね。一応これは秘密にすることになってるから」
「う、うん。分かった。誰にも言わない」
宇宙人の攻撃まで、後十日。
この日、僕は奥海さんのよく分からない秘密を知ったのだった。




